仮想化・クラウド・ネット端末の世界で、OSは消えていく
いつも質の高いIT記事を載せているPublickeyで、先日こんな記事があった。
Publickey - [速報]VMworld 2010、クラウド時代の新たなスタックが登場し、OSは消えていく(2010年9月1日)
http://www.publickey1.jp/blog/10/vmworld_2010os.html
ここで紹介されている、VMwareのCEOポール・マリッツ氏の基調講演の内容がおもしろい。VMwareは仮想化技術の代表的なベンダで、仮想化とはかんたんにいうと、物理的なコンピュータ(ハードウェア)をソフトウェアで模倣する技術だ。
<IDCの調査によると、私たちはいま、仮想マシンが、物理マシンの数を超えようとしているところにいる。まさにティッピングポイントを超えるところだ。
OSはもはやCPUやストレージやネットワークといったハードウェアをコントロールしていない。これらをコントロールしているのは新しい仮想化レイヤだ。このレイヤが新しいインフラストラクチャであり、私たちのイノベーションはここにフォーカスしている>。
まず、仮想化レイヤは物理的なマシン(ハードウェア)を管理するという点において、OSの役割を奪いつつある、というのがこの部分の指摘だ。
<しかし、これまでと同じ古いアプリケーションを、新しいインフラストラクチャの上で動かすだけで本当のビジネスバリューをITによって届けるのに十分だろうか? ノーだろう。
インフォメーション・オン・デマンドのような新しいアプリケーションのためには、新しいアプリケーションプラットフォームが必要だ。イノベーションのためには、ここにもフォーカスした>。
仮想化とクラウドは別の技術だが、とても相性がいいので、相乗効果でいま爆発的に増えつつある。すでにクラウドはバズワード(流行語)になるほど注目されているが、今後ほとんどあらゆるシステムがクラウドに移されることになるはずで、いまはまだそれが始まったばかりの段階だ。
この仮想化+クラウドの世界では、システムやアプリケーションの作り方自体も変わる。従来のシステムがそのままクラウドに移されるのではなく、<新しいアプリケーションプラットフォーム>の上に作り直されることになる、というのがこの部分の指摘だ。例えば、いわゆるWebフレームワークなどはこのレイヤにあたる。その種のフレームワークやライブラリなども、今後はクラウドにフィットするかたちに進化していくだろう。
こうなると、システムやアプリケーションの側から見ても、直接のっかるのはフレームワークの上なので、OSというのは直接意識しない、見えない下部構造になる。Google App Engine(GAE)などは代表的だが、最初からクラウド上にある環境なので、ファイルシステムといった従来のOSベースの考え方自体がなく、GAEという環境が提供する「サービス」を使う。
<そしてOSの役割は変わろうとしている。ハードウェアのオーケストレーションは仮想化レイヤが担い、アプリケーションのための抽象化レイヤはフレームワークが担うようになるため、OSそのものは見えなくなっていこうとしている>。
この一文が、この記事の要点をひとことでまとめている。仮想化技術によって、仮想化レイヤがハードウェアを管理するようになり、またクラウドによって、アプリケーションの基盤がフレームワークになる。よって、OSの役割はだんだんなくなっていく、というわけだ。
<次世代のアプリケーションのデベロッパーは、さまざまなクラウドへアプリを展開しようとするとき、移植作業をフレームワークのレベルで行うことだろう>。
ちょうど、以前は異なるOSにアプリケーションを対応させていたような感じで、今後は異なるフレームワークにシステムやアプリケーションを対応させるようになる。アプリケーションの「環境」という言葉の意味が変わるわけだ。
ここまでの話はサーバ側(ネットの「向こう側」)の話だが、わたしたちが直接触れるPCやケータイなどクライアント側においても、「OSは消えていく」方向に進んでいるように思う。PCにおいても、iPhoneやAndroid端末などにおいても、アプリケーションがネットと連携することはもう当たり前だし、アプリケーション自体もWebベースになりつつある。
こうなると、主役は断然「ブラウザ」なのであって、OSはだんだん存在感が薄くなる。そこで求められるのは「ブラウザが動く」ことであり、その役割はまさに「ネット端末」なわけだ。
PCやケータイの「ネット端末」化が進むということは、アプリケーションの実体がサーバ側に移され、そのアプリケーションの「画面」だけがネットを通じて転送されてくる、ということを意味している(例えばGmailなど、Googleのサービスはほとんどこのパターン)。すでに、いまのウェブサイトは大半が「アプリケーション」として作られており、それが生成するHTMLはもはや「コンテンツ」というよりも「画面」である。
アプリケーションの実体がサーバ側に移されていくので、サーバベースのシステムはますます増える。そのサーバベースのシステムが、ほとんどすべてクラウドに向かっていくのだから、ビジネスとして見たとき、クラウドというのはとてつもない成長市場なわけだ。
VMwareはこのところ、単なる仮想化技術のベンダにとどまらず、オープンソースのWebフレームワークやその周辺技術にも勢力をひろげつつある。その理由は、とてつもない成長市場であるクラウドにおいて、オープンソースのWebフレームワークやその周辺技術はまさに「プラットフォーム」であり、これがクラウドのカギを握ることがよく見えているからだろう。
この「プラットフォーム」は、かつてティム・オライリーが「インターネットOS」と呼んでいたパラダイムが具現化したものと見ることもできる。従来のOSが消えていき、その役割はネット上に拡散した「インターネットOS」に受け継がれつつあるわけだ。
関連エントリ:
最有力のIT・ネット企業6社「GAMANA(ガマナ)」がしのぎを削るプラットフォーム争奪戦
http://mojix.org/2009/10/20/gamana_platform
HTMLはもはや「コンテンツ」ではなく、プログラムで自動生成される「画面」だ
http://mojix.org/2008/09/05/html_is_not_content
Google App Engine - これこそ「Google OS」だ
http://mojix.org/2008/04/10/google_app_engine
CNET Japan 「オライリーのインターネットOS論」
http://mojix.org/2004/01/20/120400
Publickey - [速報]VMworld 2010、クラウド時代の新たなスタックが登場し、OSは消えていく(2010年9月1日)
http://www.publickey1.jp/blog/10/vmworld_2010os.html
ここで紹介されている、VMwareのCEOポール・マリッツ氏の基調講演の内容がおもしろい。VMwareは仮想化技術の代表的なベンダで、仮想化とはかんたんにいうと、物理的なコンピュータ(ハードウェア)をソフトウェアで模倣する技術だ。
<IDCの調査によると、私たちはいま、仮想マシンが、物理マシンの数を超えようとしているところにいる。まさにティッピングポイントを超えるところだ。
OSはもはやCPUやストレージやネットワークといったハードウェアをコントロールしていない。これらをコントロールしているのは新しい仮想化レイヤだ。このレイヤが新しいインフラストラクチャであり、私たちのイノベーションはここにフォーカスしている>。
まず、仮想化レイヤは物理的なマシン(ハードウェア)を管理するという点において、OSの役割を奪いつつある、というのがこの部分の指摘だ。
<しかし、これまでと同じ古いアプリケーションを、新しいインフラストラクチャの上で動かすだけで本当のビジネスバリューをITによって届けるのに十分だろうか? ノーだろう。
インフォメーション・オン・デマンドのような新しいアプリケーションのためには、新しいアプリケーションプラットフォームが必要だ。イノベーションのためには、ここにもフォーカスした>。
仮想化とクラウドは別の技術だが、とても相性がいいので、相乗効果でいま爆発的に増えつつある。すでにクラウドはバズワード(流行語)になるほど注目されているが、今後ほとんどあらゆるシステムがクラウドに移されることになるはずで、いまはまだそれが始まったばかりの段階だ。
この仮想化+クラウドの世界では、システムやアプリケーションの作り方自体も変わる。従来のシステムがそのままクラウドに移されるのではなく、<新しいアプリケーションプラットフォーム>の上に作り直されることになる、というのがこの部分の指摘だ。例えば、いわゆるWebフレームワークなどはこのレイヤにあたる。その種のフレームワークやライブラリなども、今後はクラウドにフィットするかたちに進化していくだろう。
こうなると、システムやアプリケーションの側から見ても、直接のっかるのはフレームワークの上なので、OSというのは直接意識しない、見えない下部構造になる。Google App Engine(GAE)などは代表的だが、最初からクラウド上にある環境なので、ファイルシステムといった従来のOSベースの考え方自体がなく、GAEという環境が提供する「サービス」を使う。
<そしてOSの役割は変わろうとしている。ハードウェアのオーケストレーションは仮想化レイヤが担い、アプリケーションのための抽象化レイヤはフレームワークが担うようになるため、OSそのものは見えなくなっていこうとしている>。
この一文が、この記事の要点をひとことでまとめている。仮想化技術によって、仮想化レイヤがハードウェアを管理するようになり、またクラウドによって、アプリケーションの基盤がフレームワークになる。よって、OSの役割はだんだんなくなっていく、というわけだ。
<次世代のアプリケーションのデベロッパーは、さまざまなクラウドへアプリを展開しようとするとき、移植作業をフレームワークのレベルで行うことだろう>。
ちょうど、以前は異なるOSにアプリケーションを対応させていたような感じで、今後は異なるフレームワークにシステムやアプリケーションを対応させるようになる。アプリケーションの「環境」という言葉の意味が変わるわけだ。
ここまでの話はサーバ側(ネットの「向こう側」)の話だが、わたしたちが直接触れるPCやケータイなどクライアント側においても、「OSは消えていく」方向に進んでいるように思う。PCにおいても、iPhoneやAndroid端末などにおいても、アプリケーションがネットと連携することはもう当たり前だし、アプリケーション自体もWebベースになりつつある。
こうなると、主役は断然「ブラウザ」なのであって、OSはだんだん存在感が薄くなる。そこで求められるのは「ブラウザが動く」ことであり、その役割はまさに「ネット端末」なわけだ。
PCやケータイの「ネット端末」化が進むということは、アプリケーションの実体がサーバ側に移され、そのアプリケーションの「画面」だけがネットを通じて転送されてくる、ということを意味している(例えばGmailなど、Googleのサービスはほとんどこのパターン)。すでに、いまのウェブサイトは大半が「アプリケーション」として作られており、それが生成するHTMLはもはや「コンテンツ」というよりも「画面」である。
アプリケーションの実体がサーバ側に移されていくので、サーバベースのシステムはますます増える。そのサーバベースのシステムが、ほとんどすべてクラウドに向かっていくのだから、ビジネスとして見たとき、クラウドというのはとてつもない成長市場なわけだ。
VMwareはこのところ、単なる仮想化技術のベンダにとどまらず、オープンソースのWebフレームワークやその周辺技術にも勢力をひろげつつある。その理由は、とてつもない成長市場であるクラウドにおいて、オープンソースのWebフレームワークやその周辺技術はまさに「プラットフォーム」であり、これがクラウドのカギを握ることがよく見えているからだろう。
この「プラットフォーム」は、かつてティム・オライリーが「インターネットOS」と呼んでいたパラダイムが具現化したものと見ることもできる。従来のOSが消えていき、その役割はネット上に拡散した「インターネットOS」に受け継がれつつあるわけだ。
関連エントリ:
最有力のIT・ネット企業6社「GAMANA(ガマナ)」がしのぎを削るプラットフォーム争奪戦
http://mojix.org/2009/10/20/gamana_platform
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http://mojix.org/2008/09/05/html_is_not_content
Google App Engine - これこそ「Google OS」だ
http://mojix.org/2008/04/10/google_app_engine
CNET Japan 「オライリーのインターネットOS論」
http://mojix.org/2004/01/20/120400