2008.11.27
麻生首相の「何もしない人の分を何で私が払う」発言は、根源的な問題提起になっている
asahi.com - 「何もしない人の分を何で私が払う」医療費巡り麻生首相(2008年11月27日1時45分)
http://www.asahi.com/politics/update/1127/TKY200811260392.html

<「たらたら飲んで、食べて、何もしない人の分の金(医療費)を何で私が払うんだ」。麻生首相が20日の経済財政諮問会議で、こんな発言をしていたことが、26日に公開された議事要旨で明らかになった。自らの健康管理を誇ったうえで、病気予防の重要性を訴えたものだが、保険料で支え合う医療制度の理念を軽視していると受け取られかねない発言だ>。

<首相は社会保障費の効率化の議論の中で「67、68歳になって同窓会に行くと、よぼよぼしている、医者にやたらかかっている者がいる。学生時代はとても元気だったが、今になるとこちら(首相)の方がはるかに医療費がかかってない」と指摘。自ら日課にしている朝の散歩が役立っているとしたうえで、「私の方が税金は払っている。努力して健康を保った人には、何かしてくれるというインセンティブがないといけない」と強調した>。

これは根源的な問題提起になっていて、面白い。

「何もしない人の分を何で私が払うんだ」という疑問は、「なんで自助努力できる人間が、自助努力できない人間まで助けなきゃいけないんだ」というタイプのもので、これは医療保険だけでなく、強制的な再配分にかかわるあらゆる場面で出てくる一般的な疑問だ。そして、これに対する反応はいつも真っ二つに割れる(反対意見としては、「また自己責任論か」「自助努力できない弱者もいる」等)。

この疑問を突き詰めれば、「なんで私の払った税金が、私に関係ないところに使われるのか」という疑問になり、そして「なんで税金を払わなければいけないんだ」に行き着くだろう。麻生首相、案外リバタリアンかも?こういう「失言」ならジャンジャンやってほしい。

すべてを自己責任論に帰することはできないにしても、日本は全般的に、努力した人間が報われず、努力しない人間が甘えられる悪平等的なシステムになっていることは間違いないだろう。ほんとうに問題を解決するには、弱者を甘やかすのではなく、弱者を成長させる仕組みが必要だ(例えばグラミン銀行のように)。これは制度設計の話であり、麻生首相は「インセンティブ」という言葉を使っていることから、この問題を正しく捉えていることがわかる。

制度設計とは、まさに「インセンティブの設計」だ。そしてこれが、日本にもっとも欠けているものなのだ。単に強者から弱者に再配分するという制度設計では、強者はバカらしくなるし、弱者も甘えてしまい、双方とも努力するインセンティブを失う。これでは全体が沈んでしまうわけで、これがいまの日本だ。強者も弱者も、もっと努力しようというインセンティブが生じるように、仕組みを設計する必要がある。


関連エントリ:
わたしたちはつねに「インセンティブの場」を動き回っている
http://mojix.org/2008/10/29/incentive_field
フェアな競争こそが、価値と生産性を引き出す
http://mojix.org/2008/10/18/fair_competition