2009.10.05
解雇規制は日本の「下流化」を促進している
解雇規制は、おそらく日本の「下流化」を促進している。

これは、解雇規制によって正規・非正規の「身分制度」ができており、非正規という「下層」にいったん入ってしまうと、なかなか正規という「上層」に行けない、というだけではない。

解雇規制を経営者の視点で見ると、正社員を採用することは採用失敗時のリスク・コストが高いから、派遣やアルバイトなどをより多く使おう、というふうに考える。業績の変動にあわせて「調整」できるからだ。

これを前提にすれば、会社の事業内容・ビジネスモデル自体も、高度なスキル・専門性・経験を持つ人材を活かすようなものよりも、単純労働に近いもの、「派遣やアルバイトなどで成立しやすいビジネス」にしたほうが有利である。

高度なスキルや専門性を要しない、単純労働に近い労働によって成立するビジネスは、「高いものを少し売る」ようなビジネスではなく、「安いものをたくさん売る」ようなビジネスになりやすい。コンビニやファーストフードなどに典型的な、フランチャイズによって自動化・規格化が高度に進んでいるようなビジネスがその代表例だろう。こうしたビジネスはよく「郊外型」などと呼ばれ、比較的単純な労働しか必要とせず、売っているものも食品や日用品なので、いたるところに進出できる。

このように、解雇規制は雇用の流動性を奪っているだけでなく、会社の事業内容・ビジネスモデル自体を「単純労働」の方向へシフトさせ、いわば「下流化」を促進していると考えられる。

高学歴ワーキングプアやポスドク問題に象徴されるように、日本ではせっかく税金をかけて「高度人材」を育成しても、それがビジネスに結びついていかない。むしろ「厄介者」になっており、企業に補助金を出さないと採用されないという不条理な事態になっている。日本の企業が「高度人材」を採用できないのは、採用失敗時のリスク・コストが高すぎるからだ。さらに、会社のビジネスモデルが全体として「下流化」していれば、ますます「高度人材」の活躍する余地は小さくなる。

こうして考えてみると、解雇規制という正社員保護は、

1)正規・非正規の「身分制度」や、若年者の高失業といった雇用問題
2)雇用の流動性が失われ、会社間・産業間で人材の移動が起こりにくくなる

という問題に加えて、

3)日本企業のビジネスモデル自体を「下流化」させる

という問題を生んでいることがわかる。

この「構造」が変わらない限り、日本企業のビジネスモデルはどんどん「下流化」していき、そこでは「単純労働」しか求められないので、会社と人材の双方がひたすら「下流化」していく。まさに「負のスパイラル」である。

そして「単純労働」というのは、賃金の安い途上国との競争からモロに影響を受ける部分だから、日本国内の労働者に対してはさらに賃金切り下げの圧力がかかり、また雇用の海外流出も加速する。「単純労働」で、日本が世界と競争することはできないのだ。

結局のところ、解雇規制は会社と人材の双方を「下流化」しており、要するに日本を「下流化」している。これは日本の国際競争力を低下させ、世界との競争に敗れることを運命づけられた方向である。

国際競争力のある高付加価値ビジネスは、「高度人材」から生まれる。「高度人材」を活用できる会社を育てるには、強い規制や高い税金で会社を縛り上げることをやめて、負担を軽くし、自由に経営させる必要がある。

「派遣切り」で職を失う人はたしかに「弱者」だが、それを生んでいるのは強欲な経営者ではなく、政府が会社に課している強い規制と高い税金が根本的な要因である。ほんとうに日本を活性化させたいのであれば、解雇規制をはじめとする会社への強い規制を緩和し、世界一高い法人税を引き下げることこそ、最良の方策である(このことを最もよく理解しているのが、シンガポールなどの小国)。これで、「下流化」も「負のスパイラル」もすべて反転していくだろう。経営者をワルモノ扱いして、「企業や経営者を懲らしめる」といった考え方をしている限り、状況はますます悪くなるだけだ。雇用を生むのは企業なのである。


関連エントリ:
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http://mojix.org/2009/07/01/post_doctor_hojokin
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http://mojix.org/2008/10/01/solve_highedu_worpoor