2010.01.20
『ブラック・スワン』のタレブが「インターネット・ダイエット」を宣言
先日mikeexpoさんが紹介していた、タレブの「インターネット・ダイエット」宣言が面白い。

Hidenobu’s Feeling - 予測可能性、そして知識の減少
http://hidenobu.wordpress.com/2010/01/11/the-degradation-of-predictability-and-knowledge/

原文:
THE DEGRADATION OF PREDICTABILITY — AND KNOWLEDGE by NASSIM N. TALEB
http://www.edge.org/q2010/q10_1.html#taleb

情報が多すぎると人間はバカになる、情報によって過度な自信を持つことが失敗につながる、といった内容で、よって私は「インターネットの減量」をする(インターネットからの情報流入を減らす、という意味)と書かれている。

<インターネットは情報を人々に広げるから、相互依存、すなわち流行の悪化(ハリー・ポッターのようなベストセラーが生まれ、取り付け騒ぎが全世界的なものになる)がより起きるようになる。
そのため、世の中はより”複雑”で、もっと気分的で変わりやすい、ますます予測不可能なものになっている>。

<だから今の危険な状況を考えてみよう。
予測可能性が低まっているのに、(特にインターネットのおかげで)情報がより多くなり、それがもっと人間に自信をもたせ、自分が実際に知っているより知っているという幻想を強くするのだ>。

<それで、世界を少しでもよく理解するため、私はインターネットの減量に取り組んでいる。
それに経済政策を決める人たちはまた恐ろしい間違いをすると私は確信している。
とはいえ私は完璧にインターネットから離れるわけではない。
厳格な配給制にして、とても過酷な減量をするだけだ。
確かに、技術はこの世界の最も素晴らしいものだ。
しかし、技術にはかなり巨大な副作用がある- そしてほとんどの人がこの先何があるかを予測することはできないだろう。
ほとんど情報に汚染されることなく静かな書斎にこもって時を過ごすから、私は自分の遺伝子と合致していると感じることができる。
私は自分の成長がまた感じられるのだ>。

どちらかといえばネット賛成派の私だが、タレブの言わんとするところはわかる気がする。

インターネットはもともと、情報媒体としては技術主導型のところがあるし、特に最近はSNSやツイッターなどソーシャル的な仕組みが急速に発達してきて、「コンテンツ」というよりも「コミュニケーション」の比率が上がってきている。

タレブはネットそのものがダメだとは言っていない。ネットによる情報の過剰摂取で、真の知恵や洞察力が失われているかもしれないのに、より賢くなっているという幻想を抱きがちであることを警告している。

私はどちらかというと、ネットの出現によって、それ以前はほぼマスコミの独占状態だった情報の「パブリック空間」が開放されたことのメリットが大きいと考えている(例:「マスコミに対するブログの強み」)。しかし情報の質や密度でいえば、本などにかなわないところがあるのも事実だろう。

ネットにある情報の質や密度とは別に、ネットが「相互依存」を強めるゆえに「予測不可能」なものになる、という指摘も重要だ。これは『ブラック・スワン』の核心をなす見方のひとつだろう。「相互依存」が強い、つまり個々の成員の「独立性」が低い集団は、初期状態に左右されやすくなるので、「予測不可能」なのだ。これは日本という国のリスク構造そのものでもある。


関連エントリ:
ネットにも「編集」が必要な理由
http://mojix.org/2006/02/13/205206
群集がいつも賢いとは限らない 「Wisdom of Crowds」の成立条件
http://mojix.org/2006/01/14/100147