人が歩行するのも、自転車が走行するのも交通
日経ビジネスオンライン - 「自転車は歩道を走るもの」という誤解をなくしたい 自転車活用推進研究会・小林成基理事長に聞く(2013年1月24日)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20130123/242695/
<通勤の足として定着している自転車。しかし、交通事故に占める自転車の割合は高まっている。「自転車は歩道を走るもの」という誤解が大きな原因という。 NPO法人・自転車活用推進研究会(自活研)の小林成基理事長に、安全で快適に自転車を利用するために必要な対策を聞いた。(聞き手は田中太郎) >
NPO法人・自転車活用推進研究会(自活研)の小林成基理事長へのインタビュー。賛同できる発言がたくさんある。
<実際には8000万台とも言われています。防犯登録だけでは売れている自転車の3分の2ぐらいしか把握できず、正確な統計はありません>。
<利用者が増え続けている理由は、主に3つあります。ライフスタイルの変化とガソリン価格の高騰、そしてものすごいスピードで進んでいる高齢化が影響を与えています。自動車を運転しなくなった高齢者の6割が自転車に乗り換えているという調査結果もあります。徒歩や公共交通に切り替える人は3割ぐらいしかなく、自転車が断トツに多いのです>。
日本に自転車は7000万台~8000万台あるそうで、高齢化の進展により、自転車はさらに増えているという。
<交通安全白書によると、自転車の交通事故は2011年で約14万4000件です。死亡事故者数でいうと、4612人のうち13.6%が自転車関連のもので、長期的に比率は高まっています。事故の原因を調べると、ほとんどが交差点での出会いがしらで、自動車が認知していないことが原因で事故が起きていることがわかってきました。自転車から自動車は見えるけれど、自動車からは歩道を走っている自転車まではなかなか目が届きません。そこで、警察庁が2011年の10月に「自転車は車両であることを徹底する」という趣旨の通達を出しました>。
自転車の交通事故は、ほとんどが交差点での出会いがしらで起きており、自転車が歩道を走っていたために、自動車が認知していなかったのが原因、とのこと。
<これは法律の解釈を変えたわけでも何でもなく、もともと道路交通法では自転車は車両であり、車道を走ると定めています。なぜ、あえて通達を出す必要が生じたのかというと、自動車の交通量が増えた1970年に緊急避難的に自転車は歩道を走っていいというルールをつくったからです。例外的に認めたはずのルールが、いつのまにか当たり前になってしまったのです>。
<本来は、自動車免許を取得する際に「自転車は車両であり、自動車と同じなんだ」とドライバーに教えればよかったのです。これまで、日本ではそれをやってきませんでした>。
道路交通法では自転車は車両であり、車道を走ると定められている。しかし、1970年に例外的に認めたルールが定着してしまい、自転車が歩道を走るのが当たり前になってしまった、とのこと。いずれにしても、法が現実に追いついていないということだろう。
<警察庁と並行して国土交通省でも議論を進めています。自転車に歩道を走らせていると交通事故は減らない。しかし、車道は危なくて走りにくい。それならば、どういう整備をすればよいのかを話し合うために委員会をつくり、2012年の4月に「みんなにやさしい自転車環境-安全で快適な自転車利用環境の創出に向けた提言」をまとめました。私も議論に参加しましたが、この提言書でも「自転車は車道を走らないと危険」という前提に立ち、道路整備の在り方を提案しています>。
改善の取り組みはおこなわれているようだが、あまり優先的に取り組まれている感じではなさそうだ。この調子だと、具体的に効果が上がるのはまだだいぶ先だろう。
「自転車は車道を走らないと危険」というのも、政府のキャッチフレーズとしてはそうだろうが、国民の実感としてはむしろ逆だ。「自転車が車道を走るのは危険」だと感じるからこそ、自転車は歩道を走るのだろう。
自転車が歩道でなく車道を走るようになるには、「自転車は車道を走れ」というキャッチフレーズをいくら唱えても意味がない。「自転車が車道を走っても大丈夫だ」と思えるような具体的な仕組み、つまり法整備と道路整備が必要である。いまのルールが不備なのだから、利用者のモラルを責めてもしょうがない(関連:「ルールがおかしい場合、モラルを責めてもしょうがない」)。
<みんなが自動車最優先の「クルマ脳」になってしまっているから、そんな議論になってしまうのです。人が歩行するのも、自転車が走行するのも交通ですよね。これからはクルマ前提の道づくり、街づくりを変える必要があります>。
まったくその通りだと思う。道路という公共空間の大部分を、クルマが専有しているという現状はおかしい。
これは権利の問題であるだけでなく、都市計画やまちづくりの問題でもあり、日本の将来を左右する大きな問題である。
<自転車を活用できる環境づくりは、自転車のことばかり主張していてはダメで、総合的な対策でしか生まれません。歩く人たちの快適性を上げ、バスなどの公共交通が使いやすい街づくりを進めれば、おのずと自転車も使いやすくなるはずです。世の中を変えるには法律が大きな力を持ちます。政治家には、超高齢社会に合った道路交通法を考えてもらいたいと思います>。
政治家に考えてもらうというよりも、国民がもっと主体的になり、本気で声をあげていかなければ、政治家は動かないだろう。
道路という公共空間の大部分をクルマが専有していることは、いわば「既得権益」である。この「既得権益」を崩さない限り、歩行者や自転車は肩身が狭いままだろう。しかし、歩行者や自転車の快適性を上げるために、クルマをもっと制限しようという話がより具体化すれば、さまざまな政治的抵抗が生じてくるにちがいない。道路やクルマの問題は、自動車産業と切っても切れない関係にあるからだ。しかし日本の経済は、その自動車産業に少なからず依存している。よって、これはなかなか厄介な問題なのである。
関連エントリ:
道路は誰のものか
http://mojix.org/2011/07/18/douro-darenomono
自転車の事故が増えたのはなぜか マナーで解決する問題ではない
http://mojix.org/2010/11/23/jitensha-jiko
信号や標識を撤去すると、逆に安全になる?ハンス・モンデルマンの「Shared Space(共有空間)」
http://mojix.org/2009/10/13/shared_space
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20130123/242695/
<通勤の足として定着している自転車。しかし、交通事故に占める自転車の割合は高まっている。「自転車は歩道を走るもの」という誤解が大きな原因という。 NPO法人・自転車活用推進研究会(自活研)の小林成基理事長に、安全で快適に自転車を利用するために必要な対策を聞いた。(聞き手は田中太郎) >
NPO法人・自転車活用推進研究会(自活研)の小林成基理事長へのインタビュー。賛同できる発言がたくさんある。
<実際には8000万台とも言われています。防犯登録だけでは売れている自転車の3分の2ぐらいしか把握できず、正確な統計はありません>。
<利用者が増え続けている理由は、主に3つあります。ライフスタイルの変化とガソリン価格の高騰、そしてものすごいスピードで進んでいる高齢化が影響を与えています。自動車を運転しなくなった高齢者の6割が自転車に乗り換えているという調査結果もあります。徒歩や公共交通に切り替える人は3割ぐらいしかなく、自転車が断トツに多いのです>。
日本に自転車は7000万台~8000万台あるそうで、高齢化の進展により、自転車はさらに増えているという。
<交通安全白書によると、自転車の交通事故は2011年で約14万4000件です。死亡事故者数でいうと、4612人のうち13.6%が自転車関連のもので、長期的に比率は高まっています。事故の原因を調べると、ほとんどが交差点での出会いがしらで、自動車が認知していないことが原因で事故が起きていることがわかってきました。自転車から自動車は見えるけれど、自動車からは歩道を走っている自転車まではなかなか目が届きません。そこで、警察庁が2011年の10月に「自転車は車両であることを徹底する」という趣旨の通達を出しました>。
自転車の交通事故は、ほとんどが交差点での出会いがしらで起きており、自転車が歩道を走っていたために、自動車が認知していなかったのが原因、とのこと。
<これは法律の解釈を変えたわけでも何でもなく、もともと道路交通法では自転車は車両であり、車道を走ると定めています。なぜ、あえて通達を出す必要が生じたのかというと、自動車の交通量が増えた1970年に緊急避難的に自転車は歩道を走っていいというルールをつくったからです。例外的に認めたはずのルールが、いつのまにか当たり前になってしまったのです>。
<本来は、自動車免許を取得する際に「自転車は車両であり、自動車と同じなんだ」とドライバーに教えればよかったのです。これまで、日本ではそれをやってきませんでした>。
道路交通法では自転車は車両であり、車道を走ると定められている。しかし、1970年に例外的に認めたルールが定着してしまい、自転車が歩道を走るのが当たり前になってしまった、とのこと。いずれにしても、法が現実に追いついていないということだろう。
<警察庁と並行して国土交通省でも議論を進めています。自転車に歩道を走らせていると交通事故は減らない。しかし、車道は危なくて走りにくい。それならば、どういう整備をすればよいのかを話し合うために委員会をつくり、2012年の4月に「みんなにやさしい自転車環境-安全で快適な自転車利用環境の創出に向けた提言」をまとめました。私も議論に参加しましたが、この提言書でも「自転車は車道を走らないと危険」という前提に立ち、道路整備の在り方を提案しています>。
改善の取り組みはおこなわれているようだが、あまり優先的に取り組まれている感じではなさそうだ。この調子だと、具体的に効果が上がるのはまだだいぶ先だろう。
「自転車は車道を走らないと危険」というのも、政府のキャッチフレーズとしてはそうだろうが、国民の実感としてはむしろ逆だ。「自転車が車道を走るのは危険」だと感じるからこそ、自転車は歩道を走るのだろう。
自転車が歩道でなく車道を走るようになるには、「自転車は車道を走れ」というキャッチフレーズをいくら唱えても意味がない。「自転車が車道を走っても大丈夫だ」と思えるような具体的な仕組み、つまり法整備と道路整備が必要である。いまのルールが不備なのだから、利用者のモラルを責めてもしょうがない(関連:「ルールがおかしい場合、モラルを責めてもしょうがない」)。
<みんなが自動車最優先の「クルマ脳」になってしまっているから、そんな議論になってしまうのです。人が歩行するのも、自転車が走行するのも交通ですよね。これからはクルマ前提の道づくり、街づくりを変える必要があります>。
まったくその通りだと思う。道路という公共空間の大部分を、クルマが専有しているという現状はおかしい。
これは権利の問題であるだけでなく、都市計画やまちづくりの問題でもあり、日本の将来を左右する大きな問題である。
<自転車を活用できる環境づくりは、自転車のことばかり主張していてはダメで、総合的な対策でしか生まれません。歩く人たちの快適性を上げ、バスなどの公共交通が使いやすい街づくりを進めれば、おのずと自転車も使いやすくなるはずです。世の中を変えるには法律が大きな力を持ちます。政治家には、超高齢社会に合った道路交通法を考えてもらいたいと思います>。
政治家に考えてもらうというよりも、国民がもっと主体的になり、本気で声をあげていかなければ、政治家は動かないだろう。
道路という公共空間の大部分をクルマが専有していることは、いわば「既得権益」である。この「既得権益」を崩さない限り、歩行者や自転車は肩身が狭いままだろう。しかし、歩行者や自転車の快適性を上げるために、クルマをもっと制限しようという話がより具体化すれば、さまざまな政治的抵抗が生じてくるにちがいない。道路やクルマの問題は、自動車産業と切っても切れない関係にあるからだ。しかし日本の経済は、その自動車産業に少なからず依存している。よって、これはなかなか厄介な問題なのである。
関連エントリ:
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