2009.08.02
民主党は「小さな政府」で「規制強化」?
先日の「(自民党と民主党は)両政党の違いよりも、政党内部の違いの方が大きい」に関連して、ピッタリの記事があった。

日経ビジネスオンライン - 独自調査で分かった「政界再編予想図」
第1回政策アンケート 議員編 経済政策を軸に議員の本音を徹底分析
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20080627/163910/



2008年7月の記事で、自民党と民主党の議員に対して、経済政策についてアンケートを取ったものだ。アンケートの結果に基づき、タテ軸を「市場経済のあり方」、ヨコ軸を「政府のあり方」として、各議員の政策的立場をプロットしている。赤いひょうたん型の分布が自民党で、緑の四角型の分布が民主党だ。

<小さな政府で格差是正に力を入れる――。民主党議員が目指す経済政策の方向をひと言でいうとこうなる>。

<民主党議員と自民党議員の立ち位置の違いが一目瞭然だろう。民主党議員の多くはグラフの右下、つまり、「小さな政府で格差是正」に集まる傾向が見られた。他方、自民党は大きく2つのグループに分かれた。1つ目が、グラフ右上の「小さな政府で規制緩和」に集まるグループ。そして、2つ目のグループが「大きな政府で格差是正」だ>。

この記事では、タテ軸の「市場経済のあり方」について、上方向が「規制緩和」、下方向が「格差是正」と書かれているが、「格差是正」というのはボカした言い方だ。「規制緩和」の反対だから、現実には「規制強化」である。

以前から民主党は「規制好き」だとは思っていたが、ここまではっきり偏っているとは思わなかった。先日の「(自民党と民主党は)両政党の違いよりも、政党内部の違いの方が大きい」では、いまの自民党と民主党はほとんど政策に差がないと書いたし、全体的な印象としてはやはりそうだと思うが、市場に対して規制するかどうかというスタンスでは、自民党と民主党では明確に差が出ている。自民党はほぼ半々くらいだが、民主党は8割くらい下半分の「格差是正」(つまり「規制強化」)側だ。

「格差是正」というのは、「消費者保護」などと同様、耳あたりのいいキャッチフレーズで、「正義」の響きをともなっている。しかし実際は、それは何を指すのかあいまいであり、その「正義」を推し進めた結果、市場を「冷やして」しまって、むしろ格差をひろげたり、消費者の利益を破壊しかねない側面がある(例「日本の賃貸住宅ではなぜ保証人を要求されるのか 「保護」がむしろ「弱者」を生む日本の構造」)。

このブログで何度も書いている解雇規制や、民主党が最近言い出している製造業派遣の禁止、最低賃金引き上げといったものは、みなこれである。こういった労働規制は、「格差是正」といった「正義」のためにおこなわれるのだろうが、その規制が実際に適用された結果、何が起こるのか。

解雇規制は正社員を守っている側面もあるかもしれないが、それによって正規と非正規の「格差」ができてしまったり、世代間「格差」、男女「格差」を強めるなど、多くの弊害を生み出している。製造業派遣禁止や最低賃金引き上げも、それによって全員が正社員採用されたり、全員がそのまま昇給することなどありえないのであって、むしろこの規制によって、あらたに失業してしまう人を大量に生み出す。これは大竹文雄氏のような専門家の意見を待たずとも、実際に雇用を生み出す側の会社・経営者にとっては、ほとんど自明のことだ。

市場の動きを無視した「正義」によって「規制強化」しても、「格差」は解決できない。そもそも、「格差」を規制によって「強制」的に解消しようとすることが間違いなのだ。問題なのは「格差」ではなく「貧困」であって、「貧困」が生じないように、確実に機能するセーフティネットを作ること、これこそが最重要の課題だ。このセーフティネットは「市場の外」に作り、市場そのものは「規制」しない、というのが正しい。「社会保障」と「市場」は目的が違うのだから、「関心の分離(separation of concerns)」にしたがった「設計」をおこなうべきなのだ。

つまり「格差是正」のために「規制強化」し、市場に介入するという考え方自体がおかしい。規制を強化しても格差はなくならないし、単に市場の縮小と生産性の低下、景気の悪化をもたらし、その結果として弱者をさらに苦しめてしまうだけだ。

このように、私はタテ軸の「市場経済のあり方」については、完全に上方向の「規制緩和」論者である。そしてヨコ軸の「政府のあり方」についても、しばしば書いている通り、右方向の「小さな政府」論者である。

その私からすると、右上(「規制緩和」かつ「小さな政府」)は私の立場と同じで、整合的な立場である。また左下(「格差是正」かつ「大きな政府」)は、私の立場とは反対だが、それ自体は整合的な立場である。市場を強く規制して、たくさんの税金を取って政府を大きくし、その政府予算を使って国民を賄(まかな)っていく、という社会主義的な立場だ。

しかし民主党が位置している右下、「格差是正」(「規制強化」)かつ「小さな政府」というのは、整合的な立場とは思えない。この記事中でも、財源不足を根拠にして、この立場は困難であると指摘されているが、私からすると財源以前の話で、「小さな政府なのに規制強化」というのは、矛盾していると思う。その意味では、ひょうたん型になっている自民党の分布は、右上と左下におよそ割れているわけで、内部で路線対立はあっても、それぞれは整合している。

私は自民党支持でも民主党支持でもない。どちらかといえば、今回は「政権交代」という「チェンジ」を支持しているという意味では、民主党支持に近い。しかし、民主党の打ち出す政策には「矛盾」が多いと感じている。霞が関改革をやると言いながら、郵政民営化を否定したり、公務員改革を渋っているように見える。自民党を否定している割には、バラマキばかりで、構造改革もなく、成長戦略もないという点で、自民党とほとんど変わらない。「政権交代」というかけ声ばかりで、その中身はといえば、選挙のために「きれいごと」ばかり並べていて、本当に国を建てなおす「気迫」みたいなものが感じられない。むしろ、バラマキばかりで構造改革も成長戦略もないのだから、国を建てなおすどころか、国をますます沈めてしまう(それはいまの自民党でも同じだ)。

その民主党に対する疑問、混乱や矛盾が多いという印象が、今回採り上げた記事によって、私にとっては裏付けられたような気がした。「小さな政府」で「規制強化」というのは、両立しえない立場だと思う。私はてっきり、民主党は「大きな政府」路線なのだろうと思っていた。

もし民主党がほんとうに「小さな政府」路線を目指しているのなら、霞が関改革はもちろん、郵政民営化も公務員改革も推進すべきだし、バラマキはやめて、構造改革と規制緩和を進め、民間経済を伸ばしていくべきだ。そういう政策を打ち出してくれれば、もっと気持ちよく「政権交代」を支持できる。


関連:
大竹文雄のブログ - 上限金利規制と最低賃金
http://ohtake.cocolog-nifty.com/ohtake/2009/07/post-bac6.html
田原総一朗の政財界「ここだけの話」 - 「得か損か」の民主党マニフェストに失望した
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090730/171201/

関連エントリ:
「小さな政府」の考え方
http://mojix.org/2009/07/28/small_gov_thought
イギリス労働党の「オールド・レイバー」と「ニュー・レイバー」
http://mojix.org/2009/07/27/uk_labour_old_new
「規制脳」が止まらない 今度は製造業への派遣禁止か
http://mojix.org/2009/01/10/seizou_haken_kinshi
「規制で経済を動かそう」という愚かな発想
http://mojix.org/2008/12/16/kisei_oroka