2010.02.02
プログラマに正社員的な「勤務」はフィットしない
UK STUDIO - プログラマという職業は「ふつう」の人には厳しくないか
http://ukstudio.jp/2010/01/31/programmer_is_severe_job/

<業務外にコードを書いたり、技術書などを読むというのは素晴らしいことだと思う。けど、会社側がもし「業務時間外にコードを書いたり、技術書を読んだり、勉強会に参加しなさい」と言ったら、それは業務時間外労働と変わらないと思う。個人のたのしみとは別に会社側がそれらを求めたらそれは業務だ>。

<業務時間外に勉強をすることを業務時間外労働と捉えた場合、業務時間外労働をしないとやっていけない職種はおかしいというか病んでいるんじゃないかなぁ>。

これは面白い問題提起。「日々の学習や訓練と仕事が切り離せない」というのがこの話の要点のひとつだが、これはプログラマに限らず、デザイナーや建築家、文筆業、料理人、役者など、「プロフェッショナル」と呼ばれる専門的な職業のほとんどにあてはまるだろう。

本来なら、この種の職業の場合、個別の能力に基づいた有期契約や、成果物を売買する契約がスッキリする。しかし正社員ベースだとそれができないので、能力や成果を提供するというよりも、「勤務」を提供することになる。すると時間拘束が発生するので、「業務時間」の中なのか、外なのかといったことが問題になるわけだ。

特にプログラミングは、優秀な人ほど仕事が早く、優秀な人のほうが「成果物が小さい」(プログラムの行数が短い)という世界だ。よって、働いた時間の長さや作業量で評価するという基準が無意味なばかりでなく、むしろ品質に反することが少なくない。マジメに勤務して、たくさんコードを書いているように見えても、そのソフトウェアの品質が高いとは限らない。

品質の低いシステムが現場に投入され、実稼動に入ってしまった場合、それによるリスクや損害、運用コストや変更コストの上昇、機会損失などのデメリットは計り知れない。にもかかわらず、ソフトウェアの品質を判断できない人間がプログラマを管理したり、人事評価したり、そのシステムを売ったり買ったりしているのが現実である。

プログラマという職業が「ふつう」の人には厳しい、プログラマという職業自体が「病んでいる」というふうに見えるとすれば、それはプログラマという職業自体の問題というよりもむしろ、プログラマという仕事の本来的な性質が、現状の「正社員的な勤務形態や評価基準」にはフィットしない、と言ったほうが近いだろう。プログラマを能力や成果でなく「勤務」で計るような雇用形態や評価基準がおかしいのだ。

このように考えると、短時間で成果を出せる優秀なプログラマは、独立したり、成果ベースの契約にしてもらったほうがトクだ。いっぽう優秀でないプログラマは、「勤務」を提供するかたちにして、なるべく業務時間内に勉強させてもらうのがトクだろう。

経営者の視点から見ると、正社員から「契約ベースにしてくれ」という申し出があったら、むしろありがたいはずだ。経営者がほんとうに求めているものは、マジメな「勤務」ではなくて、売上や利益につながる「成果」なのだ。成果に応じて払うという契約ベースのほうが、ビジネス的にはむしろあたり前の姿であり、経営者にとっては自然である。プログラマが「勤務」から解放されることで、より良い「成果」が出せるのなら、それは経営者にとっても歓迎なのだ。


関連エントリ:
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