2009.08.11
「みんなの党」のマニフェストには「同一労働同一賃金」や「負の所得税」もある
ここ数日、「みんなの党」の政策や関連情報などをちょこちょこ読んでいるが、そのしっかりした理念と政策にあらためて共感している。

みんなの党 - 結党宣言
http://www.your-party.jp/about.html

<我々は、当たり前の自由社会、当たり前の民主主義、当たり前の国家を希求する。しかるに、日本の国家経営の歪みは、自民党政権下で持続不可能な極点に達した。霞が関が、政治をコントロールする「官僚内閣制」、地方を支配する「中央集権体制」、民間を統制する「天下りネットワーク」。これらの「戦後レジーム」が劣化し、国家衰亡の根本原因となっている>。

<こうした中で我々は、まずは、非自民勢力を結集し、総選挙で少なくとも「政権交代」を実現したいと考えている。長年続いてきた自民党と霞が関・官僚との「腐れ縁」を断ち切るだけでも、秘匿された情報や隠された財源等が明るみになり、この国の政治・行政は一変すると信じるからだ>。

<ただ、我々は、「非自民政権」の樹立だけでは満足しない。政権交代して民主党中心の政権になったからといって「バラ色」か? というとそうではないからだ。今の国民の「自民党には不満がいっぱいだが、民主党には不安がいっぱい」、すなわち、そんなにお金をばらまいてこの国の将来は大丈夫なのか、公務員労組依存で公務員の削減や給与カットなど行政改革関連のマニフェストが本当に実現できるのか、自民党以上に党内バラバラで官僚主導の政治は改まるのか、外交・安全保障政策で一本化できるのか等々の懸念が尽きないからだ。我々は、こうした不安や懸念をもつ有権者の受け皿が必要だと考えている。そして、自民がどうした民主がどうしたという次元を超えて、「政治そのもの」を変えていきたい>。

<我々「みんなの党」は、今の「政党政治」は「ニセモノの政党政治」だと考えている。同じ政党内でありながら考え方が違い、議員同士が足を引っ張り合う中で、最後はその間隙を縫って官僚が出てきて、足して二で割る当たり障りのない、さして効果もない政策しか打ち出せない。こうした「寄り合い所帯」化した今の政党政治では、いつまでたっても、この国に「夜明け」は来ない、「官僚の世」を終わらせることはできないと考えるからだ>。

もうあたり前すぎるくらいあたり前のスタンスだと思うが、この「あたり前」を自民党はずっと実現できなかったし、民主党も実現できそうに思われない。

とはいえ、ただ自民党や民主党に文句をつけるだけならば、誰でもできる。「みんなの党」がいいのは、そのマニフェストなどにあらわれている「ビジョン」、具体的な政策の内容にも説得力があり、全体的に正しい方向性を感じさせるところだ。

みんなの党 - 選挙公約(マニフェスト)
http://www.your-party.jp/manifest.html

マニフェストは、次の5つの大項目からなっている。

Ⅰ. 増税の前にやるべきことがある!
・・・ストップ!「役人天国」「議員天国」
Ⅱ. 生活重視の当たり前の政治を実現する!
・・・経済成長戦略を展開し、「生活崩壊」をくい止める
Ⅲ. 「地域主権型道州制」導入で格差を是正する!
・・・「3ゲン」を移譲し、消費税は地方の財源にする
Ⅳ. 「志高い外交」で国際的に名誉ある地位を!
・・・国民や国土はとことん守る
Ⅴ. 財源はしっかり手当てする!
・・・埋蔵金は3年間で少なくとも30兆円

(より下位レベルの見出しまで抜粋したものを、末尾に「参考」として置いた)

この5つのうち、特に力が入っているのはⅠ(行革)とⅡ(雇用・生活)だ。Ⅲ(地域主権)は「霞が関解体」という観点で、Ⅰとつながっている。

Ⅰ(行革)やⅢ(地域主権)も「みんなの党」の主眼ともいえる重要な部分だが、ここではⅡ(雇用・生活)に注目してみたい。

Ⅱの<格差を固定しない「頑張れば報われる」雇用・失業対策を実現する>という項目には、次のような政策が並んでいる。

1. 原則として全ての労働者(非正規を含む)に雇用保険を適用。
2. 同一労働同一待遇(賃金等)や正規・非正規社員間の流動性を確保。
3. 雇用保険と生活保護の隙間を埋める新たなセーフティーネットを構築。雇用保険が切れた長期失業者、非正規労働者等を対象に職業訓練を実施。その間の生活支援手当の給付、医療保険の負担軽減策、住宅確保支援を実施。
4. 日雇い派遣、スポット派遣等は原則廃止。製造業への労働者派遣については、労働者のニーズや産業実態等を精査し、その見直しについて一年以内に結論を出し法制化。
5. 景気や中小企業の経営状況を見極めながら、最低賃金を経済成長により段階的にアップ(将来的には全国平均で時給1000円を目標)。残業割増率を先進国並みに引き上げ、サービス残業の取締りを強化(雇用拡大と子育て支援にも効果)。
6. ハローワークを原則民間開放。民間の職業紹介・訓練への助成を拡充。

「全ての労働者(非正規を含む)に雇用保険を適用」、「同一労働同一待遇(賃金等)」、「正規・非正規社員間の流動性を確保」、「雇用保険と生活保護の隙間を埋める新たなセーフティーネットを構築」など、画期的なものが並んでいる。これは北欧の「フレキシキュリティ」(解雇を規制せず、社会保障を重視する)に近い方向だろう。正規・非正規の差別をやめて「同一労働同一賃金」とし、労働力を流動させながらセーフティネットで守るという、「仕事を守る」のではなく「人を守る」方向だ。

派遣や最低賃金の規制を強める点などは、個人的には賛成できないが、全体としてはほぼ正しい方向を感じさせる。この雇用政策がもし全部実現できたら、もうこれだけで国民の「気持ち」が前向きになり、「空気」がガラッと変わって、日本経済が完全復活してもおかしくないと思う。

さらに、Ⅱの<社会的弱者に配慮した所得再分配を強化する>という項目には、次のような政策が並んでいる。

1. 低所得者層への「給付つき税額控除方式」の導入、「生活保護の母子加算」の復活、「障害者の一割負担」の廃止等「社会的弱者」への施策を強化。
2. その財源として、人定控除の見直しや高額所得者への課税強化(所得税、相続税等)を検討。
3. 生活保護制度の不備・不公平、年金制度との不整合等の問題を段階的に解消し、最終的には、基礎年金や生活保護を統合した「ミニマムインカム」を導入。

「給付つき税額控除方式」とは、ミルトン・フリードマンが提唱した「負の所得税」と同じもので、収入が一定水準を下回る場合、その下回り幅に応じて給付金が出るというものだ。生活保護のように「働いたら給付金がもらえなくなるので働かない」ということもなく、労働意欲を阻害しない、合理的な仕組みだ。

「ミニマムインカム」というのも、最近注目が増している「ベーシックインカム」とおそらく似たものを指すのだろう。「負の所得税」や「ベーシックインカム」は、コストはかかるが、きわめて効率のいいセーフティネットになる。問題はおそらくコストよりも、既存の仕組みで役割の重なる部分を解消したり、一本化していくプロセス、行政に対して「大ナタをふるう」改革のほうだろう。

「負の所得税」や「ベーシックインカム」などの「セーフティネット改革」は、行政改革や雇用改革と一体にならざるをえない。効率のいい、新しいセーフティネットにコストを「集約」しつつ、効率の悪い既存の仕組みや、経済発展を阻害する要因を「除去」していく必要があるからだ。この行政改革や雇用改革は、「官僚依存」の自民党、「労組依存」の民主党には難しいところがあると思う。しがらみのない「みんなの党」こそ、この「セーフティネット改革」を実現するベストポジションにいると思う。

ネットで見る限りでの「みんなの党」に対する評判は、「名前がダメ」というのはよく見るが、「政策はいい」という評価が多いように感じる。「みんなの党」の理念・政策は、政治に対してこだわりの強い私から見ても素晴らしいものに思えるし、国民目線で見ても納得感があり、共感を得られるものだと思う。その理念・政策の一例として、雇用関連に絞って一部紹介してみた。

「みんなの党」は日本の何が問題なのかを正しく把握しており、かつ「しがらみ」がないので、そのマニフェストには「日本の問題」がそのまま、ゴマカシ抜きで出てきている。「みんなの党」を支持するかどうかはともかく、「みんなの党」のマニフェストは、「日本の問題」は何なのかを大づかみに把握できる「エグゼクティブ・サマリー」(エラい人がざっと目を通すための要約)みたいなものになっており、一読に値すると思う。


参考:
みんなの党 - 選挙公約(マニフェスト)
http://www.your-party.jp/manifest.html
より、見出しのみ抜粋

「脱官僚」「地域主権」「生活重視」で国民の手に政治を奪還する!

Ⅰ. 増税の前にやるべきことがある!
・・・ストップ!「役人天国」「議員天国」

 ストップ!「役人天国」

 1.国家公務員の数を大幅削減し、給与もカットする
 2.税金のムダ遣いの元凶、官僚の天下りを全面禁止する
 3.予算をゼロベースで見直し、「埋蔵金」(30兆円)を1円残らず発掘する(後掲)
 4.独立行政法人は原則廃止・民営化し、公益法人を抜本改革する
 5.官製談合を撲滅し、随意契約・指名競争入札を廃止・監視強化する
 6.09年度補正予算の執行を停止し、抜本組み替えを行う
 7.上記の行財政改革を早急に実現するため、官邸に「霞が関改革会議」を設置する。

 ストップ!「議員天国」

 1.国会議員の数を大幅削減し、給与をカットする
 2.議員特権を廃止する
 3.政治家個人への企業・団体献金(政治腐敗の元凶)を即時全面禁止する
 4.政治家の世襲を制限する
 5.政党の民主的運営や透明性を確保する

 政治主導で国民が主役の政治にする

 1.国民の代表者たる首相を中心に政治主導で国家戦略を策定する
 2.内閣人事局(官邸)が幹部人事を掌握し、総合職を一括採用する
 3.内閣予算局(官邸)が予算編成権(カネ)を掌握する
 4.政治主導の枠組みを確立する
 5.行政を情報公開で「ガラス張り」にする

Ⅱ. 生活重視の当たり前の政治を実現する!
・・・経済成長戦略を展開し、「生活崩壊」をくい止める

 経済成長戦略で雇用を増やす

 1.未来を切り拓く「経済成長戦略」を遂行する
 2.格差を固定しない「頑張れば報われる」雇用・失業対策を実現する

 「百年安心」のセーフティネットを構築し、生活崩壊をくい止める

 1.病院崩壊、老人ホーム崩壊、年金崩壊を防ぐ
 2.子育て支援を国政の中心にすえる
 3.社会保障口座を創設する
 4.社会的弱者に配慮した所得再分配を強化する

 引き出し(選択肢)の多い教育を実現する

 1.国の役割は最低限の教育水準の維持に限定する
 2.「ゆとり」が「放縦」とならないよう基礎教育・公教育を充実させる
 3.学校を地域社会に開放する

Ⅲ. 「地域主権型道州制」導入で格差を是正する!
・・・「3ゲン」を移譲し、消費税は地方の財源にする

 1.地方自治体へ3ゲン(権限・財源・人間)を移譲し、地域のことは地域で決める
 2.新たな「国のかたち」=地域主権型道州制を導入し、霞が関は解体・再編する
 3.平成の農地改革で農業を地域の基幹ビジネスにし、食糧自給率を向上させる
 4.地域の創意工夫で地場産業を振興する(既出)

Ⅳ. 「志高い外交」で国際的に名誉ある地位を!
・・・国民や国土はとことん守る

 1.我が国の国民と国土は、とことん守る
 2.「アジアの中の日本」を重視した外交を展開する
 3.地球規模の課題にも積極的な役割を果たす

Ⅴ. 財源はしっかり手当てする!
・・・埋蔵金は3年間で少なくとも30兆円

 1.今後3年間は「集中改革期間」(ムダ遣い解消期間)で増税はしない
 2.その後の恒久財源については要検討
 3.新たな財政規律のルールを導入する


関連:
ウィキペディア - フレキシキュリティ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95..
ウィキペディア - 同一労働同一賃金
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%8C..
ウィキペディア - 負の所得税
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B2%A0..
みずほ情報総研 - 「給付つき税額控除」とともに中長期的ビジョンの検討を
http://www.mizuho-ir.co.jp/publication/column/social/2009/0630.html

関連エントリ:
民主党は「小さな政府」で「規制強化」?
http://mojix.org/2009/08/02/smallgov_kisei
アンソニー・ギデンズ「急速に社会が変化している時代には、『仕事』を守るのではなく、『人』を守らなければならない」
http://mojix.org/2009/06/18/giddens_shigoto