2008.05.28
雇用規制撤廃と減税で日本経済は再生する
ITpro - 「受託中心と多重下請けが日本IT産業の低収益の要因」---経産省 情振課長 八尋俊英氏
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20080527/304373/

「受託中心と多重下請け」がダメ、というのはその通りだと思う。ではなぜ、受託と多重下請けがはびこるのか。

この問題は日本のIT産業だけでなく、日本の産業全体を貫いていると思う。逆にいえば、これを克服できれば、IT産業にとどまらず、日本経済そのものを再生できると思うのだ。

私もIT産業に身をおく人間であり、かつ日本経済の再生を心より願っている人間だ。その立場から、私なりに考えたこの問題のポイントと解決策について書いてみたい。

■ 受託がはびこる原因

「受託」とは、エンドユーザ(情報システムを必要としている顧客)が、ITエンジニアを直接雇って自社で作ることをせず、SIer(「エスアイヤー」と読む。「システムインテグレータ」の意味)やソフトハウスと呼ばれる専門業者に発注する構造のこと。これを専門業者から見て「受託」と呼ぶ。エンドユーザから見ると「外注」になる。

なぜエンドユーザが自社開発しないで外注するかというと、主に次の3つくらいの理由があると思う。

(1)ITを軽視している。ITエンジニアを事務要員くらいに考えており、ほとんどコストをかけたくない。ITが効率だけでなくビジネス戦略そのものに直結していることを理解していない。

(2)ITエンジニアを雇う能力の不足。ITを軽視はしていないが、自社がどんな技術を必要としていて、それにどんなITエンジニアがふさわしいかわからないので、雇えない。

(3)ITエンジニア雇用のリスクがとれない。ITを軽視していないし、雇う気持ちがあるとしても、採用がうまくいかなかったり、採用後に自社のニーズとエンジニアのスキルがずれてきた場合に解雇が困難なので、採用できない。

ここで(1)、(2)は主にマインドや知識不足の問題だ。(1)だと難しいが、(2)まで来ていれば、コンサルティングや専門家を頼むことで解決可能な範囲だと思う。

問題なのは(3)だ。これはITエンジニアに限らず、日本の会社におけるすべての「雇用」につきまとう、最大の問題だろう。

ITはとても進化が早いうえに、個々のエンジニアの能力差も激しいので、他の職種よりも雇用リスクが高いと思う。つまり会社にとっては、ITエンジニアの雇用というのは成功と失敗の幅が大きい、ハイリスク・ハイリターンな投資になる。

■ 多重下請けがはびこる原因

「多重下請け」というのは、エンドユーザから仕事を受託する側の業者が、自社で開発せず、さらに別の業者に発注する構造のこと。ここで仕事を依頼される業者が「下請け」であり、エンドユーザから直接仕事をもらうのではなく、「親」の業者から仕事をもらっている格好になる。さらにこの下請け業者が、別の下請け業者に発注する、というのが繰り返される構造が「多重下請け」だ。

なぜ業者が自社で開発せず、別の下請け業者に出すのかというと、もっとも多い理由は「受注に波がある」からだ。受託する仕事にはつねに増減があるので、必要なエンジニアをすべて自社で雇ってしまうと、仕事が減ったときに人余りになってしまう。

しかしこれも、結局は上の(3)と同じであって、「仕事がないときに、余った人員を解雇できない」のが問題なのだ。仕事がなくなって、解雇もできないのでは会社はつぶれてしまう。だから、最初から自社で採用しないで、外注に回してしまうのだ。

もし自由に解雇できるならば、どんどん自社で採用できる。自社で採用できるなら、ほんとうはそのほうがベターなのだ。外注だとコミュニケーション・コストが高くなるし、自社の社員のほうが前提知識も共有しているので、断然やりやすいのだ。

■ 解雇規制はIT業界だけでなく、日本の産業全体をつぶす

解雇規制は、一見したところ「雇用を守る」という弱者保護政策に見えるが、実際は「耳あたりがいい」だけの、きわめて近視眼的で間違った政策だ。

解雇規制があるからこそ、企業は正社員を採用しないで外注に回したり、派遣やバイトで済ませる。つまり、解雇規制によって正規雇用はむしろ減ってしまうのであり、さらに上記の多重下請け構造のような馬鹿らしい非効率をいたるところに生んでしまうのだ。

現在は解雇規制のおかげで、日本の雇用流動性が低く抑えられている。「労働力の流れ」が停滞していて、人材が足りない場所と余っている場所のミスマッチが解消されないし、特に割を食う若年労働者(労働市場への新規参入者)がスキルアップできないまま時間が経過していく。この「労働力の流れ」の停滞によって、刻々と変化する世界の状況に、日本の産業全体がついていけていないのだ。これではIT産業どころか、日本の産業全体が壊滅しかねない。

こんな解雇規制が残っているのは政治家も悪いが、上記のような仕組みを理解せず、「雇用を守る」という耳あたりのいい政策に騙されてしまう一般人も悪い。

一般人は投票によって政治家への信任・不信任を選ぶのだから、政治家を選ぶことで、結局は政策を選ぶことになる。だとすれば、「主権」である一般人がやはりこの問題を理解する必要があるのだ。

■ 産業振興策は不要、規制撤廃と減税だけで日本経済は再生する

解雇規制を始めとしたさまざまな規制のうえに、高い税金を徴収し、その税金をバラまいて「産業振興」をやろうという方向は、ほとんど計画経済ではないか。

いまの日本がやるべきことは、まったくその反対だ。あらゆる規制を撤廃し、大胆に減税して、企業に思い切り自由にさせればいい。カネを効率的に活かす方法は、しょせん他人のカネでしかない政府よりも、みずから努力してそのカネを稼いだ会社や人のほうが、よく知っているのだ。

そのかわり、産業振興やバラまきは全部なくして、政府のムダも徹底的に削る。これで、企業や地方自治体もバラまきの恩恵にすがる悪習から脱して、自活する方向に進むしかなくなる。これこそ本来あるべき、健全なやり方だ。

規制撤廃・減税という方向を打ち出せば、日本の会社が元気になるだけでなく、外国からの投資もすぐに増えるはずだ。日本は技術力やクリエイティビティ、ていねいで勤勉な国民気質などは、世界一ともいえるほど評価が高いのに、経済成長を削いでしまう規制と高い税率のために、投資対象としての評価を下げられている。

次の選挙ではぜひとも、規制撤廃と減税をやってくれる政治家を選びたい。

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