2010.11.06
なぜ「仕事がない」のか
「仕事がない」と文句を言っている人は、経営者をワルモノ扱いする人と重なっているところがあると思う。

「仕事がない」理由のひとつは、日本では経営者がワルモノ扱いされがちなので、経営者がやる気をなくしたり、起業しようと思う人が少ないからだろう。

仕事を作るのは経営者である。仕事が欲しいなら、仕事を作ってくれる経営者に敬意を払ったり、むしろ自分が経営者になって仕事を作ろう、というふうに考えるべきではないか。

「仕事がない」と文句を言いながら、経営者をワルモノ扱いするというのは、矛盾している。ワルモノではない経営者がいるのなら、その経営者の会社に行けばいいのだし、経営者が全員ワルモノなのであれば、自分がワルモノでない経営者になればいい。

仕事とは、いわば「自分経営」である。労働者だって、カネと引き換えに何らかの価値を提供している。それはまさに「経営」なのであって、その意味では誰もが経営者なのだ。だから、経営者をワルモノ扱いする人は、天にツバを吐いているのに近い。経営者をワルモノ扱いする人で、すごく仕事のできる人というのは、私にはちょっと想像がつかない。

経営者をワルモノ扱いすることは、一時的にはウサばらしになるかもしれないが、それがたくさん集まると、ほんとうに社会のコストになる。実際、それが日本経済の足を引っぱっている要因のひとつだろう。経営者をワルモノ扱いする世論が強いために、企業に対する規制が強まり、税金が高くなって、日本企業は海外流出したり、潰れたりするわけだ。これがすべて、経営者をワルモノ扱いする世論が原因というわけではないが、その一部ではあると思う。

しかしこの経営者ワルモノ論も、いまの仕事がイヤでも辞められないという日本の雇用構造ゆえに、経営者への憎しみが植え付けられてしまいやすいのが原因だろう。経営者をワルモノ扱いする人は、いまの仕事が不満だけれども、辞めることもできないので、その不満を経営者のせいにしてグチっているだけなのだと思う。

労働市場の流動性を上げて、「イヤな仕事は辞めればいい」ということを可能にしないと、この問題も解決しない。労働市場も本来は、イヤな相手と無理につきあう必要はなく、納得いく相手とのみ取引すればいいだけの話だ。市場とはそういうものであり、誰だって欲しいものだけを買い、欲しくないものは買わない

悪いのは「制度」であり「構造」なのに、いわば「人種」のあいだで対立や憎しみが生じてしまっているわけで、これは悲しいことだ。憎むべきは「人」ではなく、間違った「制度」である。「人」が悪いように見えるときも、多くの場合、悪い「制度」がその行動を引き起こしているに過ぎない。


関連エントリ:
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