「ブラック企業」を叩けば叩くほど、「ブラック企業」は増えるかもしれない
最近、ネットで安易な「ブラック企業」叩きが増えてきたように感じる。
私も「ブラック企業」を擁護するわけではないし、「ブラック企業」が減って欲しいと願っている。しかし、何かあればすぐに「ブラック企業」だというレッテル貼りをして、「ブラック企業」を叩く風潮が加速すれば、状況はますます悪化しかねないと危惧している。つまり、「叩く」ことは何ら「解決」につながらないばかりか、むしろ問題を深めてしまいかねないと思うのだ。
一般的には「ブラック企業」と呼ばれるような労働環境であっても、働いている本人はそこそこ納得している、ということが十分にありうる。何が「ブラック」なのかの感じ方は、人によってかなり違う。「ブラック企業だ」というバッシングや風評被害によって、実際に経営が傾き、潰れることになれば、そこで納得して働いていた人も困るのだ。
本人が迷惑しているわけでもないのに、特定の企業を「ブラック企業だ」とネガティブ情報を流すような行為は、政府の派遣規制に似ている。
政府から見ると、派遣という労働形態は望ましくなく、正社員が望ましい。だから派遣を規制しようとする。しかし、派遣で働いている人の中には、正社員を望んでおらず、むしろ派遣でいいと思っている人も少なくない。政府が派遣を規制すれば、派遣で満足して働いている人が、職を失ってしまう可能性が高まる。派遣で満足して働いている人にとっては、政府の派遣規制は「大きなお世話」なのだ。
例えば、店で牛丼を食べて、それがまずいと思ったら、「まずい」と声をあげても構わないだろう。しかし、自分で体験していないことを根拠に、「ブラック企業だ」というネガティブ情報を流すのは、きわめて慎重であるべきだろう。自分が実際にその企業で働いて、その経験から「ブラック企業だ」と声をあげるならいいと思う。
実際上は、自分が働いた企業がブラック企業だと感じても、「ブラック企業だ」と声をあげる人はほとんどいないだろう。その労力に対して、メリットが少ないからだ。普通の人は、「イヤなら辞める」だけだ。しかし、この「イヤなら辞める」ことをむずかしくしているのが、日本の雇用規制なのだ。雇用規制が強いために、日本の企業は解雇が難しく、よって採用も少なくなってしまう。このために社員も転職が難しくなり、「イヤなら辞める」ことが難しくなっているのだ。
この構造がわかれば、「ブラック企業を政府がきびしく取り締まれ」という声を強めることは、むしろ逆効果になりうることが理解できる。ほんとうにブラック企業を減らすことを目指すならば、政府が規制を強化するのではなく、「イヤなら辞める」ことを容易にすること、つまり逆説的なようだが、規制を緩和して「企業が解雇をしやすくする」ことが必要なのだ。
この話の要点は、他人を不幸から救うつもりで何かをしても、それは「大きなお世話」かもしれない、ということだ。不幸かどうかは、結局のところ、その人にしかわからないからだ。重要なことは、「不幸だと感じた人が、不幸から脱出することをジャマしない」ことだ。「大きなお世話」は、その人を不幸から救うつもりで、むしろその人を不幸に押し込める場合がある。日本の雇用では、政府による解雇規制や派遣規制といった「大きなお世話」が、むしろ問題を深めており、「不幸を固定化」してしまっているのだ。
「ブラック企業」を叩く人にしても、雇用規制する政府にしても、「大きなお世話」をやる人の特徴は、自分が「正義」だと思い込んで「ワルモノ」を叩いた結果、それで職を失う被害者が出ても、自分では責任を取らないということだ。まさに「大きなお世話」そのものであり、政府がこれをやるのが「パターナリズム」である。
雇用契約というのは、基本的には会社と労働者の市場取引であり、相互に効用を増す(メリットがある)からこそ、合意して契約している。よって、自分の労働環境に不満があるならば、不満がある本人がその契約を終了し、その会社を辞めるべきなのだ。そこでもし「不満なのにやめられない」のであれば、それは労働市場に流動性がないという社会の問題、「制度設計」がまずいという政治の問題なのであって、その会社の問題ではない。
この会社と労働者の市場取引、双方が互いに納得して契約している取引に対して、第3者が「その会社はブラック会社だ!」と叩いているのがいまの状況なのである。
実のところ、この「すぐに叩く」という日本のネガティブな風潮こそが、政府の規制を後押ししているのであり、そもそもこれが問題を生んでいる原因だろう。要するに、「叩く」人はそれによって社会にどういう「コスト」を発生させているかをわかっておらず、それが回りまわって自分たちの首を絞めていることに気づいていないのだ。
関連エントリ:
日本では会社と社員が「密結合」であり、人材が「入れ替え可能」な「モジュール」になっていない
http://mojix.org/2010/04/21/nihon_mitsuketsugou
なぜ日本ではブラック会社が淘汰されないのか 日本は雇用の流動性が低いから、労働者の価値が低い
http://mojix.org/2009/07/09/why_black_company
「雇用を守れ」という声が、日本の「労働者カースト構造」を強化している
http://mojix.org/2008/12/21/japan_workers_caste
私も「ブラック企業」を擁護するわけではないし、「ブラック企業」が減って欲しいと願っている。しかし、何かあればすぐに「ブラック企業」だというレッテル貼りをして、「ブラック企業」を叩く風潮が加速すれば、状況はますます悪化しかねないと危惧している。つまり、「叩く」ことは何ら「解決」につながらないばかりか、むしろ問題を深めてしまいかねないと思うのだ。
一般的には「ブラック企業」と呼ばれるような労働環境であっても、働いている本人はそこそこ納得している、ということが十分にありうる。何が「ブラック」なのかの感じ方は、人によってかなり違う。「ブラック企業だ」というバッシングや風評被害によって、実際に経営が傾き、潰れることになれば、そこで納得して働いていた人も困るのだ。
本人が迷惑しているわけでもないのに、特定の企業を「ブラック企業だ」とネガティブ情報を流すような行為は、政府の派遣規制に似ている。
政府から見ると、派遣という労働形態は望ましくなく、正社員が望ましい。だから派遣を規制しようとする。しかし、派遣で働いている人の中には、正社員を望んでおらず、むしろ派遣でいいと思っている人も少なくない。政府が派遣を規制すれば、派遣で満足して働いている人が、職を失ってしまう可能性が高まる。派遣で満足して働いている人にとっては、政府の派遣規制は「大きなお世話」なのだ。
例えば、店で牛丼を食べて、それがまずいと思ったら、「まずい」と声をあげても構わないだろう。しかし、自分で体験していないことを根拠に、「ブラック企業だ」というネガティブ情報を流すのは、きわめて慎重であるべきだろう。自分が実際にその企業で働いて、その経験から「ブラック企業だ」と声をあげるならいいと思う。
実際上は、自分が働いた企業がブラック企業だと感じても、「ブラック企業だ」と声をあげる人はほとんどいないだろう。その労力に対して、メリットが少ないからだ。普通の人は、「イヤなら辞める」だけだ。しかし、この「イヤなら辞める」ことをむずかしくしているのが、日本の雇用規制なのだ。雇用規制が強いために、日本の企業は解雇が難しく、よって採用も少なくなってしまう。このために社員も転職が難しくなり、「イヤなら辞める」ことが難しくなっているのだ。
この構造がわかれば、「ブラック企業を政府がきびしく取り締まれ」という声を強めることは、むしろ逆効果になりうることが理解できる。ほんとうにブラック企業を減らすことを目指すならば、政府が規制を強化するのではなく、「イヤなら辞める」ことを容易にすること、つまり逆説的なようだが、規制を緩和して「企業が解雇をしやすくする」ことが必要なのだ。
この話の要点は、他人を不幸から救うつもりで何かをしても、それは「大きなお世話」かもしれない、ということだ。不幸かどうかは、結局のところ、その人にしかわからないからだ。重要なことは、「不幸だと感じた人が、不幸から脱出することをジャマしない」ことだ。「大きなお世話」は、その人を不幸から救うつもりで、むしろその人を不幸に押し込める場合がある。日本の雇用では、政府による解雇規制や派遣規制といった「大きなお世話」が、むしろ問題を深めており、「不幸を固定化」してしまっているのだ。
「ブラック企業」を叩く人にしても、雇用規制する政府にしても、「大きなお世話」をやる人の特徴は、自分が「正義」だと思い込んで「ワルモノ」を叩いた結果、それで職を失う被害者が出ても、自分では責任を取らないということだ。まさに「大きなお世話」そのものであり、政府がこれをやるのが「パターナリズム」である。
雇用契約というのは、基本的には会社と労働者の市場取引であり、相互に効用を増す(メリットがある)からこそ、合意して契約している。よって、自分の労働環境に不満があるならば、不満がある本人がその契約を終了し、その会社を辞めるべきなのだ。そこでもし「不満なのにやめられない」のであれば、それは労働市場に流動性がないという社会の問題、「制度設計」がまずいという政治の問題なのであって、その会社の問題ではない。
この会社と労働者の市場取引、双方が互いに納得して契約している取引に対して、第3者が「その会社はブラック会社だ!」と叩いているのがいまの状況なのである。
実のところ、この「すぐに叩く」という日本のネガティブな風潮こそが、政府の規制を後押ししているのであり、そもそもこれが問題を生んでいる原因だろう。要するに、「叩く」人はそれによって社会にどういう「コスト」を発生させているかをわかっておらず、それが回りまわって自分たちの首を絞めていることに気づいていないのだ。
関連エントリ:
日本では会社と社員が「密結合」であり、人材が「入れ替え可能」な「モジュール」になっていない
http://mojix.org/2010/04/21/nihon_mitsuketsugou
なぜ日本ではブラック会社が淘汰されないのか 日本は雇用の流動性が低いから、労働者の価値が低い
http://mojix.org/2009/07/09/why_black_company
「雇用を守れ」という声が、日本の「労働者カースト構造」を強化している
http://mojix.org/2008/12/21/japan_workers_caste