コーヒー各社値上げへ これぞ経済・金融の「生きた教材」
MSN産経ニュース - 相場急騰でコーヒー各社値上げへ 外食などに波及も(2010.12.29 19:50)
http://sankei.jp.msn.com/economy/business/101229/biz1012291951005-n1.htm
<コーヒー豆相場の急騰で、コーヒー各社が値上げに動き出した。キーコーヒーは全体の約8割を占める業務用と家庭用で平均15%値上げすることを決め、味の素ゼネラルフーヅ(AGF)も検討に入った。外食や小売店の販売価格への影響も予想される>。
<米国の金融緩和に伴い、株式市場などから投資マネーが流れ込んでいるほか、「ブラジルやインド、ロシアなど新興国の需要が急増し、需給バランスが変化した」(全日本コーヒー協会)ことも影響している>。
このコーヒー値上げ現象は、まさに経済・金融の「生きた教材」だろう。
金融緩和によって世界的にカネ余りが生じているので、余剰マネーが商品市場(金や原油、コーヒーなど)に流れ込んでいる。「カネ余り」とはマネーの価値が下がることだから、資産をマネーで持っているよりも、商品や不動産、株などのかたちで持っていたほうがいいわけだ。いわゆる「インフレヘッジ」である。
さらにコーヒーの場合、実際に飲まれるという需要があり、特に新興国で需要が急増しているという。新興国は一般に、先進国よりも経済の成長率が高いので、経済の上昇局面では投資マネーが流れ込みやすい。それに加えて、コーヒーは実際の需要が急増しているということであれば、投資家がコーヒーをどんどん「買い上がる」のは当然だろう。
マネーの動きは早い。さらに、マネーは「自分がいちばん増えそうなところ」に向かう傾向がある。国の経済を立てなおすつもりで刷ったマネーも、そんなことにはお構いなしで、とにかく「自分がいちばん増えそうなところ」にすっ飛んでいくだけだ。今回の場合、マネーは「商品市場」「新興国」にすっ飛んでいるわけで、これがコーヒーの価格を引き上げている。
金融緩和という変化にいち早く対応できるのは、それなりの資産とマネーリテラシーを持っている富裕層や投資家だけだ。その「インフレヘッジ」なマネーの移動により、商品市場が吹き上がって、このコーヒー値上げのようなことが起きる。このような原材料費の高騰による値上げは、コーヒーだけではなく、今後いたるところで起きるはずだ。
あらゆるものが値上げされていけば、インフレになり、いずれ給料も上がるかもしれない。しかし、給料が上がるのは「いちばん最後」なのだ。その頃には、富裕層や投資家は「仕込み」や「利食い」を終えているだろう。
金融緩和でトクするのは、このようなマネーリテラシーと資産を持っている富裕層や投資家に加えて、大きな借金を抱えている政府もそうである。マネーの価値が下がれば、同じ額面の借金でも、その実質の量が減るからだ。天文学的な借金を抱えている日本政府は、この方法を使って「借金をチャラ」にしたい、という動機を持たないはずがない。
いっぽう、マネーリテラシーや資産をあまり持っておらず、政府でもない一般の人は、金融緩和でトクをすることはむずかしい。「インフレヘッジ」に対応できるほどの資産もなく、少ない給料のうちせいぜい一定額を貯金するくらいが、普通の人にとっては関の山だろう。このような人は、いろいろな商品の値上げに苦しめられ、そのわりに給料は上がらないし、さらに少しずつ貯めた貯金まで、その実質価値が目減りしていくことになる。フォン・ミーゼスはこれを「インフレは貯蓄を破壊する(Inflation Destroys Savings)」と表現している。
金融危機のような異常な状態を脱出するには、金融緩和も必要である。しかし、必要以上に金融緩和してしまうと、このような「カネ余り」が生じて、マネーは「自分がいちばん増えそうなところ」に向けて走りはじめる。国内政策のつもりで金融緩和しても、マネーに国境はない。
政府が金融緩和を止めないのであれば、富裕層・投資家はそれを「利用する」までだ。「インフレヘッジ」できるほどの資産がない一般人も、せめてマネーリテラシーをつけて、この流れを生み出している構造・メカニズムを「理解する」ことはできる。このコーヒー値上げ現象は、そのための「生きた教材」である。
関連:
ウィキペディア - コーヒー
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3..
Business Media 誠 - 街の喫茶店が“ピンチ”に陥るかもしれない
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1012/09/news076.html
関連エントリ:
フォン・ミーゼス「通貨は市場経済が生み出したものであって、政府が生み出したものではない」
http://mojix.org/2010/05/25/inflation_destroys_savings
なぜリフレ政策より構造改革が重要なのか 日本に足りないのはカネではなく成長力や投資機会である
http://mojix.org/2010/04/08/kouzou_kaikaku
http://sankei.jp.msn.com/economy/business/101229/biz1012291951005-n1.htm
<コーヒー豆相場の急騰で、コーヒー各社が値上げに動き出した。キーコーヒーは全体の約8割を占める業務用と家庭用で平均15%値上げすることを決め、味の素ゼネラルフーヅ(AGF)も検討に入った。外食や小売店の販売価格への影響も予想される>。
<米国の金融緩和に伴い、株式市場などから投資マネーが流れ込んでいるほか、「ブラジルやインド、ロシアなど新興国の需要が急増し、需給バランスが変化した」(全日本コーヒー協会)ことも影響している>。
このコーヒー値上げ現象は、まさに経済・金融の「生きた教材」だろう。
金融緩和によって世界的にカネ余りが生じているので、余剰マネーが商品市場(金や原油、コーヒーなど)に流れ込んでいる。「カネ余り」とはマネーの価値が下がることだから、資産をマネーで持っているよりも、商品や不動産、株などのかたちで持っていたほうがいいわけだ。いわゆる「インフレヘッジ」である。
さらにコーヒーの場合、実際に飲まれるという需要があり、特に新興国で需要が急増しているという。新興国は一般に、先進国よりも経済の成長率が高いので、経済の上昇局面では投資マネーが流れ込みやすい。それに加えて、コーヒーは実際の需要が急増しているということであれば、投資家がコーヒーをどんどん「買い上がる」のは当然だろう。
マネーの動きは早い。さらに、マネーは「自分がいちばん増えそうなところ」に向かう傾向がある。国の経済を立てなおすつもりで刷ったマネーも、そんなことにはお構いなしで、とにかく「自分がいちばん増えそうなところ」にすっ飛んでいくだけだ。今回の場合、マネーは「商品市場」「新興国」にすっ飛んでいるわけで、これがコーヒーの価格を引き上げている。
金融緩和という変化にいち早く対応できるのは、それなりの資産とマネーリテラシーを持っている富裕層や投資家だけだ。その「インフレヘッジ」なマネーの移動により、商品市場が吹き上がって、このコーヒー値上げのようなことが起きる。このような原材料費の高騰による値上げは、コーヒーだけではなく、今後いたるところで起きるはずだ。
あらゆるものが値上げされていけば、インフレになり、いずれ給料も上がるかもしれない。しかし、給料が上がるのは「いちばん最後」なのだ。その頃には、富裕層や投資家は「仕込み」や「利食い」を終えているだろう。
金融緩和でトクするのは、このようなマネーリテラシーと資産を持っている富裕層や投資家に加えて、大きな借金を抱えている政府もそうである。マネーの価値が下がれば、同じ額面の借金でも、その実質の量が減るからだ。天文学的な借金を抱えている日本政府は、この方法を使って「借金をチャラ」にしたい、という動機を持たないはずがない。
いっぽう、マネーリテラシーや資産をあまり持っておらず、政府でもない一般の人は、金融緩和でトクをすることはむずかしい。「インフレヘッジ」に対応できるほどの資産もなく、少ない給料のうちせいぜい一定額を貯金するくらいが、普通の人にとっては関の山だろう。このような人は、いろいろな商品の値上げに苦しめられ、そのわりに給料は上がらないし、さらに少しずつ貯めた貯金まで、その実質価値が目減りしていくことになる。フォン・ミーゼスはこれを「インフレは貯蓄を破壊する(Inflation Destroys Savings)」と表現している。
金融危機のような異常な状態を脱出するには、金融緩和も必要である。しかし、必要以上に金融緩和してしまうと、このような「カネ余り」が生じて、マネーは「自分がいちばん増えそうなところ」に向けて走りはじめる。国内政策のつもりで金融緩和しても、マネーに国境はない。
政府が金融緩和を止めないのであれば、富裕層・投資家はそれを「利用する」までだ。「インフレヘッジ」できるほどの資産がない一般人も、せめてマネーリテラシーをつけて、この流れを生み出している構造・メカニズムを「理解する」ことはできる。このコーヒー値上げ現象は、そのための「生きた教材」である。
関連:
ウィキペディア - コーヒー
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3..
Business Media 誠 - 街の喫茶店が“ピンチ”に陥るかもしれない
http://bizmakoto.jp/makoto/articles/1012/09/news076.html
関連エントリ:
フォン・ミーゼス「通貨は市場経済が生み出したものであって、政府が生み出したものではない」
http://mojix.org/2010/05/25/inflation_destroys_savings
なぜリフレ政策より構造改革が重要なのか 日本に足りないのはカネではなく成長力や投資機会である
http://mojix.org/2010/04/08/kouzou_kaikaku