円安誘導論は「日本の値下げ」論である
円安誘導論は「日本の値下げ」論であり、「日本を安売りしよう」という考え方であると思う。
「売れない」とき、「もっといいものを作ろう」と考えるか、「もっと安くしよう」と考えるか。
「もっと円安にすべき」という円安誘導論は、後者の「もっと安くしよう」という考え方だ。
円という通貨の価値が、いまの日本の実力よりも「過大」なので、もっと貨幣価値を下げよう、というのである。
円の通貨価値が日本の実力より「過大」なのは、現状ではその通りかもしれない。
しかしこれは、民間に力がないのではなく、政府の「悪政」が原因だと私は見ている。
日本企業は世界的に見ても、異常なまでに高い負担と制約を押しつけられている。例えば、もし法人税をいまの半分にして、規制を緩和すれば、日本株はすぐにいまの倍くらいになってもおかしくないと思う。
政府が民間の足を引っぱっているために、日本経済の成長力が落ちており、よって日本の実力に比べて、円の通貨価値が高く見えるのだ。
ここで円の通貨価値のほうを下げようという発想は、「日本はこのままだと高くて売れないから、安くしよう」という考え方、「安売り」アプローチである。金融緩和によって通貨価値を下げるというこの発想は、ある程度金融をわかっている人でないと持ち得ないもので、それなりに見識のある人がしばしばこの方向の主張をする。
しかし私から見ると、日本経済の成長をジャマしている政府の「悪政」という根本原因を取り除くのではなく、金融政策だけで問題が解決するかのようなこの考え方は、バラマキ財政と五十歩百歩であるように思える。民間が泣かされている一方で、政府が肥大化し、ムダ遣いしているという「構造」、その「雨漏り」を直さない限り、どんなに別のことをしてもそれは直らない。政府というのは直接の価値を生まない「コストセンター」なのだから、これがどんどん大きくなれば、日本全体が苦しくなるに決まっている。日本の「コスト構造」を変える必要があるのだ。
いまの日本が置かれている状況は、例えば「実力を出し切れない受験生」みたいなものだろう。ほんとうは偏差値70の実力があるのに、ジャマされて勉強に集中できないために、模擬試験では50の結果しか出せない。ここで「勉強に集中できない要因」を取り除くのが「構造改革」論であり、「70の大学はあきらめて、50の大学にしておけ」というのが円安誘導論である。
円を安くしようという話は、「日本を少し途上国に戻そう」というアプローチだと言ってもいい。通貨の弱い途上国になれば、輸入は割高になるが、輸出は有利になる。途上国の売りは「安い労働力」だが、その「安い労働力」になろうというのがこのアプローチだ。言ってみれば、「先進国はやめて、途上国でいいじゃないか」という話に近いわけだ。
日本が真にすべきことは、通貨価値を下げて「安売り」することではなく、「高く売れる」ような高付加価値の産業にシフトすることだ。新興国と直接競合するような「ものづくり」をして、それを輸出するというビジネスモデルでは、人件費から言って、どうやっても勝ち目がない。この「古いビジネスモデル」を守ろうとすれば、どこまでも「安売り」するしかないのだ。変えるべきなのは通貨の水準ではなく「日本のビジネスモデル」であり、そのためには「古いビジネスモデル」と表裏一体になっている「古い制度設計」を変える必要がある。
関連エントリ:
「増税でデフレ解決」だって?冗談じゃない、デフレの原因は政府の「悪政」だ
http://mojix.org/2010/04/14/why_deflation
「要するに日本はどうすべきなのか」を知りたい人は必読 池田信夫「日本が「本物の格差社会」になるのはこれからだ」
http://mojix.org/2010/04/09/japan_what_to_do
なぜリフレ政策より構造改革が重要なのか 日本に足りないのはカネではなく成長力や投資機会である
http://mojix.org/2010/04/08/kouzou_kaikaku
「売れない」とき、「もっといいものを作ろう」と考えるか、「もっと安くしよう」と考えるか。
「もっと円安にすべき」という円安誘導論は、後者の「もっと安くしよう」という考え方だ。
円という通貨の価値が、いまの日本の実力よりも「過大」なので、もっと貨幣価値を下げよう、というのである。
円の通貨価値が日本の実力より「過大」なのは、現状ではその通りかもしれない。
しかしこれは、民間に力がないのではなく、政府の「悪政」が原因だと私は見ている。
日本企業は世界的に見ても、異常なまでに高い負担と制約を押しつけられている。例えば、もし法人税をいまの半分にして、規制を緩和すれば、日本株はすぐにいまの倍くらいになってもおかしくないと思う。
政府が民間の足を引っぱっているために、日本経済の成長力が落ちており、よって日本の実力に比べて、円の通貨価値が高く見えるのだ。
ここで円の通貨価値のほうを下げようという発想は、「日本はこのままだと高くて売れないから、安くしよう」という考え方、「安売り」アプローチである。金融緩和によって通貨価値を下げるというこの発想は、ある程度金融をわかっている人でないと持ち得ないもので、それなりに見識のある人がしばしばこの方向の主張をする。
しかし私から見ると、日本経済の成長をジャマしている政府の「悪政」という根本原因を取り除くのではなく、金融政策だけで問題が解決するかのようなこの考え方は、バラマキ財政と五十歩百歩であるように思える。民間が泣かされている一方で、政府が肥大化し、ムダ遣いしているという「構造」、その「雨漏り」を直さない限り、どんなに別のことをしてもそれは直らない。政府というのは直接の価値を生まない「コストセンター」なのだから、これがどんどん大きくなれば、日本全体が苦しくなるに決まっている。日本の「コスト構造」を変える必要があるのだ。
いまの日本が置かれている状況は、例えば「実力を出し切れない受験生」みたいなものだろう。ほんとうは偏差値70の実力があるのに、ジャマされて勉強に集中できないために、模擬試験では50の結果しか出せない。ここで「勉強に集中できない要因」を取り除くのが「構造改革」論であり、「70の大学はあきらめて、50の大学にしておけ」というのが円安誘導論である。
円を安くしようという話は、「日本を少し途上国に戻そう」というアプローチだと言ってもいい。通貨の弱い途上国になれば、輸入は割高になるが、輸出は有利になる。途上国の売りは「安い労働力」だが、その「安い労働力」になろうというのがこのアプローチだ。言ってみれば、「先進国はやめて、途上国でいいじゃないか」という話に近いわけだ。
日本が真にすべきことは、通貨価値を下げて「安売り」することではなく、「高く売れる」ような高付加価値の産業にシフトすることだ。新興国と直接競合するような「ものづくり」をして、それを輸出するというビジネスモデルでは、人件費から言って、どうやっても勝ち目がない。この「古いビジネスモデル」を守ろうとすれば、どこまでも「安売り」するしかないのだ。変えるべきなのは通貨の水準ではなく「日本のビジネスモデル」であり、そのためには「古いビジネスモデル」と表裏一体になっている「古い制度設計」を変える必要がある。
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http://mojix.org/2010/04/08/kouzou_kaikaku