2011.01.28
フェイスブックが仮想通貨を本格展開 ITプラットフォームは「経済圏」へ向かう
日本経済新聞 - フェイスブック、独自の仮想通貨を本格展開 協力企業に利用義務化(2011/1/25 22:02)
http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=969..

<交流サイト(SNS)最大手の米フェイスブックが収益源の多角化を進める。同社の収益の大半はインターネット広告の売上高が占めているとみられるが、SNSの中で使う「仮想通貨」の提供を本格的に始めて手数料収入を拡大する。広告依存からの脱却は多くのネットサービス企業に共通する課題。フェイスブックの取り組みの成否は注目を集めそうだ。
 フェイスブックは24日に開発者向けブログで、仮想通貨「フェイスブック・クレジット」の利用企業を増やすことを明らかにした。現在はフェイスブックを通じてソーシャルゲームと呼ばれるオンラインゲームを提供する協力企業の一部がクレジットに対応しているが、7月からすべての企業にクレジットでの支払いの受け入れを義務付ける>。

<フェイスブックのダン・ローズ副社長は24日に独ミュンヘンで開かれたIT(情報技術)関連の会議に参加。クレジットについて「ゲームの提供企業が異なっても同じポイントを使えて利便性が高い」と説明した。また「クレジットは(ゲームで使う道具など)バーチャルグッズを購入するための仕組みとして設計している」と述べた。
 物品購入などゲーム以外でのクレジットの利用に対して否定的な見解を示した形だが、米IT業界ではフェイスブックが今回の取り組みを機に決済分野への進出を本格化するとの見方が根強い。フェイスブックは世界で5億人以上の利用者を抱えており、国境を越えて自由に流通する「仮想通貨」の利用が広がれば、新たな経済圏の形成につながる可能性もある>。

これはきわめて重要な動きだと思う。

ただのネット決済であれば、すでに広くおこなわれている。しかし、企業が発行するポイント=「仮想通貨」が、現実の通貨に迫るほど有力化した例は、まだ存在しないと言えるだろう。

あえて言えば、数年前、もっとも注目されていた時期のSecond Lifeが、それに近い位置まで到達していたかもしれない。Second Lifeの「土地」を買って大儲けした人の話などが、話題になっていた頃だ。あの頃は「Second Lifeは次のウェブだ」といった熱狂的な言辞が渦巻いていた。Second Lifeはいまでも有力なプラットフォームだと思うが、あの頃の注目のされ方は、まさにバブルだった。

Second Lifeバブルのあと、いまから1~2年くらい前までであれば、自社で通貨を発行し、それを有力なものにできる企業があるとすれば、Googleをおいてほかにはないと思われていただろう。しかし、最近のFacebookの追い上げは激しく、すでにGoogleを脅かす存在になりつつある。

私は以前、企業の発行する通貨は、ITの「プラットフォーム」と切っても切れない関係にある、と書いたことがある。

企業が通貨を発行する時代 通貨という「プラットフォーム」
http://mojix.org/2010/01/04/company_money

<ここで挙げた「GAMANA」(Google、Apple、Microsoft、Amazon、Nokia、Adobe)のような会社が情報技術のプラットフォームをつかもうとするのは、さまざまなコンテンツやアプリケーションがその上に立つ「基盤」をつかんでしまえば、「胴元」として手数料をピンハネしたり、その「基盤」をどうするかという意思決定を通じて、自社が有利な状況に持っていきやすいからだ>。

<そしてこうしたプラットフォームの上では、すべてが無料ではビジネスにならないので、必ず「決済」プロセス、つまりカネのやりとりが発生する。よって、情報技術のプラットフォームをとりにいく「GAMANA」のような会社は、必ず「決済」について考えている。つまり、情報技術のみならず、「金融」や「通貨」のレベルでも一定の「権力」を狙っているはずだ>。

ここでも触れた「GAMANA」は、2009年10月の「最有力のIT・ネット企業6社「GAMANA(ガマナ)」がしのぎを削るプラットフォーム争奪戦」というエントリで、有力な6社の頭文字を拾って作った造語だった。しかし、最近ではFacebookやTwitterなども大きく浮上してきており、この6社が最有力とはもはや言えなくなってきている。特にFacebookは、アクセス数でもGoogleを抜き、見方によってはいまや最有力のIT・ネット企業と言えるかもしれない。

Facebookは世界最大のSNSとして、数億人の「ユーザアカウント」を握っている。自社の「通貨」を普及させるのに、これ以上有利なポジションにいる企業はないだろう。Googleですら、これに太刀打ちするのはおそらく容易でない。

GoogleやApple、FacebookのようにITプラットフォームを確立した企業は、そこで「決済」の仕組みを必要とするので、遅かれ早かれ「通貨」にまで向かうだろう。こうして、ITプラットフォームは「経済圏」へと進化していく。

ITプラットフォームが「経済圏」へと進化したとき、それは各国の法や通貨とかならず「衝突」するだろう。このとき、各国の政府がどのようにふるまうのかが、きわめて重要である。かんたんに言えば、ITプラットフォームが出現させる経済圏こそが「新しい現実」であり、これにあわせて法制度を変えていく柔軟性を持たない国=政府は、おそらく生き残れないだろう。ネットという「国境なき世界」のほんとうの意味が明らかになるのは、そのときだと思う。


関連エントリ:
これを「リバタリアンIT長者のトンデモ思想」と言い切れるか PayPal創業者ピーター・シールの「先見力」
http://mojix.org/2010/10/21/peter-thiel
企業が通貨を発行する時代 通貨という「プラットフォーム」
http://mojix.org/2010/01/04/company_money
最有力のIT・ネット企業6社「GAMANA(ガマナ)」がしのぎを削るプラットフォーム争奪戦
http://mojix.org/2009/10/20/gamana_platform