「売ること」は「説得すること」 技術者のほうが営業に強みを持っている
TechCrunch - 生き残るためには、売ることがすべて
http://jp.techcrunch.com/archives/20091212its-all-about-selling-for-survival/
<起業家に必要なスキルの中に、ビジネススクールでは教えてくれないことが一つある。それは「売る」こと。たしかに「販売」ということばには、中古車セールスマンがポンコツ車を売り歩く悪いイメージがつきまとう。しかし、自分を信じてもらうよう相手を説得する能力は必須だ。それは、販売が金のために商品を売ることだけではないからだ。販売とは人生である。理想的なパートナーをデートに誘うのは販売活動である。子どもに野菜を食べる気にさせるのは販売活動である。ボスに昇給の交渉をするのは販売活動である。そしてもちろん、会社をGoogleに売ることは、間違いなく販売活動である。人の言葉に耳を傾け、相手の欲しいもの必要なものを探り、その人が喜ぶ形でそれを提供する、という販売活動。では、技術系企業の中で最高のセールスマンは誰だろうか。開発者たちだ>。
これは素晴らしい記事。起業家出身の学者で、現在はUCバークレー客員教授などをつとめるVivek Wadhwa氏による寄稿とのこと。
Wadhwa氏はもともと技術オタクで、当初は営業というものに対して、<コーディングは販売の正反対の仕事だと思っていた。「営業」といえば、必要のないものにお金を使わせるよう人々を説得するための、人をだますつまらない仕事を連想した>といった認識を持っていた。その状態から、社内の人間を説得していく経験を通じて、それが<一種の営業>であることを悟り、それがコーディングよりも難しく、やりがいのある仕事でもあることに気づいた、といった体験談が書かれている。
この記事を読むと、「売ること」は「説得すること」なのだということがよくわかる。「アイディアを売り込む」といった言い方もあるとおり、「売ること」はいわゆる販売行為だけでなく、要するに「相手を説得する」ことなのだ。
説得するには、何を説得するかの中身がもちろん重要だが、中身さえあれば、それで自動的に説得がうまくいくわけではない。<正しさが勝つとは限らない>のだ。そこに説得というものの存在意義があり、面白さがある。
この記事では、いわゆる営業マンよりも、開発担当のエンジニアのほうが営業に強みを持っている、といった実用的な話も書かれている。<見込み顧客が営業担当を深く信用していない場合でも、一目置く開発者を信用する可能性はずっと高い。これは営業プロセスにおいて、きわめて強力な要因であり、われわれが頻繁に行なった方法だ>。エンジニアは「中身」を持っている分、「中身」の少ない営業マンよりも有利なのだ。これと似た話を、以前「学歴もコミュニケーション能力も過大評価されすぎでは?」というエントリで書いたことがある。
<一見コミュニケーション能力が重要そうな仕事、例えば営業職であっても、必ずしもパリっとしてペラペラしゃべる営業がいいとも限らないのだ。見た目も地味で口数も少ないけれども、すごく知識があって誠実な人なら、むしろお客さんに信頼されたりする。これは、実際にビジネスの世界に入ればわかることだ>。
このことは、実際にビジネスの世界に入らなくても、自分がお客さんの立場になってみればわかると思う。あまりにも調子のいい営業マンや、きれいすぎるパンフレットなどを見せられると、逆に不安になる。むしろ、しゃべりが多少ヘタでもいいから、その商品を実際に作った人が熱意を込めて説明したほうが、お客さんの心は動く。
この記事の末尾には、ベンチャー、スタートアップ企業は「全員が営業」になるべきだという話が書かれている。スタートアップでは、「全員が営業」でないとやっていけないとも言えるが、これは強みでもあるわけだ。技術系のスタートアップでは、社長自身がエンジニアであるケースも少なくないが、こういう会社の場合、社長自身が営業でもあるので、技術的な判断と経営的な判断をあわせて、即決で意思決定ができる。これは大企業にはマネのできない強みだ。大企業の場合、「中身」に到達するまでに間接人員が多すぎて、ちょっとしたことでもやたらにコストと時間がかかる、といったことがよくある。
技術の世界と、営業や経営の世界は、「ギーク」と「スーツ」などと呼ばれるように、異質な「2つの文化」である。これらを両方持っている人間は少ないので、この2つを兼ね備えていることは大きな強みになる。技術系の人間、「ギーク」の強みは、営業や経営をあとから学べば、この「2つの文化」の両方に通じることができる点だろう。この記事のWadhwa氏もまさにそのタイプだ。反対に、もともと営業や経営の世界にいた「スーツ」が、あとから技術を学んで「ギーク」になったという話はほとんど聞いたことがないし、実際むずかしいだろう。
関連エントリ:
「作る人」と「売る人」
http://mojix.org/2009/11/02/tsukuru_uru
「間違っているけどわかりやすい」 vs 「正しいけどわかりにくい」
http://mojix.org/2005/09/10/161919
技術くんと営業さん
http://mojix.org/2008/06/16/tech_and_sales
「働く」より「売る」が基本
http://mojix.org/2005/10/08/005336
http://jp.techcrunch.com/archives/20091212its-all-about-selling-for-survival/
<起業家に必要なスキルの中に、ビジネススクールでは教えてくれないことが一つある。それは「売る」こと。たしかに「販売」ということばには、中古車セールスマンがポンコツ車を売り歩く悪いイメージがつきまとう。しかし、自分を信じてもらうよう相手を説得する能力は必須だ。それは、販売が金のために商品を売ることだけではないからだ。販売とは人生である。理想的なパートナーをデートに誘うのは販売活動である。子どもに野菜を食べる気にさせるのは販売活動である。ボスに昇給の交渉をするのは販売活動である。そしてもちろん、会社をGoogleに売ることは、間違いなく販売活動である。人の言葉に耳を傾け、相手の欲しいもの必要なものを探り、その人が喜ぶ形でそれを提供する、という販売活動。では、技術系企業の中で最高のセールスマンは誰だろうか。開発者たちだ>。
これは素晴らしい記事。起業家出身の学者で、現在はUCバークレー客員教授などをつとめるVivek Wadhwa氏による寄稿とのこと。
Wadhwa氏はもともと技術オタクで、当初は営業というものに対して、<コーディングは販売の正反対の仕事だと思っていた。「営業」といえば、必要のないものにお金を使わせるよう人々を説得するための、人をだますつまらない仕事を連想した>といった認識を持っていた。その状態から、社内の人間を説得していく経験を通じて、それが<一種の営業>であることを悟り、それがコーディングよりも難しく、やりがいのある仕事でもあることに気づいた、といった体験談が書かれている。
この記事を読むと、「売ること」は「説得すること」なのだということがよくわかる。「アイディアを売り込む」といった言い方もあるとおり、「売ること」はいわゆる販売行為だけでなく、要するに「相手を説得する」ことなのだ。
説得するには、何を説得するかの中身がもちろん重要だが、中身さえあれば、それで自動的に説得がうまくいくわけではない。<正しさが勝つとは限らない>のだ。そこに説得というものの存在意義があり、面白さがある。
この記事では、いわゆる営業マンよりも、開発担当のエンジニアのほうが営業に強みを持っている、といった実用的な話も書かれている。<見込み顧客が営業担当を深く信用していない場合でも、一目置く開発者を信用する可能性はずっと高い。これは営業プロセスにおいて、きわめて強力な要因であり、われわれが頻繁に行なった方法だ>。エンジニアは「中身」を持っている分、「中身」の少ない営業マンよりも有利なのだ。これと似た話を、以前「学歴もコミュニケーション能力も過大評価されすぎでは?」というエントリで書いたことがある。
<一見コミュニケーション能力が重要そうな仕事、例えば営業職であっても、必ずしもパリっとしてペラペラしゃべる営業がいいとも限らないのだ。見た目も地味で口数も少ないけれども、すごく知識があって誠実な人なら、むしろお客さんに信頼されたりする。これは、実際にビジネスの世界に入ればわかることだ>。
このことは、実際にビジネスの世界に入らなくても、自分がお客さんの立場になってみればわかると思う。あまりにも調子のいい営業マンや、きれいすぎるパンフレットなどを見せられると、逆に不安になる。むしろ、しゃべりが多少ヘタでもいいから、その商品を実際に作った人が熱意を込めて説明したほうが、お客さんの心は動く。
この記事の末尾には、ベンチャー、スタートアップ企業は「全員が営業」になるべきだという話が書かれている。スタートアップでは、「全員が営業」でないとやっていけないとも言えるが、これは強みでもあるわけだ。技術系のスタートアップでは、社長自身がエンジニアであるケースも少なくないが、こういう会社の場合、社長自身が営業でもあるので、技術的な判断と経営的な判断をあわせて、即決で意思決定ができる。これは大企業にはマネのできない強みだ。大企業の場合、「中身」に到達するまでに間接人員が多すぎて、ちょっとしたことでもやたらにコストと時間がかかる、といったことがよくある。
技術の世界と、営業や経営の世界は、「ギーク」と「スーツ」などと呼ばれるように、異質な「2つの文化」である。これらを両方持っている人間は少ないので、この2つを兼ね備えていることは大きな強みになる。技術系の人間、「ギーク」の強みは、営業や経営をあとから学べば、この「2つの文化」の両方に通じることができる点だろう。この記事のWadhwa氏もまさにそのタイプだ。反対に、もともと営業や経営の世界にいた「スーツ」が、あとから技術を学んで「ギーク」になったという話はほとんど聞いたことがないし、実際むずかしいだろう。
関連エントリ:
「作る人」と「売る人」
http://mojix.org/2009/11/02/tsukuru_uru
「間違っているけどわかりやすい」 vs 「正しいけどわかりにくい」
http://mojix.org/2005/09/10/161919
技術くんと営業さん
http://mojix.org/2008/06/16/tech_and_sales
「働く」より「売る」が基本
http://mojix.org/2005/10/08/005336