2009.12.09
「派遣禁止なら正社員雇う」企業は14% 派遣禁止は「幸福が望ましいから不幸を禁止する」ようなもの
asahi.com - 「派遣禁止なら正社員雇う」14% 100社アンケート
http://www.asahi.com/business/update/1207/TKY200912070318.html

<鳩山政権が打ち出す製造業派遣と登録型派遣の原則禁止について、朝日新聞が全国主要100社を対象にアンケートを実施したところ、禁止された場合の対応(複数回答)で「正社員を雇う」と答えた企業は14社にとどまり、契約社員や請負など非正社員の活用で対応するケースが大半を占めた。規制強化による安定雇用は進みそうにない>。

<調査は11月9~20日に実施した。製造業と非製造業の各50社を対象に、原則として経営トップに面談した。
 「(直接雇用の)契約社員で対応する」が36社で、製造業、非製造業とも最多だった。「請負・委託契約」で対応するという企業も、製造業を中心に30社あった。「生産設備を海外に移す」という答えも6社もあった>。

<鳩山政権は安定した雇用を増やすことを狙い、製造業派遣と登録型派遣を原則禁止する労働者派遣法の改正案を来年の通常国会に提出する準備を進めている。派遣法改正については「賛成」が2社、「反対」が57社だった>。



まったく当然の結果だろう。契約社員や請負、アルバイトに変わるならまだマシで、「既存の社員でなんとかする」「業務を縮小する」という場合は、むしろ失業者が増えてしまう。海外流出する6社などは、生産拠点や事業所自体がなくなるわけで、正社員すらその巻き添えを食う。

「正社員雇用が望ましい」からといって、政府が規制で「派遣禁止」にするというのは、馬鹿げている。まさにジンバブエ的な発想だ。

そもそも日本企業の正社員採用を難しくしているのが、解雇規制なのである。解雇規制で正社員採用を難しくしておいて、さらに規制で正社員以外採るなというのだから、カフカも真っ青の不条理さだ。そのうえ日本は法人税も世界最高レベルなのだから、これでは企業は身動きできず、起業しようという人間も出てこない。

「正社員雇用が望ましいから派遣を禁止する」というのは、「幸福が望ましいから不幸を禁止する」ようなものだろう。不幸を禁止しても不幸はなくならない。

政府の役割とは「不幸を禁止する」ことではなく、

1 誰もが幸福を追い求められる「公正(フェア)」な社会をつくる(市場競争)
2 同時に、不幸に陥った人を救済する(セーフティネット)

という2点だろう。いまの日本政府はそのどちらも満足にできていない。「不幸を禁止する」ようなおかしな規制があちこちにあるために、既得権益者だけが保護され、既得権益のない者がその犠牲になっている。「不幸を禁止する」規制の結果、むしろ「不公正(アンフェア)」な社会を生み出してしまっており、不幸が放置されているのだ。

日本政府が1も2も満足にできていないのは、富や価値を生み出す「市場競争」と、弱者を救済する「セーフティネット」という別のものを混同しているからだろう。「市場競争」を「規制」することが「セーフティネット」になる、というカンチガイによって、「市場競争」と「セーフティネット」のいずれも失敗している。この2つは役割が違うので、「関心の分離(separation of concerns)」の設計原則によって切り離すべきなのだ。


関連エントリ:
民間には力があるのに、政府がジャマしていることが日本の問題
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市場とは「自分の欲しいものにしかカネを出さない人の集まり」である
http://mojix.org/2009/11/25/what_is_market
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http://mojix.org/2009/01/10/seizou_haken_kinshi