2010.05.25
フォン・ミーゼス「通貨は市場経済が生み出したものであって、政府が生み出したものではない」
bradexさん紹介していた、フォン・ミーゼスの一文「Inflation Destroys Savings(インフレは貯蓄を破壊する)」。

Mises Daily - Inflation Destroys Savings (Ludwig von Mises)
http://mises.org/daily/4408

インフレによって打撃を受けるのは中産階級や労働者階級であり、彼らはインフレの意味を理解していないのに、それを支持してしまうことが悲劇である、といった冒頭の指摘にはじまり、政府によるインフレ策がいかに一般人に打撃を与えるかを説いている。

末尾にはこうある。

<Money is the most important factor in a market economy. Money was created by the market economy, not by the government. It was a product of the fact that people substituted step-by-step a common medium of exchange for direct exchange. If the government destroys the money, it not only destroys something of extreme importance for the system — the savings people have set aside to invest and to take care of themselves in some emergency — it also destroys the very system itself. Monetary policy is the center of economic policy. So all the talk about improving conditions, about making people prosperous by credit expansion, by inflation, is futile!>

(大意:通貨は市場経済において最も重要な要素である。通貨は市場経済が生み出したものであって、政府が生み出したものではない。人間は物々交換のための共通媒体を少しずつ置き換えてきたのであり、通貨とはその事実が生み出したものである。もし政府が通貨を破壊するならば、システムにとってきわめて重要であるもの -- 人々が投資や、急な必要のために取っておいた貯蓄 -- を破壊するばかりでなく、まさにシステムそのものをも破壊することになる。金融政策は経済政策の中心である。よって、インフレによって状況を改善できるとか、信用の膨張によって人々を豊かにできるといった議論は、すべてむなしい!)

政府がインフレに向かうのは、財政が悪くなったときに、増税というかたちでカネを集める政策が不人気なので、増税であることが一般人にはわかりにくいインフレというかたち、「インフレ税」を好むからなのだ。

増税にせよ、インフレにせよ、それは悪化した財政という「病気」を治すための方法である。いずれにせよ、その「病気」を引き起こしている根本原因をなくすこと、つまり政府のムダ遣い、過大な支出を減らすということをしなければ、問題は永遠になくならない。

病気になったら病院に行く必要があるが、病院に行っても健康になるわけではないのだ。増税論者にせよ、インフレ論者にせよ、「病院に行っていれば健康だ」、「病院に行けば行くほど健康になる」というような話になりやすい傾向がある。政府の過大な支出がすべての原因であり根本問題なのに、増税論やインフレ論はここから目を逸らせてしまいがちであり、「手段が目的化」しやすいのだ。「病院に行っているから安心だ」という誤解は、むしろ不摂生を加速しかねない。

インフレは通貨の価値を減らすので、一般人の貯蓄を破壊する。政府のムダ遣いのツケを、一般人の貯蓄を破壊することで払うというのは本末転倒である。「病気」の原因である、政府のムダ遣いを止めるしかないのだ。

「通貨は市場経済が生み出したものであって、政府が生み出したものではない」というフォン・ミーゼスの見方は、「通貨は政府に属するものではなく、市場に属するものだ」という見方である。私もこの見方に賛同する。この立場からすると、「通貨とは政府が思いのままに操作できるものだ」という考え方は、「民間の財産は政府がいつでも取り上げられるものだ」という考え方に等しい。


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