2009.12.11
競争好きのアメリカ 「敗者への寛容」と「勝者への寛容」
陸上選手の為末大(ためすえ だい)氏が、アメリカの「競争好き」について書いている(為末氏は現在、米国サンディエゴに住んでいる)。

為末大オフィシャルサイト「侍ハードラー」 - a competitive person
http://tamesue.cocolog-nifty.com/samurai/2009/12/a-competitive-p.html

<しかしこの国の競争好きには驚かされます。何を持ってしても競争競争、どちらが勝つかどちらが負けるか>。

<american idolという番組がありまして、これはこちらのスター誕生です。so you think you can dance、これはこちらのダンススター誕生です。あとはタイトルを忘れましたが、スターデザイナー誕生、スターモデル誕生、スター料理人誕生、、。個人にキャラクターがあり、戦いに全力で挑み、そしてジャッジ、勝者と敗者が生まれ、勝者は光り輝く。アメリカ人はこのプロセスが大好きです。
 この感覚は日本にはなかなかありません。敗者を見ているといたたまれない気持ちになりますし、勝者が全部を手にすると、これまた嫉妬の波が襲ってまいります。何よりも、今からあなたの能力を大衆の目の前でジャッジしますという状況を、日本人としてはなかなか受け入れられません>。

<なんでこの国の人間はこんなに挑みたがって、勝負したがって、さらには人から否定される事が平気なんだろう。勝負のプロセスを見ていて、そういう事が浮かびました>。

<一つに、敗者への寛容ではないかと思います。全力で挑んで負けた人間に、こちらは寛容であります。反対に勝者であってもそこに手抜きが見られた場合、こちらの評価は受けられません。結果主義のように見えて、意外とプロセスを重要視して、結果が出た後はさっぱりしているのです>。

<もう一つに勝者への寛容であります。こちらの勝者は半端じゃなく、いろんなものを手に入れます。富、名声、地位、様々なものを一夜にして手に入れるような事もざらにあります。そういうものを見て、こちらはやっぱり勝つとああなれるんだね、という素直な反応で受け入れる。抜きん出た存在への嫉妬がありません>。

<結果に対しての寛容。チャレンジへの寛容。東洋は善悪に対して寛容でありますが、こちらは勝負の世界に見えて、実は勝敗に対して寛容であります。勝負が至る所にあるから、立ち上がりやすいのです。
 挑戦者を増やすには、挑戦したかどうかを評価基準にしなければならないのは、スポーツをやっていると肌で感じる事です。
 挑戦して失うものより得るものが多いと思えば人は挑みたがります。日本では挑むよりも、失敗の無いように確実に日々同じ事を繰り返した方が、失うものより得るものが多いと、思わされてしまいます>。

まったく同感しっぱなしの内容だ。以前「アメリカ人は「希望駆動型」、日本人は「危機感駆動型」」というエントリで紹介した、日本は失敗を許容しない「無謬信仰」が強いため、「失敗を認める」「失敗から学ぶ」ことができないという竹中正治氏の見方とも完全に重なる。

アメリカは<挑戦したかどうか>が評価基準なので、負けたとしても挑戦しないよりはずっといいし、勝ったら素直に賞賛される。日本は負けると責められて、勝っても妬まれたり叩かれたりするので、誰も挑戦しなくなる。

<アメリカと日本の差は、「失敗」を認めるかどうかの差ではないだろうか。アメリカは失敗を許容し、失敗してもまたチャレンジすればいいと考えるので、そのぶん成功も増える。日本は失敗を許容しないので、チャレンジが減り、成功も減る>(「1年のあいだに5700万人が職を失い、5100万人が採用されるアメリカ」)。

勝っても負けても、挑戦しつづけること、「ゲーム」をやりつづけることでしか人間は成長できない。勝つか負けるかの結果でなく、勝つために必死に努力するプロセスにこそ価値があるし、負けた悔しさも、さらなる挑戦へのバネになる。それがアメリカの考え方だろう。

いっぱう日本は、「負け」「失敗」を生み出すことがタブーであるかのように、競争やゲームそのものをなくそうとする(「お手々つないでいっしょにゴール」)。解雇規制や製造業派遣禁止といった規制がその典型であり、こういう「不幸を禁止する」ような規制の結果、競争による勝敗よりもむしろはるかに不公平でグロテスクな「身分制度」や既得権益を生んでしまっている。

アメリカの「敗者への寛容」と「勝者への寛容」、そして<挑戦したかどうか>を評価基準とする価値観は、日本がぜひ見習うべきものだろう。日本は明治維新後や戦後のようなハングリーな精神に立ち戻り、他国のいいところはすべてガツガツ学んでいくような素直さと貪欲さが必要ではないだろうか。


関連エントリ:
「派遣禁止なら正社員雇う」企業は14% 派遣禁止は「幸福が望ましいから不幸を禁止する」ようなもの
http://mojix.org/2009/07/31/us_kibou_jp_kiki
1年のあいだに5700万人が職を失い、5100万人が採用されるアメリカ
http://mojix.org/2009/12/01/usa_kaiko_saiyou
アメリカ人は「希望駆動型」、日本人は「危機感駆動型」
http://mojix.org/2009/07/31/us_kibou_jp_kiki