2010.04.23
唐突な「法人税ゼロ」案、しかし「外国企業だけ」? ガタガタ揺れる鳩山政権の「ヘタクソな運転」
日経ビジネスオンライン - 政府「法人税ゼロ」検討 成長戦略で外資の参入促進、シンガポール並み優遇に(2010年4月22日)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20100421/214113/

<政府が6月にまとめる成長戦略の目玉として、新たに日本に進出する外国企業を対象に、法人税を大幅に減免する外資導入促進策を検討していることが明らかになった>。

<日本の法人税率は主要国で最も高い水準にあり、日本企業の国際競争力を減殺するだけでなく、日本市場に進出するチャンスをうかがう外国企業にとっては最大の参入障壁となり、日本経済が閉鎖的と批判される要因ともなっていた>。

<鳩山由紀夫首相は日本企業の法人税負担も軽減する方針を示しており、自民党政権下では手が付かなかった法人税改革が進む機運が高まってきた>。

せっかく「減税」という基本的な方向は正しいのに、なぜ新たに進出してくる外国企業だけが対象なのか。

これでは、税金逃れのために国内企業がむしろ海外流出してしまい、形だけ「新たに進出してくる外国企業」として「逆輸入」されてくるのは明らかだと思う。法人税額が大きく、グローバル展開しやすい大企業ほどそうするだろうから、国内産業がむしろ空洞化しかねないのではないか。新たに起業する人だって、海外で会社を作ったほうが有利になる。

減税するならば、国内企業も外国企業も「同時に」やらなければ意味がなく、外国企業だけ無税にするのは、むしろ有害だろう。いったいどういうつもりなのだろうか。国内企業の海外流出を加速して、国内産業を空洞化させたいのだろうか。

参院選を前にしての人気取りという面もあるのだろうが、また勝手に拙速なことをやって、日本を混乱させるのはカンベンしてほしい。

経済成長のためには、「規制緩和」と「減税」はいわば車の両輪なので、その意味ではいい方向への一歩ではある。しかし、基本的に「大きな政府」路線が強い鳩山政権で、突然「法人税ゼロ」というのはあまりにも唐突かつ極端だし、それも「外国企業だけ」というのは、なんとも不可解だ。

これが出てきた理由はおそらく、「追加支出不要で財政をこれ以上悪化させず、既得権にも切り込まないで、参院選に向けて人気を取れる政策」という辺りで、出てきたのではないか。「新たに進出する外国企業だけ」という「腰の引け方」が、それを匂わせる。日本企業も減税する、という方針も示されているらしいが、その弱いニュアンスからして、こちらは具体化するとしても先になりそうだ。

これに限らず、鳩山政権から出てくる政策というのは、全体としての「基本的な方向」みたいなものが見えず、どうも場当たり的だと感じる。閣内ですら不一致なのだから、国民から見て「わからない」「不安」と感じるのは当然だろう。

鳩山政権は、いわば「ヘタクソな運転」みたいな感じだ。ガタガタ揺れるので、乗っていて不快だし、いつ事故を起こすかハラハラさせられて、不安で落ち着かないのだ。すでにマニフェストからの「ブレ」もいろいろ見せられているので、こういう「いい話」を聞いても、どうも信用できない。

「減税」も重要なのだが、個人的には「規制緩和」(既得権解体)や「公務員改革」(政府のリストラ)、つまり「構造改革」のほうが、より優先すべき改革だと思う。これらのほうが、「抵抗勢力」との戦いになるので、より「本気」でなければできないものだ。

鳩山政権というのは「八方美人」的で、なるべく「敵」を作らず、「戦い」を回避している印象だ。「きれいごと」を言いながら、「いい話」だけをして、問題を「先送り」し、財政を悪化させている。鳩山政権が「安心」と言えば言うほど、国民はむしろ「不安」になるのだ。それが抜本的な解決でなく、「一時しのぎ」に過ぎないことをわかっているからだ。

高速道路無料化とか、子ども手当とかの「小銭のバラマキ」みたいなことは、はっきりいってどうでもいいのだ。ムダな支出をすべてストップし、政府のリストラを猛烈に進めて、ジャマな規制を撤廃すること。国民がやってほしいのは、そういう「骨太」の改革だと思う。

鳩山政権やその減税案の是非は別としても、冒頭の記事には、日本の「重税」国家ぶりと、一方で民間の優秀さを示すデータも簡潔にまとめられている。ネットでは「日本の法人税は大したことない」といった誤った言説もしばしば見かけるので、正しい認識を広めるためにも、その部分を最後に抜粋しておく。

<経済産業省の調べによると、主要企業の法人課税負担率(2006~08会計年度平均、連結ベース)は日本が39.2%でダントツに高く、米国、フランス、英国、ドイツは30%前後。台湾、シンガポールにいたっては13%台と、日本の3分の1程度だ>。

<世界経済フォーラムの「世界競争力報告2009~2010」によれば、日本の「総合的な税負担(法人税、所得税などを含む)」に対する評価は世界129カ国・地域中101位と極めて低い。上位を占める中東産油国などはともかく、アジアのライバルである香港(14位)、シンガポール(18位)などには大きく水をあけられている>。

<一方で日本の「イノベーション能力」は133カ国・地域中1位、「企業のR&D支出」でもスイスに次ぐ2位と、日本企業の高い潜在能力を裏付ける結果が出ており、重い法人税負担が成長の足かせになっていることは明白だ>。

<2009年には米P&Gやフィンランドのノキアなど、米欧の有力企業がアジアの拠点を日本からシンガポールに移す動きが相次いだ>。

ここにもあるように、日本企業は約40%の法人税(大企業の場合)に加え、保険・年金など相当な負担を強いられている。さらに「正社員を解雇できない」のをはじめ、さまざまな規制にがんじがらめにされており、これも「コスト」なのだ。これだけ国にムシり取られて、どうやって利益を出せるのか不思議なくらいだ(日本の経営者はみなそう思っている)。しかし、その悪条件にもかかわらず、日本にはワールドクラスの企業がたくさんあるのだから、日本企業はほんとうに優秀だと思う。

日本人はおそらく、世界平均の倍くらいは働いている気がする。そのうちきっと半分くらいは「非生産的な仕事」で、価値の創出にほとんど貢献しておらず、なくなっても困らない「名ばかりの仕事」だろう。

その「名ばかりの仕事」がなくならない理由は、日本政府が企業に対して世界最高レベルの重税を課している理由と同じである。日本では、政府が企業というものの役割を「利益の追求」や「価値の創出」よりも、雇用の創出と維持を通じた「社会保障の担い手」と見なしているからなのだ。「社会保障」という政府の仕事が民間企業に押しつけられている一方で、政府には「名ばかりの仕事」によって民間以上の好待遇を受けている人がたくさんいるのである。それが日本の「構造」なのだ。これでは当然新興国には勝てないし、他の先進国にすら勝てず、経済が沈み続けていくのは当然だろう。


関連エントリ:
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http://mojix.org/2010/04/21/nihon_mitsuketsugou
日本の問題は、「人の流動性」が低すぎてノウハウが循環しないことにある
http://mojix.org/2010/03/08/knowhow_junkan
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http://mojix.org/2009/11/27/minkan_seifu_mondai