2009.04.17
益川敏英「重要なのは何をやるかではなく、その瞬間に大事と思うことに全力で取り組めるかということ」
asahi.com - 益川さん「勉強よりstudyを」 母校で語る(2009年2月8日18時17分)
http://www.asahi.com/science/update/0206/NGY200902060022.html

<「知ることの楽しみ方を覚えて」。ノーベル物理学賞を受賞した京都産業大教授の益川敏英さん(69)と、高エネルギー加速器研究機構特別栄誉教授の小林誠さん(64)が6日、それぞれの母校である名古屋市内の高校で講演し、後輩を励ました。また、愛知県から学術顕彰、名古屋市から学術表彰を受けた>。

少し前の記事だが、素晴らしい内容なので紹介。

<「学問は、より多くの自由を獲得するための作業だ」。エジソン、ヘーゲル、福沢諭吉、パスツールとファーブル。歴史に残る多くの学者を引き合いに出しながら、益川さんはまず「私たちはなぜ学ぶのか」を語った>。

学ぶのは「より多くの自由を獲得するため」。素晴らしい言葉だ。

<「いまは非常に変化の激しい時代。私たちはその変化の法則を読み取り、10年、20年先を読み取る力が必要です。学校で教えられていることにその芽があるはず。勉強という言葉には苦しみを強いる意味があって私は大嫌い。でも英語studyの語源には知る楽しみという意味がある。本来、知ることは楽しいこと。ぜひ楽しみ方を覚えてください」と熱弁を振るった>。

これはまったく同感。「学ぶ」ことにとって、「楽しい」ことがいかに重要か、いくら強調してもしすぎることはないと思う。

「ぜひ楽しみ方を覚えてください」と言われて、高校生はどう思っただろうか?「はい、わかりました」と言って、勉強を楽しめるなら苦労はない。「学習とは何がおもしろいかに気づくこと」であり、「楽しいと思えることが才能」なのだ。「楽しみ方を覚えてください」という言葉は、示唆に富んでいる。

<1年生の男子生徒が「研究者になるのを迷いませんでしたか? 僕はいろいろ興味があって迷っています」と尋ねると、「私も数学か物理か迷ったし、大脳生理学の勉強会も開いた。重要なのは何をやるかではなく、その瞬間に大事と思うことに全力で取り組めるかということ」と励ました>。

この言葉もいい。「重要なのは何をやるかではなく、その瞬間に大事と思うことに全力で取り組めるかということ」。一見、わりとあたりまえの言葉のように聞こえるが、「何をやるか」は重要ではなく、「その瞬間に大事と思うこと」に「全力で取り組めるか」が重要、というのがポイントだ。これは前の「知ることは楽しいこと」の延長上にありつつ、次に出てくる言葉につながっている。

<最後に「学者になるのも一つの道だが、人生にはいろんなことがある。努力を惜しみなく傾注できる道を発見してください。そしてこの道は違うと思ったら、躊躇(ちゅうちょ)する必要はない。120%の努力を傾注してもなお楽しいなら、新しい道を進めばいい」と後輩へエールを送った>。

楽しめること、全力で取り組めることが重要であって、もし「この道は違う」と思ったら、「躊躇(ちゅうちょ)する必要はない」、道を変えろ、と言っているのだ。

益川氏が言っていることを要約すれば、夢中になれることをやりつづけろ、もし夢中になれなくなったら、夢中になれるものに道を変えろ、ということになる。これは「自分が楽しい」ということに最も価値を置けば、自然に導かれる行動原理だと思う。

「楽しみ方を覚える」ことは、実はそんなにかんたんではない。勉強でも仕事でも、好きでもないこと、つまらないことをやるのは、特に才能もいらないし、無理にやろうと思えばできる。しかし、「好きになる」とか「楽しむ」ということは、無理やりできるものではない。その意味で、もし何かが心底好きで、楽しめるのであれば、それは一種の「才能」であって、それにめぐりあえたこと、その自己の「才能」を見つけられたことは、幸運だと思う。

「自分が楽しい」ことを追いつづけるという行動原理、いわば「エンジョイ主義」は、その意味で、「自分の才能をのばす」という行動戦略でもある。この行動戦略は、いい学校・いい会社に入ればOKという「身分主義」や、歯をくいしばって努力すればいいという「努力主義」などに対置されるだろう。そしてこの「エンジョイ主義」という行動原理=行動戦略が、対外的な競争戦略、社会での生存戦略としても有効になりつつあるのが、いまの時代(梅田望夫氏の言う「ウェブ時代」)だと思う。つまり、「好きな奴が勝つ」のだ。


関連:
ウィキペディア - 益川敏英
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9B%8A..
ニュースでも採り上げられた「(ノーベル賞は)大してうれしくない」発言や、英語が苦手で、学会招待なども断っているなど、「キャラ立ち」ぶりが面白い。

関連エントリ:
「楽しくない」と感じたなら、飛び出したほうがいい
http://mojix.org/2008/09/15/when_to_jump_out
好きなことは仕事にすべし
http://mojix.org/2005/01/06/234745
「好きな奴が勝つ」定理
http://mojix.org/2004/03/16/231002
学習とは何がおもしろいかに気づくこと - ワーマン 『情報選択の時代』
http://mojix.org/2003/10/12/2158