政府は「ギャンブル好きで飲んだくれのオヤジ」、日銀は「財布のヒモを締めている奥さん」
池田信夫blog - 中央銀行のコア機能は金融調節ではない
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51411941.html
<日銀バッシングをやる人々は、いまだに中央銀行が自由自在に経済をコントロールできると信じているようだが、そういう理解は古い>。
<金利や通貨供給による調節の効果は、世界の金融市場がグローバル化した今では限定的だ。国内の資金需要がないとき無理やり量的緩和をやると、資金は海外に流出してバブルを引き起こす。国際金融市場で実質金利が均等化しているとすれば、デフレの原因は国内の名目金利=投資収益率が低いことなので、通貨供給ではどうにもならない>。
<それよりも今回の金融危機でわかったことは、金融仲介機能が破壊される影響がいかに大きいかということだ。リーマン・ブラザーズ1社の破綻で、全世界の銀行で取り付けが起こった。実は、このメカニズムは1930年代と同じである。大恐慌の原因は「需要不足」ではなく、FRBが金本位制にこだわって通貨供給を絞り、大規模な取り付けを放置したことだ、というのが他ならぬバーナンキの意見である>。
まったく同感だ。デフレの原因は「投資収益率が低い」、要するに日本経済に「成長力」がなく、投資対象にならないということなのだ。この状況でさらに金融緩和しても、「成長力」がある新興国にカネが流れ、バブルを引き起こすだけだ。<カネは「自己増殖」するものであり、「自分がいちばん増えそうなところに向かう」>。
池田氏はこのエントリの中で、朝日新聞グローブの白川総裁インタビューから、次の2箇所を引用している。
<白川は「学界でもマスコミでも金融政策に対する関心が非常に高いが、それが金融市場や決済システムへの無関心の裏返しなら不幸なことだ」と力を込めた。白川がこれまで、最もやりがいを覚えた仕事は、金利の上げ下げといった華やかな金融政策ではない。「決済システムの進化」という、地味な分野である。世界では、毎日何百兆円という資金が動き、ある金融機関が倒産すれば、資金繰りに困った金融機関が次々に破綻する危険もある>。
<白川は総裁就任に先立って、日銀法を改めて読み返した。その第1条には、決済や金融システムの安定を意味する「信用秩序の維持」が記されている。そもそも、世界の中央銀行の多くは、金融システムの危機管理を目的として誕生した。「金融システムの安定は、日銀の最も大切な業務」と白川は職員たちに説いている>。
中央銀行の最も重要な役割とは「金融システムの安定」であり、「信用秩序の維持」だとある。まったくその通りだと思う。
金融を成立させているのは通貨だから、中央銀行が果たす役割の最も核心部分にあるのは、「通貨への信頼」を守ることだろう。「その通貨を持っていても大丈夫だ」という安心を与えることだ。
政府が放漫財政で赤字をふくらませておいて、「カネを刷れ」と中央銀行に圧力をかけてきたとき、「ハイわかりました」とホイホイ刷っていたら、その「通貨への信頼」は失墜するだろう。政府がいくらバカでも、中央銀行が「独立」していれば、「通貨への信頼」は守れる。
国を運営する「政府」と、通貨を発行する「中央銀行」は、本来役割が異なる。政府が責任を持っているのは「国」に対してであり、中央銀行が責任を持っているのは「通貨」に対してである。「国」と「通貨」はもちろん無関係ではないが、基本的に別のものだ。
「通貨への信頼」をベースとして、「金融システムへの信頼」が成り立っており、そのひとつが「銀行への信頼」である。ある銀行への信頼が失われれば、その銀行から資金を引き出そうとする人が殺到して、「取り付け」が起きる。そのような「不信」が広範囲におよぶと、金融危機が起きる。
銀行は金融システムの主要な担い手であり、この意味では、銀行というのは他の民間企業とは明らかに異なる「公的」な存在だ。だからこそ、金融危機のときに「公的資金」で救済される場合がある。その金融機関自体を救うというよりも、「金融システム」全体に対する「信頼」を回復させるためだ。この点が、JALやGMといった事業会社の救済と決定的に異なる。
放漫財政の日本政府が「カネを刷れ」と日銀に圧力をかけるとき、それが意味しているのは、日銀が守ってきた「通貨への信頼」という「財産」の一部を切り崩し、それをカネに変えようとしている、ということだ。
金融緩和は通貨の発行なので、株の発行と似ている。株をやっている人ならわかるように、株が追加発行されれば、1株あたりの価値は「希薄化」する。株の発行自体が悪いわけではないが、それによって調達した資金が会社の成長や再建のために使われるのでなく、単に放漫経営に使われるならば、その会社への信頼は失われる。
いまの日本政府は、その「放漫経営の会社」のようなものだ。「カネを刷る」ことが絶対に悪いというわけではないが、そのカネをどう使うかという方針がデタラメで、「放漫経営」をやっている状態で、「カネを刷れ」と日銀に圧力をかけているのだ。そんな政府に大量のカネを渡したところで、マトモに使うはずがあるだろうか?
いまの日本は、政府という「ギャンブル好きで飲んだくれのオヤジ」が、日銀という「財布のヒモを締めている奥さん」に、「いいからカネを寄こせ!」とわめいているようなものだろう。悪いのは奥さんではなく、カネを浪費しているオヤジのほうなのだ。
関連エントリ:
「増税でデフレ解決」だって?冗談じゃない、デフレの原因は政府の「悪政」だ
http://mojix.org/2010/04/14/why_deflation
なぜリフレ政策より構造改革が重要なのか 日本に足りないのはカネではなく成長力や投資機会である
http://mojix.org/2010/04/08/kouzou_kaikaku
mixiアプリ「サンシャイン牧場」の山火事ネタはなぜユーザを怒らせたのか
http://mojix.org/2010/04/03/sunshine_yamakaji
斎藤精一郎「何故、超緩和策でデフレ脱却ができないのか」
http://mojix.org/2009/12/03/saito_kanwa
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51411941.html
<日銀バッシングをやる人々は、いまだに中央銀行が自由自在に経済をコントロールできると信じているようだが、そういう理解は古い>。
<金利や通貨供給による調節の効果は、世界の金融市場がグローバル化した今では限定的だ。国内の資金需要がないとき無理やり量的緩和をやると、資金は海外に流出してバブルを引き起こす。国際金融市場で実質金利が均等化しているとすれば、デフレの原因は国内の名目金利=投資収益率が低いことなので、通貨供給ではどうにもならない>。
<それよりも今回の金融危機でわかったことは、金融仲介機能が破壊される影響がいかに大きいかということだ。リーマン・ブラザーズ1社の破綻で、全世界の銀行で取り付けが起こった。実は、このメカニズムは1930年代と同じである。大恐慌の原因は「需要不足」ではなく、FRBが金本位制にこだわって通貨供給を絞り、大規模な取り付けを放置したことだ、というのが他ならぬバーナンキの意見である>。
まったく同感だ。デフレの原因は「投資収益率が低い」、要するに日本経済に「成長力」がなく、投資対象にならないということなのだ。この状況でさらに金融緩和しても、「成長力」がある新興国にカネが流れ、バブルを引き起こすだけだ。<カネは「自己増殖」するものであり、「自分がいちばん増えそうなところに向かう」>。
池田氏はこのエントリの中で、朝日新聞グローブの白川総裁インタビューから、次の2箇所を引用している。
<白川は「学界でもマスコミでも金融政策に対する関心が非常に高いが、それが金融市場や決済システムへの無関心の裏返しなら不幸なことだ」と力を込めた。白川がこれまで、最もやりがいを覚えた仕事は、金利の上げ下げといった華やかな金融政策ではない。「決済システムの進化」という、地味な分野である。世界では、毎日何百兆円という資金が動き、ある金融機関が倒産すれば、資金繰りに困った金融機関が次々に破綻する危険もある>。
<白川は総裁就任に先立って、日銀法を改めて読み返した。その第1条には、決済や金融システムの安定を意味する「信用秩序の維持」が記されている。そもそも、世界の中央銀行の多くは、金融システムの危機管理を目的として誕生した。「金融システムの安定は、日銀の最も大切な業務」と白川は職員たちに説いている>。
中央銀行の最も重要な役割とは「金融システムの安定」であり、「信用秩序の維持」だとある。まったくその通りだと思う。
金融を成立させているのは通貨だから、中央銀行が果たす役割の最も核心部分にあるのは、「通貨への信頼」を守ることだろう。「その通貨を持っていても大丈夫だ」という安心を与えることだ。
政府が放漫財政で赤字をふくらませておいて、「カネを刷れ」と中央銀行に圧力をかけてきたとき、「ハイわかりました」とホイホイ刷っていたら、その「通貨への信頼」は失墜するだろう。政府がいくらバカでも、中央銀行が「独立」していれば、「通貨への信頼」は守れる。
国を運営する「政府」と、通貨を発行する「中央銀行」は、本来役割が異なる。政府が責任を持っているのは「国」に対してであり、中央銀行が責任を持っているのは「通貨」に対してである。「国」と「通貨」はもちろん無関係ではないが、基本的に別のものだ。
「通貨への信頼」をベースとして、「金融システムへの信頼」が成り立っており、そのひとつが「銀行への信頼」である。ある銀行への信頼が失われれば、その銀行から資金を引き出そうとする人が殺到して、「取り付け」が起きる。そのような「不信」が広範囲におよぶと、金融危機が起きる。
銀行は金融システムの主要な担い手であり、この意味では、銀行というのは他の民間企業とは明らかに異なる「公的」な存在だ。だからこそ、金融危機のときに「公的資金」で救済される場合がある。その金融機関自体を救うというよりも、「金融システム」全体に対する「信頼」を回復させるためだ。この点が、JALやGMといった事業会社の救済と決定的に異なる。
放漫財政の日本政府が「カネを刷れ」と日銀に圧力をかけるとき、それが意味しているのは、日銀が守ってきた「通貨への信頼」という「財産」の一部を切り崩し、それをカネに変えようとしている、ということだ。
金融緩和は通貨の発行なので、株の発行と似ている。株をやっている人ならわかるように、株が追加発行されれば、1株あたりの価値は「希薄化」する。株の発行自体が悪いわけではないが、それによって調達した資金が会社の成長や再建のために使われるのでなく、単に放漫経営に使われるならば、その会社への信頼は失われる。
いまの日本政府は、その「放漫経営の会社」のようなものだ。「カネを刷る」ことが絶対に悪いというわけではないが、そのカネをどう使うかという方針がデタラメで、「放漫経営」をやっている状態で、「カネを刷れ」と日銀に圧力をかけているのだ。そんな政府に大量のカネを渡したところで、マトモに使うはずがあるだろうか?
いまの日本は、政府という「ギャンブル好きで飲んだくれのオヤジ」が、日銀という「財布のヒモを締めている奥さん」に、「いいからカネを寄こせ!」とわめいているようなものだろう。悪いのは奥さんではなく、カネを浪費しているオヤジのほうなのだ。
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http://mojix.org/2009/12/03/saito_kanwa