2012.12.06
米原万里「漢字かな混じり文は日本の宝」
日本最強伝説 - 漢字かな混じり文は日本の宝(2012年02月24日 11:32)
http://www.nihon-saikyou.net/archives/3288305.html

ロシア語同時通訳者・作家の米原万里(よねはら・まり)氏が「漢字かな混じり文は日本の宝」というエッセイを書いていて、次のような内容だそうだ。

<このサイトラを何度もやっているうちに、日本語のテキストからロシア語へサイトラする方が、その逆よりはるかに楽なことに気付いた。(中略)ということは、アウトプットの問題ではなくて、インプットのプロセスにこそ謎が隠されている。そのようにして私は、時間単位当たり最も大量かつ容易に読解可能なのが日本語テキストなのに気付かされたのである。表音文字だけの英語やロシア語のテキスト、あるいは漢字のみの中国語テキストと違って、日本語テキストは基本的には意味の中心を成す語根に当たる部分が漢字で、意味と意味の関係を表す部分がかなで表されるため、一瞬にして文章全体を目で捉えることが可能なのだ>。

<すっかりこの発見に有頂天になった私は、様々な種類の文章の、日本語版とロシア語版を時間を計りながら黙読してみた>。

<そして、活字にして断言できるほどの自信満々な確信を持つにいたった。黙読する限り、日本語の方が圧倒的に早く読める。私の場合平均七・六倍強の早さで、私の母語が日本語であることを差し引いても、これは大変な差だ>。

日本語は漢字かな混じり文なので、キリル文字(一種のアルファベット)のロシア語に比べて、7.6倍も早く読める、とのこと。

ここでの「早く読める」というのは、一定の内容を含んだテキストを読み終わるのが早い、ということ。一定の時間に読める情報量が、日本語のほうが7.6倍だ、といってもいい。

これは私も以前から思っていて、何度かブログに書いたこともある。

漢字の可能性
http://mojix.org/2005/01/04/231854

<結局のところ漢字とは、手でも、コンピュータでも、「書くのがたいへんな文字」ということになると思う。ではなぜ、そんな面倒なことをわざわざするかというと、「読むのが早い」からだ>。

<中国語や日本語は、どちらかといえば「見るための言語」なんだと思う。漢字という「記号化された絵」を使う以上、聴くよりも見たほうが早い>。

<アルファベットに比べて書くのはたいへんだが、読みとるのは早いという漢字の特性は、もしかすると、それを使う人間を、情報の発信者よりも受信者にしやすいかもしれない。また、聴覚より視覚に比重がある言語という側面では、「しゃべる人」よりも「書く人」にしやすいかもしれない>。

ひらがな、カタカナ、漢字を使い分けられるのが日本語の強み
http://mojix.org/2008/07/05/hiragana_katakana_kanji

<しかし私自身は、その問題意識と同時に、漢字の良さも確信している。漢字は表意文字であり、もっといえば「アイコン」に近いものだ。これはアルファベットやひらがな、カタカナ、ハングルのような表音文字に比べて、書くのは面倒であり、習得もむずかしいが、読み取りの早さにおいて大きな優位性を持っている(「漢字の可能性」)>。

<上記のhituziさんのエントリによると、「分かち書き」をしないのは日本語と中国語だけだそうだが、中国語は漢字しかないので、情報の密度は最高だが、語の切れ目が視覚的にはわかりにくい。日本語はひらがな・カタカナ・漢字をミックスしているので、その文字種が視覚的に切り替わるところが語の切れ目になり、これで大部分の語の切れ目をカバーしている>。

<日本語は、漢字という情報密度が高くて視覚的な文字のパワーを利用しつつ、「単語」という単位のわかりやすさも保持して、「単語に分ける」という思考の手間を省いている。表意文字と表音文字のバランスをとり、東洋と西洋の「いいとこどり」をしたような、欲張りで柔軟な言語だと思う>。

漢字は1文字あたりの情報量が多いので、この点では日本語だけでなく、中国語も有利である。しかし、中国語は全部漢字で「分かち書き」もないので、「単語に分ける」という思考の手間がかかってしまう。日本語も「分かち書き」はないが、漢字・ひらがな・カタカナという文字種の違いがあるので、単語の切れ目がわかりやすい。これが、日本語がもっとも「早く読める」理由だろう。

米原氏も上記のエッセイで、<表音文字だけの英語やロシア語のテキスト、あるいは漢字のみの中国語テキストと違って、日本語テキストは基本的には意味の中心を成す語根に当たる部分が漢字で、意味と意味の関係を表す部分がかなで表されるため、一瞬にして文章全体を目で捉えることが可能なのだ>、と書いている。まったくその通りだと思う。

日本語は、世界の共通言語にはなれなくても、日本が持っている大きな強みだろう。少なくとも「文化」の領域では、日本語の柔軟性が果たしている役割はきわめて大きいと思う(関連:「科学は日本語を必要としないが、文化は日本語を必要とする」)。


関連:
ウィキペディア - 米原万里
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B1%B3..

関連エントリ:
ひらがな、カタカナ、漢字を使い分けられるのが日本語の強み
http://mojix.org/2008/07/05/hiragana_katakana_kanji
漢字の可能性
http://mojix.org/2005/01/04/231854