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「雇用を守れ」という声が、日本の「労働者カースト構造」を強化している
J-CASTが「正社員保護しすぎ論」として、城繁幸氏・池田信夫氏の見方を採り上げている。
J-CASTニュース - 働かない中高年リッチ解雇せよ 「正社員」保護しすぎ論が台頭
http://www.j-cast.com/2008/12/20032296.html
＜非正規社員のクビ切りが社会問題化している中、正社員の過剰な保護はやめるべきだという意見が出てきた。非正規社員を切るよりも、たいして働かずに年俸1000万円以上の中高年をリストラするほうが費用対効果は大きい、という主張がその一つだ。一方、正社員と非正社員の垣根をなくしてフラットにするべきだ、つまり、正社員にも賃下げや解雇を認めたらどうか、という意見もある。正社員だから安心、とはいえない時代に突入したらしい＞。
大前研一氏も、最近のコラムで日本の雇用規制の弊害について書いている。
大前研一 ニュースの視点 - 日本の雇用制度で労働者は幸せなのか～日本雇用制度の問題点～
http://www.ohmae.biz/koblog/viewpoint/1215.php
＜日本の雇用を守るための法律が、日本の雇用を失わせている＞として、日本企業が国内の非正規雇用を切る一方で、海外へのアウトソースを急速に増やしている現状について書かれている。
このブログでは何度も書いている通り、この雇用問題については、私も城氏・池田氏・大前氏と同じ意見だ。
この話の要点は、「企業が雇用を守るべきなのではなくて、政府が生活を守るべきだ」ということだと私は考えている。
企業に対して「雇用を守れ」と要求する労働組合的な論調は、一見したところ労働者の味方に見えるが、これは解雇規制と同じく、むしろ企業の正社員採用を減らすほうに作用する。
これは実にかんたんな話だ。労働需要（企業が必要な労働力）は、企業の業績にともなって当然変動する。しかし、業績が下がったときも、日本では正社員の減給や解雇が容易でない。だから、正社員の採用をあらかじめ少なめにしておいて（これが正社員採用を減らす！）、「調整」の効く契約社員や派遣を多くするのだ。「調整」というクッションがなければ、業績低下時に会社自体が潰れてしまうので、これは当然だろう。
日本の大企業によく見られる、グループ会社・子会社・系列会社が数え切れないくらいあるという構造や、マスコミや建設業界、IT業界などに見られる多重下請け構造も、この「調整」が可能だということが、主な存在理由のひとつだ。子会社・下請けにコストをしわ寄せすることで、親会社・元請けの業績変動リスクを吸収し、高い給与を維持しているのだ。
正規雇用と非正規雇用の断絶も、多重下請け構造も、「正社員の減給や解雇が容易でない」という同じ制約から生じてきたものだ。これによって、親会社の正社員を頂点とした「労働者カースト構造」ができあがってしまった。カースト構造の最高位は、倒産というものがない公務員だ。
「雇用を守れ」という声は、おそらく善意に基づくその意図とは反対に、このカースト構造を守ることになってしまうのだ。カースト構造は、カーストの頂点にいる人間以外の大多数を不幸にする。そして、カーストの上位・下位いずれの人からも、まじめに働くインセンティブを奪ってしまう。これは全体としての生産性や価値創出を低下させるので、いつか全体が沈没する。
守るべきなのは「現状の雇用」ではなく、「国民の生活」なのだ。企業に対して雇用責任を押しつければ押しつけるほど、企業の雇用コストは上昇するので、大企業は国外流出し、中小企業は潰れて、価値の生産が減り、日本は失速していく。
企業は雇用のために存在しているのではなく、価値創出のために存在している。企業を雇用から解放し、価値の創出という本来の責務に集中させるべきだ。これで日本経済は再浮上できる。
政府は企業に制約を課して雇用をむりやり維持させるのではなく、セーフティネットによって国民の生活を守りつつ、失業者が早く価値創出プロセスに復帰できるよう支援すべきだ。しかしこれも、すべてを政府がお膳立てする必要はなく、民間の力をうまく生かすように連携すればいい。全部政府がやるよりも、そのほうがきっとうまくいく。
日本の「労働者カースト構造」をなくすには、解雇規制などの間違った施策・法規制を改める必要があるが、それにはまず、国民のあいだに正しい認識があるていど広まる必要がある。解雇規制そのものよりも、誤った認識が広まっていることのほうが、よほど手ごわい「敵」だと思う。
関連エントリ：
フェアな競争こそが、価値と生産性を引き出す
http://mojix.org/2008/10/18/fair_competition
セーフティネットは会社の外に置き、「身分制度」をなくせ
http://mojix.org/2008/06/14/break_employment_hierarchy
IT産業を呪縛する 「変われない日本」
http://mojix.org/2008/06/02/kawarenai_nihon
J-CASTニュース - 働かない中高年リッチ解雇せよ 「正社員」保護しすぎ論が台頭
http://www.j-cast.com/2008/12/20032296.html
＜非正規社員のクビ切りが社会問題化している中、正社員の過剰な保護はやめるべきだという意見が出てきた。非正規社員を切るよりも、たいして働かずに年俸1000万円以上の中高年をリストラするほうが費用対効果は大きい、という主張がその一つだ。一方、正社員と非正社員の垣根をなくしてフラットにするべきだ、つまり、正社員にも賃下げや解雇を認めたらどうか、という意見もある。正社員だから安心、とはいえない時代に突入したらしい＞。
大前研一氏も、最近のコラムで日本の雇用規制の弊害について書いている。
大前研一 ニュースの視点 - 日本の雇用制度で労働者は幸せなのか～日本雇用制度の問題点～
http://www.ohmae.biz/koblog/viewpoint/1215.php
＜日本の雇用を守るための法律が、日本の雇用を失わせている＞として、日本企業が国内の非正規雇用を切る一方で、海外へのアウトソースを急速に増やしている現状について書かれている。
このブログでは何度も書いている通り、この雇用問題については、私も城氏・池田氏・大前氏と同じ意見だ。
この話の要点は、「企業が雇用を守るべきなのではなくて、政府が生活を守るべきだ」ということだと私は考えている。
企業に対して「雇用を守れ」と要求する労働組合的な論調は、一見したところ労働者の味方に見えるが、これは解雇規制と同じく、むしろ企業の正社員採用を減らすほうに作用する。
これは実にかんたんな話だ。労働需要（企業が必要な労働力）は、企業の業績にともなって当然変動する。しかし、業績が下がったときも、日本では正社員の減給や解雇が容易でない。だから、正社員の採用をあらかじめ少なめにしておいて（これが正社員採用を減らす！）、「調整」の効く契約社員や派遣を多くするのだ。「調整」というクッションがなければ、業績低下時に会社自体が潰れてしまうので、これは当然だろう。
日本の大企業によく見られる、グループ会社・子会社・系列会社が数え切れないくらいあるという構造や、マスコミや建設業界、IT業界などに見られる多重下請け構造も、この「調整」が可能だということが、主な存在理由のひとつだ。子会社・下請けにコストをしわ寄せすることで、親会社・元請けの業績変動リスクを吸収し、高い給与を維持しているのだ。
正規雇用と非正規雇用の断絶も、多重下請け構造も、「正社員の減給や解雇が容易でない」という同じ制約から生じてきたものだ。これによって、親会社の正社員を頂点とした「労働者カースト構造」ができあがってしまった。カースト構造の最高位は、倒産というものがない公務員だ。
「雇用を守れ」という声は、おそらく善意に基づくその意図とは反対に、このカースト構造を守ることになってしまうのだ。カースト構造は、カーストの頂点にいる人間以外の大多数を不幸にする。そして、カーストの上位・下位いずれの人からも、まじめに働くインセンティブを奪ってしまう。これは全体としての生産性や価値創出を低下させるので、いつか全体が沈没する。
守るべきなのは「現状の雇用」ではなく、「国民の生活」なのだ。企業に対して雇用責任を押しつければ押しつけるほど、企業の雇用コストは上昇するので、大企業は国外流出し、中小企業は潰れて、価値の生産が減り、日本は失速していく。
企業は雇用のために存在しているのではなく、価値創出のために存在している。企業を雇用から解放し、価値の創出という本来の責務に集中させるべきだ。これで日本経済は再浮上できる。
政府は企業に制約を課して雇用をむりやり維持させるのではなく、セーフティネットによって国民の生活を守りつつ、失業者が早く価値創出プロセスに復帰できるよう支援すべきだ。しかしこれも、すべてを政府がお膳立てする必要はなく、民間の力をうまく生かすように連携すればいい。全部政府がやるよりも、そのほうがきっとうまくいく。
日本の「労働者カースト構造」をなくすには、解雇規制などの間違った施策・法規制を改める必要があるが、それにはまず、国民のあいだに正しい認識があるていど広まる必要がある。解雇規制そのものよりも、誤った認識が広まっていることのほうが、よほど手ごわい「敵」だと思う。
関連エントリ：
フェアな競争こそが、価値と生産性を引き出す
http://mojix.org/2008/10/18/fair_competition
セーフティネットは会社の外に置き、「身分制度」をなくせ
http://mojix.org/2008/06/14/break_employment_hierarchy
IT産業を呪縛する 「変われない日本」
http://mojix.org/2008/06/02/kawarenai_nihon