2008.10.02
高学歴ワーキングプアのキャリアチェンジを考える
博士たちのワーキングプア」、「「高学歴ワーキングプア」問題を解く方法を考えてみた」につづいて3日連続になりますが、今日も「高学歴ワーキングプア」ネタで。

いくつかいただいた反響を紹介しつつ、私の考えの補足など書いてみたい。

Global Voices Online - Japan: Part-time University Teachers among Working Poor
http://globalvoicesonline.org/2008/10/01/japan..

以前「西洋人にとって外国語の習得は「マッピング問題」にすぎない」で紹介したクリス・サルツバーグさんが、Global Voices Onlineでこのネタを採り上げてくれた。

ワーキングプアは先進国で共通に見られる問題のようなので、日本の状況をこうやって英語で発信すれば、これを興味をもって読んでくれる人が世界のあちこちにいるのだろう。

Global Voices Onlineやサルツバーグさんについての紹介は、アンカテの「GlobalVoicesの中の人に会って来ました」などを参照してください。

次に、たつをさんからの反応。

たつをのChangeLog - いわゆる高学歴ワーキングプア
http://chalow.net/2008-10-01-1.html

<「やりがい搾取」みたいなものなのかなあ。研究自体は楽しいと思うし>。

「やりがい搾取」って、私は初めて聞いた。
「面白いんだから、給料安くてもガマンしろ」みたいなやつのことだろうか。
音楽や映画、ファッション、美容、アニメなど、華やかだったり、趣味性の高い業界では、このパターンはよくありそうだ。
まあ実情としてはおそらく、搾取という以前に、ほんとうにカネが回らないケースが多いのだろう。

<将来を考えると「分野の選択」が重要なんだけど、その分野が「やりたいこと」と乖離するとそもそも楽しくないしなあ>。

好きを仕事に」できるかどうかは、何を好きになるかにかかっているのかも。

<私はIT系なので大学院で学んだことがそのまま会社の仕事に生かせるのでいいんだけど>。

この点、ITが好きでITを専攻した人は、ホント幸運だと思う。
逆にいちばん「食えない」のが、たぶん人文系・芸術系だろう。

そして、gamellaさんからの反応。

Future Insight - 「博士たちのワーキングプア~ひとコマ2万5千円~」を見ました
http://d.hatena.ne.jp/gamella/20081002/1222875591

<このドキュメンタリーで問題にしている社会的に基本的需要がない文系の研究職ですが、逆にこの文系研究のパーマネントはこのドキュメンタリーくらい競争が厳しくないとおかしいと思うんですよね。生半可のレベルの研究で「中米ニカラグアの歴史」というテーマに資金が投下されても困る訳です。そんなわけで、まぁ、これくらい競争が激しくてもしょうがないかなと感じました>。

これは私も同感。私は国家や税金を最小にすべきと考えているので、研究に税金を投入するなら、研究テーマや研究者は厳選すべきだと思う(すべて民間ベースになるのが理想)。

私は高学歴ワーキングプアの人たちに、人間として共感できるところがある。また、「人間の才能」こそもっとも有効活用されるべき「資源」だと私は考えているので、その観点からこの「高学歴ワーキングプア」問題に興味をもっている。しかし、「税金を投入して高学歴ワーキングプアの人を救うべきだ」とはまったく考えていない。

そして私の「「高学歴ワーキングプア」問題を解く方法を考えてみた」に対して、gamellaさんはこう書いている。

<上のエントリーではこの問題の対策を就職、起業、転身サポートで論じています。ちょっとよくわからないのですが、このドキュメンタリーに登場していた人たちって就職とか起業とかする気あるんですかね。文系の大学研究職以外に基本的な興味がないのでは>。

これについても、実は私も同じように考えている。どんなに生活が苦しくても、現状ではとにかく大学研究職しか眼中にない人がたぶん多いだろう。

しかしこれは、「大学の外の世界」が見えていないから、そういう狭い判断になっているという面も大きいと思うのだ。「大学の外の世界」も知っていて、意識的に大学を選んでいるなら意志は固いが、「大学の外の世界」を知らないまま、自分の可能性を狭めてしまっているという人もかなりいると思う。

それに研究職といっても、純粋に研究だけしてお金がもらえる人というのはほとんどいないんじゃないだろうか。お金がもらえるのは、研究ではなく、授業で教えるという「教育サービス」に対してだろう(大学というもののビジネスモデルを考えれば、研究を売っているのではなく教育サービスを売っているので、お金がもらえる根拠は「教育サービス」のほうにある)。

そう考えると、本来やりたいことである「研究そのもの」だけではお金をもらえないのなら、食うための仕事が「教育サービス」だろうが、コンビニのバイトだろうが、ITだろうが、本質的にはあまり違わないような気がするのだ。

<この自分の専門領域を半分飛び出し転身するっていうことを、ITやシステムとしてどれくらいサポート出来るかというのは確かに面白いテーマです>。

そう、私もこれが面白いと思う。これまでは大学や研究しか眼中になかったけれども、「半分飛び出し転身」してみれば、さらに才能が大きく開花する、という人はかなりいるだろうと私は考えている。

その気づきの「きっかけ」は、税金を投入した職業訓練などよりもむしろ、SNSやソーシャルブックマークのようなITシステムが作る「場」だったり、ブログがつくる「ネット世論」だったりすると思うのだ。