2010.07.03
日本を財政破綻(倒産)させないためにこそ、政府のリストラ・コストカットが必要
菅直人首相が金沢市内での街頭演説で、またカルロス・ゴーン氏の悪口を言っていたらしい。

asahi.com - 「財政破綻したとき、誰が困るかご存じですか」―菅首相(2010年7月2日19時53分)
http://www.asahi.com/politics/update/0702/TKY201007020468.html

<財政が破綻(はたん)したとき、誰が困るかご存じですか。あの大金持ちのカルロス・ゴーンさん(日産自動車社長)は、(日本から)いなくなりゃいいんですよ、簡単なんですよ。ギリシャの例を見ても、財政破綻したとき、年金をさあもらえると思ったら、「67歳からしか払えませんよ」と言われたら困るでしょう。仕事が続けられると思ったら、「あなたはクビですよ」と言われたら困るでしょう。財政破綻で一番困るのは、そうした年金を受給している人や、比較的所得が少ない人。その方々がダメージが大きいんですから>。

もう論理も何もあったもんじゃない。誰が読んでもおかしいと思うだろうが、わかりやすく反論してみよう。

・会社を財政破綻(倒産)させないために、ゴーンさんはリストラした。
・ゴーンさんがリストラしていなければ、日産自体が潰れていたかもしれない。
・財政破綻(倒産)を生む原因はコストカッターではなくて、コストのほう。
・菅首相はコストを責めないで、コストカッターを責めている。
・日本もコストカットしなければ、財政破綻(倒産)してしまう。
・日本に必要なのはコストカッターであり、コストではない。
・日本を財政破綻(倒産)させないためには、むしろ政府のリストラが必要。
・コストカッターを責める菅首相は、日本を財政破綻(倒産)させたいのか。

菅直人氏はいまや、ただの経済オンチな政治家ではなく、日本の首相である。国のトップである人間が、経済に関してこれほど誤った認識を持っているばかりか、それを連日のように得意げに話しているというのは、問題である。カルロス・ゴーン社長への悪口も定番化しつつあるが、「(日本から)いなくなりゃいい」とは、もはや侮辱といっていいだろう。地方議員くらいなら大目に見てもらえるかもしれないが、首相が言っていいレベルを超えていると思う。

せっかく亀井氏が閣僚から消えてくれたと思ったら、いまや菅首相こそ、政権最大の問題児であり、日本の恥さらしではないか。「いなくなりゃいい」のはどっちなのか。

リストラやコストカットが好きな人などいない。しかし、それをしなければ財政破綻(倒産)してしまうのだ。カルロス・ゴーン氏をワルモノ扱いして正義面(づら)している菅氏こそ、無責任である。日本を財政破綻(倒産)に近づけるのは、菅氏のように「現実」を直視しない「きれいごと」だ。

菅氏がカルロス・ゴーン氏をワルモノ扱いするのは、要するに(1)報酬が高くて、(2)リストラした、という2点だろう。菅氏が好きな経営者は、(1)報酬が安くて、(2)リストラしない、というタイプにちがいない。菅氏は庶民派の社会主義者なので、その好みはわからなくもないが、それは市場経済には通用しない。市場経済では、能力や成果に応じて報酬が支払われるのだ。報酬の絶対額が問題なのではなくて、それ以上に価値を生み出しているかどうか、「ペイしている」かどうかが問題なのである。

どんなに市場経済を憎んでいる人でも、日々の生活ではつねに、「ペイしている」かどうかを考えて買い物しているのだ。口先ではどんなに「きれいごと」を言っていても、人間はかならず損得で動いている。それが「現実」なのだ。自分自身が損得を度外視して、他人や社会に貢献するのは構わないが、他人に対して「損得を度外視しろ」と強制することは許されない。それは「オマエの持ちものを寄こせ」と言っているのと同じなのだ。

政府は強制力を持っており、民間に対して「オマエの持ちものを寄こせ」と言える唯一の存在である。その政府のトップである菅首相が、なんら強制力を持たない民間の経営者であるカルロス・ゴーン氏をワルモノ扱いするというのは、まったく許しがたい。ただでさえ強い規制と高い税金を課している上に、さらに「損得を度外視しろ」と言っているに等しいのだ。


関連エントリ:
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