2009.05.20
ビートたけし、タモリ、みのもんたという芸能界の大御所が、最近になっていっそう精力的に仕事し始めたのはなぜか?
先日テレビをつけたら、やしきたかじんの番組をやっていて、「ビートたけし、タモリ、みのもんたといういずれも60代の大御所が、最近になっていっそう精力的に仕事し始めたのはなぜか?」といったテーマで話していた。

ビートたけしタモリみのもんたクラスの大物になると、1回のテレビ出演料は200~300万円くらいが相場らしい。そこからテレビの仕事とCMの仕事などをあわせた年収を推計して、年収はおそらく数億~十数億円くらいだろう、と予想していた。

私は芸能界のことはまったく知らないが、この数字はたしかにそのくらいだろうな、という気がする。

数億~十数億円というとすごい稼ぎに思えるが、まずこれは個人の「年収」でなく、実際は「会社(所属する芸能事務所)の売り上げ」だと思われる(テレビ局側が「ギャラ」として払っている金額)。すると、そのうち個人に入ってくる「年収」はその半分もないだろう。さらにそこから税金などを引かれていって、その半分くらいになるだろうから、純粋な手取りはおそらく、最初の金額の数分の1くらいじゃないだろうか。となると、ヘタすると手取りは1~2億ということもありえる。日本の芸能界のトップでこれだとすれば、むしろ少ない気がするくらいだ。

では、この3人の大御所が最近になって、いっそう精力的に仕事し始めたのはなぜなのか。番組では、年収の推計のほうが中心で、この「なぜ」の部分はあまり突っ込んでいなかった気がするが(私が聞きのがしたかもしれない)、要するに、最近はテレビも収入が減ってきてたいへんなので、大御所も現状の収入をキープするために、仕事を増やすしかない、ということのようだった(そこまではっきりは言っていなかったと思うが)。

私はこの話を聞いて、「いまの大学の状況と似ているな」と思った。

いまは子供が少なくなっているので、大学生も少なくなっている。すると本来であれば、大学もそれにあわせて減らないと釣り合わないが、大学は減っていない(むしろ増えているらしい)。すると、東大・京大や早慶など上位の大学から順番に埋まっていくので、下のほうの大学には人が来なくて定員割れ、ということになる。

たけし、タモリ、みのもんたのような芸能界の大御所は、いわば「トップレベルの大学」のような存在だ。そして、少なくなっている大学生にあたるものは、「芸能界に入ってくるカネ」だ。最近はテレビCMがどんどん失速しているらしいので、テレビ業界に流れ込んでくるカネもどんどん減っているだろう。すると、そのうち一定の割合が芸能界に入ってくるわけだから、「芸能界に入ってくるカネ」も減っているはずだ。

どんな大御所であっても、収入レベルは落としたくないものだろう(大学が規模を縮小しないのと同じ)。もしギャラが下がっているなら、収入レベルをキープするには、仕事の量を増やすしかない。収入レベルをキープしようとするのは、大御所だけでなく、中堅であっても、もっと格下であっても、みんなそうだろう。すると、下位大学に人が来ないのと同様に、格下の芸能人には仕事がなくなるということになる。

もちろん、大御所のギャラは高くて、下っ端の芸人のギャラは安いから、単純に大御所のほうに仕事がいくとも限らない。いっぽう大学のほうは、学費はどこもそれほど違わないが、上位の大学ほど学力を要するので、誰でも好きな大学を選べるわけではない。そのあたりは異なるにしても、おおまかな「経済的構図」としては、芸能人と大学で似たところがあるように思う。

芸能界の全体収入が減っているとき、大御所が収入レベルを維持しようとすれば、仕事を増やすしかない。そして、下っ端芸人の仕事はなくなる。大学生の数が減っているとき、大学が規模を維持しようとすれば、生徒の平均学力が下がることを受け入れるしかない。そして、下位大学には人が来なくなる。この「構造」は似ている。

芸能界であれ、大学であれ、どんな世界であっても、「全体のパイが小さくなれば、弱者がいちばん先にはじき出される」というのは不変の真理だろう。いい悪いではなく、それは「生存競争」というものが生み出す「構造」ないしは「パターン」であり、その背後には自然法則のような「規則性」があるように思う。


関連エントリ:
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「下流大学」はなぜ必要とされるのか
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