2008.11.22
可能な社会を想像する
Chikirinの日記 - 2024年 F本氏の独白
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20081122

2024年、東京近郊のS市を「格安生活圏」として再構築することに成功した市長F本氏が、2012年からの12年間で自分がおこなってきた市政を回想する話。

<様々な施策によって“格安生活圏”として、しかも、東京まで40分程度、という立地のS市は、海外からの留学生や働き手の“最初の居住地”として選ばれることが多くなった。市内には中国や韓国からの留学生、インドネシアやフィリピンからの介護支援要員達がたくさん住んでいた。そのうえ、短期的に東京観光にやってくるバックパッカー達も多くがS市を拠点に東京観光をするようになった>。

<最初は住民達との細かいぶつかり合いがたくさんあった。しかし住民達が環境に慣れるのに時間はかからなかった。5年もするとこれらの人たちを相手に商売をしようという人たちもたくさん現れた。ボランティアも多くなった。街には格安で中華料理、韓国料理、インドネシア料理などが食べられる食堂がたくさんある。街角で話される言葉も本当に様々だ>。

もうひとつの解」、「“格安生活圏”ビジネス」の2回にわたって書かれていたChikirinさんの「格安生活圏」構想を、小説形式で具体的にイメージ化したもの。まるで本当の話のようにリアルなので、もしかしてChikirinさんが、このF本氏になるのでは?と考えてしまった。

また、はてなブックマークで人気になっている次のエントリも面白い。

福井プログラマー生活向上委員会 - 書店は入場料を取って良い
http://chikura.fprog.com/index.php?UID=1227163619

書店が200円くらいの入場料を取って、立ち読みも積極的に歓迎すればいいのでは、というアイディアだ。

<システム的には、入る際に200円を払うか、出る時に払うかの2パターンが考えられるが、お勧めは入場時だ。なぜなら、出る時というのは約束の時間などがあったりで、急いでいる場合が多いからだ。そこで待たされるのは勘弁して欲しい。そして入場時に当日限り使える200円割引券を渡せば良い。この券は、当日の再入場に使えるようにしても良いだろう>。

<ベストなのは、これらのシステムを磁気カードにしてしまい、自動改札にすることだろう(もちろん、駅の改札のように、人間が対応する改札と紙の割引券も用意するが)。磁気カードには店内&店外機からお金をチャージすることができる>。

<入場料を取る代わりに、店内にはソファなどを多く置き、ゆっくり立ち読みできるようにする。コミックはすぐ読めてしまう為、立ち読みで済ませてしまう人もいるだろうから、コミックのカバーについては、全巻ではなく第1巻だけ外して他はつけるようにすれば、キレイな本を求める人にも、買う前に内容を確認したい人にもアピールできるだろう>。

このエントリのブックマークページでもさまざまな議論が出ており、賛否いずれにしても、このエントリが読者のイマジネーションや問題意識を刺激していることは間違いない。

Chikirinさんの「格安生活圏」構想は行政レベルの話なので、そうかんたんに実現できるとは思えないが(私はもちろん実現してほしいと思っている)、入場料を取る本屋は、民間で完結する話なので、どこかの本屋がやろうと思えば、(うまくいくかどうかは別として)それほど障害はなさそうに思える。

しかしこれらはいずれも、「ビジネスモデル」の話だという点で共通している。入場料を取る本屋がビジネスモデルの話であることは明らかだが、「格安生活圏」構想も、東京近郊のS市が採用した戦略であり、「ビジネスモデル」なのだ。

行政の場合、何が良いビジネスモデルなのかについて、事前に理屈で決着をつけることができない。実際にやってみて、「生き残る」ものが良いビジネスモデルなのだ。だから、地方にもっと権限を委譲して、それぞれの自治体がさまざまなビジネスモデルを試せるようにすべきなのだ(「さまざまな「社会設計」の自治体が競争するメタ社会」)。東京近郊のS市のような「格安生活圏」があってもいいし、シリコンバレーのように高付加価値な労働者が集中するリッチな生活圏があってもいい。福祉も手厚いが税金も高い北欧のような生活圏や、すべて民間ベースで税金も安い生活圏など、個性あふれるいろいろな生活圏があるべきなのだ。こうなっていれば、住民は自分の考えやライフスタイルにいちばんフィットする生活圏を選べる。これこそが「自由」なのだ。

またいまの日本では、行政レベルで中央集権的なだけでなく、全国どこへ行っても同じチェーン店、「同じ風景」があるように、民間レベルでも均一化・画一化が進んでいる印象がある。これは日本的な横並びマインドに根ざす部分や、マスコミの影響などもあるだろうが、行政レベルで中央集権的になってしまっているために、地方に権限も財源もなく、特徴を出しにくいという面もあるのだと思う。もっと地方分権が進んで、規制の作り方や税制、優遇する産業などで個性が出せるようになれば、きっと面白くなってくるだろう。人の流れも変わってくるはずだ。

いまの日本社会には、「古い設計」がたくさん残っている。「可能な社会」をもっと想像して、設計を改善しよう。


関連エントリ:
さまざまな「社会設計」の自治体が競争するメタ社会
http://mojix.org/2008/11/03/meta_society