「プロジェクトK」の若手官僚2人が霞が関を去り、政策シンクタンク「青山社中」を設立
asahi.com - 国政改革「内から」は限界 若手官僚2人がシンクタンク(2010年11月15日0時19分)
http://www.asahi.com/politics/update/1112/TKY201011120541.html
<「内からの改革」を掲げて数々の「永田町・霞が関」改革案を実名で発表してきた若手官僚2人が、辞職して政策シンクタンクを設立する。菅直人首相に直接、助言した経験もある2人が、いまの政治に欠けると考えるのは「戦略性、長期性、総合性」だ。この3条件を満たす政治の実現へ、今後は「外からの改革」を目指す。
シンクタンクを設立するのは、経済産業省資金協力課の課長補佐を12日付で退職した朝比奈一郎さん(37)と、10月に内閣官房知的財産戦略推進事務局を退職した遠藤洋路さん(35)。元文部科学省官僚で、いまは民間会社に勤める神谷学さん(36)が社外パートナーを務める>。
霞が関を去り、シンクタンクを設立する(左から)遠藤さん、朝比奈さん。右は社外パートナーの神谷さん=12日午前、東京・霞が関、橋本弦撮影
<社名は、東京都港区の所在地と坂本龍馬が長崎に設立した貿易商社の名を取り、「青山社中」。設立日は、龍馬の誕生日と命日の11月15日だ。国会議員や自治体の首長らに政策提言し、「外からの変革へ努力をしたい」(朝比奈さん)。
2人は、若手官僚21人が2003年に立ち上げた「プロジェクトK」の初期メンバー。政治主導の仕組みをつくる改革案を「霞ケ関構造改革・プロジェクトK」(東洋経済新報社)と銘打って出版し、当時の小泉純一郎首相にも届けた。この本で提言した「総合戦略本部」「国民参加型行政レビュー」は、民主党政権で「国家戦略室」「事業仕分け」として実現した。
だが、これだけでは永田町・霞が関の改革は不十分という思いが募った。政治にはもっと「戦略性、長期性、総合性」が必要ではないか。官僚の立場では活動時間や発言に制約があり、「内からの改革」にも限界を感じていた>。
これはいい動きだと思う。
日本の官僚はいわば「公営シンクタンク」みたいなもので、政策のノウハウが官僚にばかり集中しすぎている(「官僚を「公営シンクタンク」として使う、日本の安上がりな政治システム」)。政治家を通じて、日本国民はいわば「日本の経営」を官僚に「おまかせ」してきたわけだ。
民主党政権の「政治主導」がかけ声倒れに終わったのもこのためで、それなりに「政策通」の政治家だったとしても、官僚の持つ政策のノウハウ、その量と深みにはとても太刀打ちできないわけだ。これまでの日本は「政権交代」自体がなかったのだから、政権を獲り、「フタをあけてみて」初めてわかったこともたくさんあるだろう(外交もしかり)。この点では、私は民主党政権にちょっとだけ同情している。
天下り問題も、単に官僚を「ワルモノ」扱いして、天下りをただ表面的に禁止すれば解決するというものではないと思う。官僚に集中しすぎている仕事・役割を減らしたり、公務員の雇用や人事評価の制度自体を見直して、官僚が組織防衛ではなく国益のために働きたくなるように「インセンティブ」を再設計する必要がある。
そのような意味で、経験とノウハウを持った官僚が政府を離れ、民間の政策シンクタンクを作るというのは、いい動きだと思う。政策ノウハウがいわば「民間流出」するわけで、アメリカのような「回転ドア」とまではいかずとも、民間のシンクタンクに厚みを作っていく方向へ一歩でも踏み出す動きになる。
この朝比奈一郎・遠藤洋路の両氏は、記事にもあるように「プロジェクトK(新しい霞ケ関を創る若手の会)」のメンバーとしても知られている。「内からの改革」を以前から実名で提案してきたわけで、そのような発信型・改革型の人材は、官僚としてはおそらく例外的で、むしろはじめからシンクタンク向きの人たちだったのかもしれない。
今年の3月に「朝日新聞グローブ「インタビュー 理想の公務員」がとてもいい」というエントリで紹介した朝日新聞グローブの特集に、ちょうどこの両氏が参加した座談会形式のインタビューがある。
朝日新聞グローブ - インタビュー 理想の公務員 [第13回] [若手官僚の言い分]
私たちが考えていたほうへ、少しずつ動いてきている
http://globe.asahi.com/feature/100308/side/13.html
とても面白いインタビューで、例えばこんな一節がある。
<よくニュースなどで「政府は……」という言葉を聞きます。「政府は今日の閣議で○○を決めた」とか。役所に入る前、私は「政府」というところがあって、そこで国全体のことを決めているのだと思っていた。でも、役所に入ってみたら、いろいろな省はあるけれど、「政府」ってどこにあるのかわからない。そこで、ある時、当時の上司に「よくニュースで出てくる『政府』ってどこにあるんですか?」って聞きました。一度見に行こうと思って。そうしたら「ここだよ」と(笑)。「え?ここが政府?」みんな自分の省のことは考えているけれど、だれも国全体の方針など決めていない。それぞれの省で決めたことが、「国の方針」になっていると、その時初めて知りました>。
このインタビューを読んでも、朝比奈氏・遠藤氏は何が問題であるかをよくわかっていて、しかし官僚のポジションではやれることに限界があると感じているような、そんなもどかしさが伝わってくる。
日本の弱みは「政治」にあることは間違いないだろう。しかし、それは単に「政治家が悪い」「官僚が悪い」という話ではなく、どちらかといえば「国民が政治のことをあまりにも考えていない」ことに根本原因があると思う(「日本をダメにしたのは誰か」)。いわば、世論が「薄い」わけだ。これがマスコミにおける政策論の「薄さ」や、政治家になる人材の層の「薄さ」などにつながって、「公営シンクタンク」たる官僚に政策が集中するという「おまかせ構造」を生んでいるわけだ。
民間の政策シンクタンクというのは、「公営シンクタンク」たる官僚から、政策立案という仕事・役割を「民間に取りもどす」ものだ。いわば「政策の民営化」である。国民がもっと政治のことを身近に考え、世論を「厚く」していくためには、この民間の政策シンクタンクが大きな役割を果たすように思う。シンクタンクが多種多様な「政策パッケージ」を用意し、国民がそれを通じて政策論になじんでいれば、政治家は空疎なスローガンでなく、すでにできあがっている「政策パッケージ」を使って選挙を戦うことができる。そして当選したあとも、すでにできあがっている「政策パッケージ」を使って政治をやっていけば、官僚に「おまかせ」する度合いを減らすことができるだろう。
関連エントリ:
朝日新聞グローブ「インタビュー 理想の公務員」がとてもいい
http://mojix.org/2010/03/26/globe_risou_koumuin
官僚を「公営シンクタンク」として使う、日本の安上がりな政治システム
http://mojix.org/2009/09/03/japan_thinktank
日本をダメにしたのは誰か
http://mojix.org/2009/05/15/nihon_dame
http://www.asahi.com/politics/update/1112/TKY201011120541.html
<「内からの改革」を掲げて数々の「永田町・霞が関」改革案を実名で発表してきた若手官僚2人が、辞職して政策シンクタンクを設立する。菅直人首相に直接、助言した経験もある2人が、いまの政治に欠けると考えるのは「戦略性、長期性、総合性」だ。この3条件を満たす政治の実現へ、今後は「外からの改革」を目指す。
シンクタンクを設立するのは、経済産業省資金協力課の課長補佐を12日付で退職した朝比奈一郎さん(37)と、10月に内閣官房知的財産戦略推進事務局を退職した遠藤洋路さん(35)。元文部科学省官僚で、いまは民間会社に勤める神谷学さん(36)が社外パートナーを務める>。
霞が関を去り、シンクタンクを設立する(左から)遠藤さん、朝比奈さん。右は社外パートナーの神谷さん=12日午前、東京・霞が関、橋本弦撮影
<社名は、東京都港区の所在地と坂本龍馬が長崎に設立した貿易商社の名を取り、「青山社中」。設立日は、龍馬の誕生日と命日の11月15日だ。国会議員や自治体の首長らに政策提言し、「外からの変革へ努力をしたい」(朝比奈さん)。
2人は、若手官僚21人が2003年に立ち上げた「プロジェクトK」の初期メンバー。政治主導の仕組みをつくる改革案を「霞ケ関構造改革・プロジェクトK」(東洋経済新報社)と銘打って出版し、当時の小泉純一郎首相にも届けた。この本で提言した「総合戦略本部」「国民参加型行政レビュー」は、民主党政権で「国家戦略室」「事業仕分け」として実現した。
だが、これだけでは永田町・霞が関の改革は不十分という思いが募った。政治にはもっと「戦略性、長期性、総合性」が必要ではないか。官僚の立場では活動時間や発言に制約があり、「内からの改革」にも限界を感じていた>。
これはいい動きだと思う。
日本の官僚はいわば「公営シンクタンク」みたいなもので、政策のノウハウが官僚にばかり集中しすぎている(「官僚を「公営シンクタンク」として使う、日本の安上がりな政治システム」)。政治家を通じて、日本国民はいわば「日本の経営」を官僚に「おまかせ」してきたわけだ。
民主党政権の「政治主導」がかけ声倒れに終わったのもこのためで、それなりに「政策通」の政治家だったとしても、官僚の持つ政策のノウハウ、その量と深みにはとても太刀打ちできないわけだ。これまでの日本は「政権交代」自体がなかったのだから、政権を獲り、「フタをあけてみて」初めてわかったこともたくさんあるだろう(外交もしかり)。この点では、私は民主党政権にちょっとだけ同情している。
天下り問題も、単に官僚を「ワルモノ」扱いして、天下りをただ表面的に禁止すれば解決するというものではないと思う。官僚に集中しすぎている仕事・役割を減らしたり、公務員の雇用や人事評価の制度自体を見直して、官僚が組織防衛ではなく国益のために働きたくなるように「インセンティブ」を再設計する必要がある。
そのような意味で、経験とノウハウを持った官僚が政府を離れ、民間の政策シンクタンクを作るというのは、いい動きだと思う。政策ノウハウがいわば「民間流出」するわけで、アメリカのような「回転ドア」とまではいかずとも、民間のシンクタンクに厚みを作っていく方向へ一歩でも踏み出す動きになる。
この朝比奈一郎・遠藤洋路の両氏は、記事にもあるように「プロジェクトK(新しい霞ケ関を創る若手の会)」のメンバーとしても知られている。「内からの改革」を以前から実名で提案してきたわけで、そのような発信型・改革型の人材は、官僚としてはおそらく例外的で、むしろはじめからシンクタンク向きの人たちだったのかもしれない。
今年の3月に「朝日新聞グローブ「インタビュー 理想の公務員」がとてもいい」というエントリで紹介した朝日新聞グローブの特集に、ちょうどこの両氏が参加した座談会形式のインタビューがある。
朝日新聞グローブ - インタビュー 理想の公務員 [第13回] [若手官僚の言い分]
私たちが考えていたほうへ、少しずつ動いてきている
http://globe.asahi.com/feature/100308/side/13.html
とても面白いインタビューで、例えばこんな一節がある。
<よくニュースなどで「政府は……」という言葉を聞きます。「政府は今日の閣議で○○を決めた」とか。役所に入る前、私は「政府」というところがあって、そこで国全体のことを決めているのだと思っていた。でも、役所に入ってみたら、いろいろな省はあるけれど、「政府」ってどこにあるのかわからない。そこで、ある時、当時の上司に「よくニュースで出てくる『政府』ってどこにあるんですか?」って聞きました。一度見に行こうと思って。そうしたら「ここだよ」と(笑)。「え?ここが政府?」みんな自分の省のことは考えているけれど、だれも国全体の方針など決めていない。それぞれの省で決めたことが、「国の方針」になっていると、その時初めて知りました>。
このインタビューを読んでも、朝比奈氏・遠藤氏は何が問題であるかをよくわかっていて、しかし官僚のポジションではやれることに限界があると感じているような、そんなもどかしさが伝わってくる。
日本の弱みは「政治」にあることは間違いないだろう。しかし、それは単に「政治家が悪い」「官僚が悪い」という話ではなく、どちらかといえば「国民が政治のことをあまりにも考えていない」ことに根本原因があると思う(「日本をダメにしたのは誰か」)。いわば、世論が「薄い」わけだ。これがマスコミにおける政策論の「薄さ」や、政治家になる人材の層の「薄さ」などにつながって、「公営シンクタンク」たる官僚に政策が集中するという「おまかせ構造」を生んでいるわけだ。
民間の政策シンクタンクというのは、「公営シンクタンク」たる官僚から、政策立案という仕事・役割を「民間に取りもどす」ものだ。いわば「政策の民営化」である。国民がもっと政治のことを身近に考え、世論を「厚く」していくためには、この民間の政策シンクタンクが大きな役割を果たすように思う。シンクタンクが多種多様な「政策パッケージ」を用意し、国民がそれを通じて政策論になじんでいれば、政治家は空疎なスローガンでなく、すでにできあがっている「政策パッケージ」を使って選挙を戦うことができる。そして当選したあとも、すでにできあがっている「政策パッケージ」を使って政治をやっていけば、官僚に「おまかせ」する度合いを減らすことができるだろう。
関連エントリ:
朝日新聞グローブ「インタビュー 理想の公務員」がとてもいい
http://mojix.org/2010/03/26/globe_risou_koumuin
官僚を「公営シンクタンク」として使う、日本の安上がりな政治システム
http://mojix.org/2009/09/03/japan_thinktank
日本をダメにしたのは誰か
http://mojix.org/2009/05/15/nihon_dame