2009.05.04
「辞書引き学習法」の衝撃
産経ニュース - 国語辞書が小学生に大ブーム(2009.4.21 13:14)
http://sankei.jp.msn.com/life/lifestyle/090421/sty0904211316004-n1.htm



<小学生の学力低下が問題となるなか、国語辞書がブームになっている。辞書市場は、少子化や電子辞書の普及で縮小傾向にあったが、調べた言葉に付(ふ)箋(せん)をはる「辞書引き学習」というユニークな学習法をきっかけに注目度がアップ。出版各社も、軽量化や耐久性向上など小学生向け辞書のテコ入れを図り、売り上げが倍増する辞書も出ている>。

<「辞書引き学習」を考案したのは立命館小学校(京都市)の深谷圭助校長(43)。「この学習法は知的好奇心を身に付けるのに役立つ。遊び感覚でやる気を引き出し、やればやるだけ自信にもつながる」と話す>。

少し前に見たこのニュース。「これは面白い」と思っていたのだが、「これはすごい」という確信に変わってきた。

<学習法は簡単。(1)机の上にカバーを外した状態で辞書を置いておく(国語の勉強時間以外も)(2)引いた言葉を付箋に書いて、そのページにはる>。

<あとは好きな言葉、気になる言葉を引いていくだけ。「頑張った分だけ付箋が増え辞書はふくらむ。目に見える成果が出ると、子供たちはますます引きたくなるものです」と深谷さん>。

やり方としては、たったこれだけなのだが、これがなぜすごいのか。

付箋による「見える化」で、達成度が見えるので、ゲーム感覚でやる気になるというのが基本線で、もちろんこれは大きいだろう。

しかしそれ以上に、<国語の勉強時間以外も>机の上につねに置いておくというのが、ちょっとした「革命」だと思うのだ。どの授業のときにも、机の上に「紙のウィキペディア」があって、それをいつでも引いているようなものだろう。

辞書は「ランダムアクセス」なので、教科書と違って、どこからでも拾い読みできる。授業や教科書では、「理解の流れ」を強制させられるが、辞書は勝手に引くことができる。

日本の学校教育はインプット偏重で、「一方的に知識を叩き込む」スタイルだ。これをもっとアウトプット志向にして、書いたり、しゃべったり、発表したりする機会を増やすべきだが、たしかにそれは敷居が高いところもある。

その点、辞書を引くという「自分で調べる」スタイルは、黙って聞いているインプット型よりも主体的・積極的になれると同時に、アウトプット型ほど敷居が高くもない。先生にとっても、生徒が勝手に辞書を引くのを許すだけでよく、「教える」必要がない。

学習では、「自分から学びたいと思う気持ち」が決定的に重要だが、ただ先生の話を聞くだけの学校教育では、この「気持ち」に火をつけることが難しい。机の上に辞書を置いておき、それをつねに引くというシンプルな作業だけでも、「自分からやる」というアクションがつねに起こることになり、そのことで「興味のエンジン」が回り始める。これは決定的な違いを生むはずだ。

<辞書引きによる学習意欲の向上について深谷さんが3年前に著した「7歳から『辞書』を引いて頭をきたえる」(すばる舎)は、教育関係の書籍では異例の発行部数8万5000部を突破。これまでに全国で少なくとも350校が学校単位でこの学習法を導入しているという。小学校指導要領では、国語の「辞書を利用して調べる方法を理解すること」は3、4年生の指導項目だが、1年生で辞書引きを始める小学校も>。

ぜひ1年生から、辞書を引きまくる小学校がもっともっと増えて欲しい。

辞書引き学習によって「調べる」ことが習慣化した子供がどう育つか、面白い例が紹介されている。

Sanseido Word-Wise Web - インタビュー「辞書引き学習」の深谷圭助先生2
http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/wp/2009/04/24/%E3%82%A4..

<小学1年生のときに担任した子どもたちを、中学3年になったときに再び担任するという機会があったんですね。クラスの係で、ある子は社会科係になって、自分たちで取材して新聞にまとめるという活動をしていたんです。
 その新聞をつくる際にですね、そのとき社会科は公民をやっているのですけど、時事問題と引きつけて、自分で取材したり、新聞に出てくるキーワードを辞事典で調べたり、実際にマスコミや中央省庁に電話をして尋ねたり、そういう自分たちの手で調べ、取材し、要点をまとめて、わかりやすい情報の発信のしかたをするということを、一年間続けていたんですね。小学1年で辞書引きをしているから、調べることは全く苦にならない。中3にもなって受験以外の係活動に熱心になっていたので、おうちの方はもしかしたら心配していたのかもしれませんが(笑)、学習そのものが生活になっているその様子は、辞書引きがあってこそなのだと思いました。
 自ら知識を求め、その知識が連鎖していく。彼・彼女らにとっては、たとえばテストでいい点をとるとか、難易度が高い高校に入るとかといったこととは別の価値観で、学習そのものが、学習という意識がなく実現されている、むしろ自分たちにとって大切にしたいことなのだと確信しました>。

これはすばらしい。中3で<マスコミや中央省庁に電話>というのも面白いし(笑)、<テストでいい点をとるとか、難易度が高い高校に入るとかといったこととは別の価値観で、学習そのものが、学習という意識がなく実現されている>というのは、まさに教育の理想であって、「究極の価値」を伝えることに成功していると思う。

「机の上に辞書を置く」という、たったそれだけで、日本の学校教育を激変させる可能性がある。これを突破口として、受け身偏重の学校教育を打ち破る「教育ビッグバン」のような動きが起きてきたら、日本も面白くなってくるかもしれない。


関連:
ウィキペディア - 深谷圭助
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B7%B1%E8%B0%B7%E5%9C%AD%E5%8A%A9
Sanseido Word-Wise Web - 深谷圭助
http://dictionary.sanseido-publ.co.jp/wp/tag/%E6%B7%B1%E8%B0%B7%E5%9C%AD%E5%8A%A9
くもん出版 - 国語辞典特集 立命館小学校レポート
http://www.kumonshuppan.com/special/068/

関連エントリ:
学習とは何がおもしろいかに気づくこと - ワーマン 『情報選択の時代』
http://mojix.org/2003/10/12/2158