2012.11.09
田中真紀子文部科学相が新設3大学を認可 結果として「政治主導」になった「真紀子爆弾」
朝日新聞デジタル - 3大学の開学を認可 田中文科相が決裁(2012年11月8日13時19分)
http://www.asahi.com/politics/update/1108/TKY201211080418.html

<文部科学省は8日、札幌保健医療大、秋田公立美術大、岡崎女子大(愛知県岡崎市)の3大学の来春の開学を認可した。田中真紀子文科相がこの日午前に決裁し、同省は各大学側に電話で伝えた>。

<文科省は、大学新設の審査基準などの見直しを検討してもらう場を来週中にも設ける。人選について田中文科相は7日の衆院文科委員会でジャーナリストや企業関係者、公認会計士らを考えていると述べた。再来年の春に開学を目指す大学の申請期間が来年3月中になるため、同省は見直しの結論を2月までに得たい考え>。

<3大学については、同省の大学設置・学校法人審議会が1日付で設置を認める答申を出していた。しかし、田中文科相は2日、「大学の数が多すぎる」などとして3大学を認可しないと表明。6日には設置認可のあり方や審査基準を見直した上で判断する方針に転換した。さらに、与野党や3大学側の反発を受け、7日には現行制度で認可する方針に転じていた>。

田中真紀子文部科学相が不認可としていた新設3大学は、その後認可の方針に転じて、8日に正式に認可されたとのこと。

当初の不認可という唐突な判断はめちゃくちゃで、大きな混乱が起きたが、結局は認可となったことで、結果的にはこれがいちばんよかったかもしれない。

先のエントリでも書いたように、「大学の質が低下している」とか、「審議会の人選に問題がある」という田中文科相の問題意識自体は、おそらく正しい。これを理由として、今回の新設3大学を不認可にするというのはおかしいけれども、この騒動によって、この問題にスポットが当たったことは間違いない。この報道をきっかけに、「たしかに大学は多すぎるよなあ」と感じた人は少なくないだろう。

もしこの騒動が起きずに、田中文科相が単に前例を踏襲する平常運転をしていたとすれば、そこから改革に着手するのはむずかしかっただろう。その意味で今回の騒動は、比較的少ない実害で、この問題に対する注目を集め、国民の関心を高めたという点で、意味があったように思う。

今回の騒動について、池田信夫氏はこう書いている(「「真紀子爆弾」が突きつけた大学倒産時代の現実 政治家を「まつり上げる」官僚機構が元凶だ」)。

<田中真紀子文部科学相が3つの大学の新設を認可しなかった事件は、結果的には彼女が処分を白紙撤回して決着したようだ。大臣の唐突な行動は関係者を混乱させたが、その問題提起は重い>。

<今回の騒動は、政治の転換を阻む「まつりごと」の構造を鮮やかに見せ、政治家が官僚に振り回される実態を白日のもとにさらした。こういう欠陥を残したまま「政治主導」などというスローガンを掲げても、何もできるはずがない>。

<今回は拙速すぎたが、これぐらいの爆弾を落とさないと、政治家も役所も目が覚めない>。

まったくその通りだと思う。「真紀子爆弾」という表現はうまい。これくらいの揺さぶりがないと、官僚機構というのはびくともしないのだろう。

大学の認可プロセスについて、池田氏はこう書いている。

<実際には、大学は2年ぐらい前から文科省に根回しし、内定をもらって教員を募集する。3月末に申請する段階では、すべての教員の名簿が揃っていなければならないが、公募できないので縁故採用するしかない>。

<このとき文科省は、教授や事務総長などに天下りの就任を要請する。それを承諾すると申請が受理されるので、大学は準備作業を開始する。大学を生かすも殺すも官僚の裁量ひとつなので、大学側は戦々恐々だ>。

<大学設置審は官僚の決定を追認するだけなので、大臣は答申が出た段階では認めるしかない。実質的な決定権は官僚にあり、審議会も大臣も形だけなのだ。これが霞が関の典型的な手続きであり、これでは「政治主導」なんてできるはずもない>。

「審議会は官僚の決定を追認するだけだ」という話は、これに限らず、しばしば耳にする。先日話題になっていた城繁幸氏の記事でも、この話が出ていた。

Joe's Labo : 僕が慶應義塾長とケンカしたわけ(2012年11月04日11:00)
http://jyoshige.livedoor.biz/archives/6046587.html

<清家篤氏というのは、厚労省お気に入りのセンセイで、多くの審議会や研究会に名を連ねている。そして、明らかに厚労省の意向に沿ったとしか思えないリードぶりもしばしば見せている。08年には自民党の公務員制度改革に対する霞が関期待のストッパーとして投入され、渡辺喜美氏が自民を離党する遠因ともなった曰く付きの人物でもある>。

<実は、この65歳継続雇用の義務化も、氏自らが座長を務める研究会で提言されたものだ。あらためて議事録を見ても、氏が最初から結論ありきで、まったく身のある議論をしていないのが明らかだ>。

厚労省の意向というのが最初からあって、その意向に沿った発言をしてくれそうな人を審議会に集めているわけだ。結局、最初の方針を決めているのは官僚なのである。似たような話はしばしば聞くので、これは厚労省に限らないようだ。

何度か書いているように、私は官僚をワルモノ扱いする陰謀論は採らない(関連:「官僚を「公営シンクタンク」として使う、日本の安上がりな政治システム」)。官僚は基本的には、日本をよくするために、毎日夜中すぎまで身を削って働いてくれていると思う。しかし同時に、いまの仕組みでは、国民のためになるかどうかよりも、「省益」になるかどうかを優先するように、判断基準にバイアスがかかりやすいのも確かだと思う。これは官僚がワルモノだというよりも、仕組み(「構造」)が生み出すインセンティブの問題なのだ(関連:「山崎元「正社員の指名解雇が出来る仕組みが必要」「官僚の解雇も多額の収入も可能に」」)。

真の「政治主導」とは、官僚が「省益」のために行動していて、それが国民の利益に反する場合に、その流れを断ち切ることだ。今回の田中文科相による「真紀子爆弾」は、乱暴ではあったが、その意味では「政治主導」として機能したように思う。


関連エントリ:
田中真紀子文部科学相が新設3大学を不認可に 問題は何か
http://mojix.org/2012/11/04/tanaka-funinka
大阪維新の会「維新八策」 財政・行政・政治改革、公務員改革について
http://mojix.org/2012/09/05/ishin-hassaku-koumuin
山崎元「正社員の指名解雇が出来る仕組みが必要」「官僚の解雇も多額の収入も可能に」
http://mojix.org/2009/02/21/yamazaki_hajime_kaiko