2010.09.06
マスメディアが「プロ」でネットが「素人」という図式は完全に崩れた 「個人メディア」のオピニオン形成力
金融日記 - 世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか、菅原琢
http://blog.livedoor.jp/kazu_fujisawa/archives/51742339.html

<僕のブログはけっこうアクセス数があり、もはや零細メディアといってもいいと自負しているのだが、それでもテレビや新聞などに比べると全くもって何の影響力もないといわざるをえない。
 テレビの1%の視聴率が100万人だとすると、もっとも人気のない深夜放送の番組と比べてみても、アルファ・ブロガーの影響力なんてゼロの数がふたつかみっつほど少ないのが現実だ。
 ニコニコ動画の人気番組も、せいぜい数万人がやっとの世界で、やはり全く人気がないテレビの深夜番組よりゼロの数がふたつかみっつ少ない>。

<ネット・メディアというのは一部で盛り上がっているが、まだまだ極めて小さいものなのだ。
この本の著者は、なかなか冷静にネット言論の現状を語ってくれたものだ。>

「零細メディア」という表現はいい。その通りだと思う。

私はブログは「個人新聞」だと思っているのだが、その意味ではまさに「個人メディア」であり、「零細メディア」だろう。全国紙やテレビが大企業だとすれば、ブログやツイッターは個人事業や零細企業みたいなものだ。

<テレビや新聞などに比べると全くもって何の影響力もない>、<ネット・メディアというのは一部で盛り上がっているが、まだまだ極めて小さい>というのは、単に読者や視聴者の数で言えばその通りだろうが、「オピニオン形成力」という観点で見れば、それなりに有力な存在になりつつあるように思う。

なぜならば、いまの日本のマスメディアには、はっきりいって「オピニオン」があまりないからだ。「いつどこで誰が何をしました」という通信社のニュースを、新聞社などもほぼそのまま流している。これでは「メディア」の存在意義が薄い。

マスメディアで「オピニオン」を出しているのは、ジャーナリストや学者など、個々の専門家だろう。それはあくまでも、個々の専門家の「オピニオン」であって、その人があちこちの媒体に出たりしている。結局、「オピニオン」は個々の専門家から出ているのであって、いまのマスメディアはそれを中継しているに過ぎない。さらに大新聞などでは、表向きの中立性を装うために、立場の違う専門家の意見を並べたりしている。それは客観性というよりも、責任回避に近い感じがする。むしろ素直に主観を出して、ポジションを明確にしてくれたほうがいいのにと思う。

一般読者が求めているのは、通信社が出すような事実的な報道、「ナマ素材のニュース」が1とすれば、それを分析したり、噛み砕き、価値判断を加えて、わかりやすく解説した記事、いわば「調理されたニュース」が10くらいだと思う。「ナマ素材のニュース」が「観測データ」だとすれば、「調理されたニュース」は、「それがどういう意味を持っているかの解説」である。

いまでは「ナマ素材のニュース」ですら、一部はネットから出てくるようになったものの、こちらはまだ通信社が強い領域だろう。しかし「調理されたニュース」のほうは、ネット上で大量に読めるようになり、テーマによっては、マスメディアよりも分析が深く、充実していることすら少なくない。マスメディアに出てくる専門家が、直接ブログを書いていることもよくある。

そして、少なくとも政治や経済、時事問題などについては、その手のブログを熱心に読んでいるような人は、テレビの視聴者より意識が高いだろう。自分自身もブログを書いたり、ツイッターでそれを紹介したりして、「オピニオン」の形成に寄与することが少なくない。いっぽう、テレビなどは見ている人の数は多くても、その視聴者が「オピニオン」の発信側に回りにくい。「世論形成」に寄与しないわけだ。そしていまや、テレビの製作側がネットからネタを拾っている場合も少なくない。こうした情報の流通経路を考えると、「ネット世論」の影響力の大きさは、読者や視聴者の数だけでは計れないと思う。

内容の質という点でも、情報の流通経路の点でも、マスメディアが「プロ」でネットが「素人」という図式は、もはや完全に崩れたと言っていいのではないか。場合によっては、むしろその反対に思えることすらある。もちろん、ネットが玉石混淆なのは言うまでもないのだが、マスメディアを超える「プロ」も少なくない。

マスメディアであってもネットであっても、「オピニオン」の出所は結局のところ「個人」だ、というのが要点なのだろう。こう考えると、ネットの「個人メディア」が「オピニオン形成力」において有力な存在になりつつあるのは、当然だと思う。ネット以前は、「オピニオン」は必ずマスメディアを経由して届けられていたが、いまはネットから直接読めるようになり、さらに質が高くて早かったりする。こうなれば、マスメディアを経由することで何らかの付加価値がつくのでない限り、マスメディアは「中抜き」されてしまう。実際、あまり付加価値がついていないために、「中抜き」されているというのが現状だろう。電子書籍とか、音楽ダウンロードなどで起きている動きと、構造的にはそっくりだ。


関連エントリ:
「個人新聞」としてのブログ
http://mojix.org/2009/05/10/personal_newspaper
マスコミに対するブログの強み
http://mojix.org/2009/01/13/blog_strength