大阪維新の会「維新八策」 財政・行政・政治改革、公務員改革について
大阪維新の会「維新八策」について、一昨日は資産課税、昨日は地方分権、道州制について書いてきたが、今日は財政・行政・政治改革、公務員改革について書いてみたい。
まず維新八策の2番目、「財政・行政・政治改革~スリムで機動的な政府へ~」をあらためて見てみよう。
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2.財政・行政・政治改革~スリムで機動的な政府へ~
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【理念・実現のための大きな枠組み】
・役人が普通のビジネス感覚で仕事ができる環境の実現
・簡素、効率的な国会制度、政府組織
・首相が年に100日は海外に行ける国会運営
・持続可能な小さな政府
【基本方針】
・大阪府・市方式の徹底した行財政改革
・外郭団体、特別会計の徹底見直し
・無駄な公共事業の復活阻止
・密室の談合を排した行政プロセスの可視化
・行政のNPO化、バウチャー化→行政サービスの主体を切磋琢磨させる
・国会、政府組織の徹底したICT化
・プライマリーバランス黒字化の目標設定
・国民総背番号制の導入
・歳入庁の創設
・衆議院の議員数を240人に削減
・議員スタッフ機能の強化
・歳費その他の経費の3割削減
・企業・団体献金の禁止、政治資金規正法の抜本改革(全ての領収書を公開)
・政党交付金の3割削減
・地域政党を認める法制度
・ネットを利用した選挙活動の解禁
これらは大きく、「財政・行政」に関するものと、「政治」に関するものに分けられる。「外郭団体、特別会計の徹底見直し」「無駄な公共事業の復活阻止」「行政のNPO化、バウチャー化」などは「財政・行政」に関するものだし、「衆議院の議員数を240人に削減」「企業・団体献金の禁止、政治資金規正法の抜本改革(全ての領収書を公開)」「ネットを利用した選挙活動の解禁」などは「政治」に関するものだ。
「財政・行政」については、基本的な方向は「行政の効率化」であり、いわゆる「小さな政府」の方向である。なぜ「小さな政府」の方向になるかというと、維新八策の1番目である「統治機構の作り直し」により、「中央集権型国家から地方分権型国家へ」というシフトが起きるので、「中央集権」の部分を減らせるからだ。同時に、「行政のNPO化、バウチャー化」のような民営化も進めるので、中央政府が直接担う行政を小さくできて、よって財政も小さくできるわけだ。
「政治」に関するものでは、話題になっている「衆議院の議員数を240人に削減」や、「政党交付金の3割削減」、「ネットを利用した選挙活動の解禁」などが目を引く。「政治」とは、具体的には国会議員であり、国会議員は国民の代表である。その国会議員を何人にするか、どのように選ぶか、その母体となる政党の扱いをどうするか、といったものが、ここでのテーマである。議員数の削減は、個人的にはそれほど反対ではないが、既存政党からの反対も大きく、慎重さを求められるテーマでもある。それよりも、「ネットを利用した選挙活動の解禁」のように、共感を集めやすく、その効果も大きいテーマのほうを優先したほうがいいように思う。
維新八策の「財政・行政・政治改革」は、1番目の「統治機構の作り直し」(地方分権・道州制)の次に置かれることで、ストーリーが生まれ、ポリシーの一貫性を増していると感じる。「行革」「官から民へ」といった話は、これまでの日本でもたびたび試みられてきたし、維新八策の行財政改革も、基本的にはその延長上にある。維新八策では、これが「地方分権型国家へ」というビジョンの具体化・帰結として出てきており、単に民営化をすすめるというだけではないので、より説得力があると感じる。また、「行政」と「政治」(立法)を対立的に描くのではなく、「政治」側にも自己改革を求め、一体で改革しようとしているのもいい。
次に、維新八策の3番目、「公務員制度改革~官民を超えて活躍できる政策専門家へ~」を見てみよう。
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3.公務員制度改革~官民を超えて活躍できる政策専門家へ~
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【理念・実現のための大きな枠組み】
・公務員を身分から職業へ
・倒産のリスクがない以上、人材流動化制度の強化
・省益のためでなく国民全体のために働く行政組織
・厳しくとも公の仕事を望むなら公務員に
【基本方針】
・大阪府・市の公務員制度改革(頑張ったものは報われる、能力、実績主義、職位に見合った給料)を国に広げる
・官民給与比較手法(総額比較)の抜本的改正、人事院制度の廃止
・地方公務員も含めた公務員の総人件費削減
・大阪府・市職員基本条例をさらに発展、法制化
・公務員の強固な身分保障の廃止
・内閣による人事権の一元化
・内閣による公務員採用の一元化。社会人中途採用を基本
・採用試験の抜本的見直し
・任期付を原則とする等官民の人材流動化を強化
・管理職の内外公募制
・大胆な政治任用制度(次官、局長級幹部の政治任用)
・年齢・在職年数によらない職務給制度
・任期付の場合には民間に劣らない給与・処遇
・若手時代は官庁間異動を原則
・公務員労働組合の選挙活動の総点検
・公務員の関係首長選挙活動の制限
・国家公務員制度に合わせて地方公務員制度も抜本的改革
公務員は行政の担い手なので、この「3.公務員制度改革」は、「2.財政・行政・政治改革」とつながっており、それを具体化するものと言える。同時に、「6.経済政策・雇用政策・税制」の雇用政策ともつながっている。
日本はタテマエとしては「議院内閣制」だが、実体は「官僚内閣制」であるとしばしば言われる。コトバンクの「官僚内閣制」にはこうある。
<官僚が内閣の政策に強い影響力を及ぼしている状態を指摘する表現。
日本の政治制度は本来議院内閣制だが、実際には政策立案の実務等を各省庁の官僚が主導し、これを閣僚などが形式的に追認する形で進められてきた。こうした官僚主導の政策立案・決定プロセスを政治主導へ転換する必要性が指摘されている>。
本来は国会議員の仕事である政策立案を官僚がやっているので、事実上、日本の政策は官僚が作っているわけだ。
官僚はしばしばバッシングの対象になるが、私は官僚をワルモノとは思っておらず、むしろ同情したい気持ちがある(関連:「官僚を「公営シンクタンク」として使う、日本の安上がりな政治システム」)。本来、政策立案は国会議員の仕事なのだから、基本的には、国会議員がもっとちゃんとやれという話である。国会議員を選んでいるのはわたしたち国民なのだから、国会議員がちゃんと仕事していないとしたら、そんな国会議員を選んでいるわたしたちにも責任がある(関連:「国民は「施主」である」)。
しかし、話はそう単純でもない。国会議員はわたしたちが選び、選挙に勝ったり負けたりするが、官僚はわたしたちが選ぶことはできず、選挙もない。官僚は公務員であり、政府に雇われた勤め人なのだから、当然ではある。さらに、公務員はクビにならず、倒産もないので、強い「身分」保障がある。そして国家公務員の場合、基本的にどこかひとつの「省」に属していて、自分の「省」に帰属意識を持っていると言われる。これにより、自分の「省」にとっての利益(「省益」)を増すように行動するインセンティブが生じやすい(よく叩かれている「天下り」も、「省益」のひとつ)。上の維新八策でも、「省益のためでなく国民全体のために働く行政組織」と書かれているのが、これにあたる。
つまり、現状では公務員の「身分」保障が強すぎたり、国家公務員の「省」への帰属が強すぎるために、行政や財政が国民のためではなく、公務員自身がトクする方向に進みがちだ、という問題がある。個々の公務員自身はワルモノでなくても、雇用やインセンティブの構造が、そのようになってしまっているのだ。
維新八策の3番目である「公務員制度改革」では、「公務員の強固な身分保障の廃止」や「任期付を原則とする等官民の人材流動化を強化」などによって、その仕組みを変えようとしている。
関連エントリ:
大阪維新の会「維新八策」最終案 これはまさに「維新」だ
http://mojix.org/2012/09/02/ishin-hassaku
国民は「施主」である
http://mojix.org/2010/11/17/kokumin-seshu
「超人」を求める「ワルモノ論」をやめて、「凡人でも回せるシステム」を考える「制度論」を
http://mojix.org/2010/01/25/bonjin_system
官僚を「公営シンクタンク」として使う、日本の安上がりな政治システム
http://mojix.org/2009/09/03/japan_thinktank
まず維新八策の2番目、「財政・行政・政治改革~スリムで機動的な政府へ~」をあらためて見てみよう。
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2.財政・行政・政治改革~スリムで機動的な政府へ~
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【理念・実現のための大きな枠組み】
・役人が普通のビジネス感覚で仕事ができる環境の実現
・簡素、効率的な国会制度、政府組織
・首相が年に100日は海外に行ける国会運営
・持続可能な小さな政府
【基本方針】
・大阪府・市方式の徹底した行財政改革
・外郭団体、特別会計の徹底見直し
・無駄な公共事業の復活阻止
・密室の談合を排した行政プロセスの可視化
・行政のNPO化、バウチャー化→行政サービスの主体を切磋琢磨させる
・国会、政府組織の徹底したICT化
・プライマリーバランス黒字化の目標設定
・国民総背番号制の導入
・歳入庁の創設
・衆議院の議員数を240人に削減
・議員スタッフ機能の強化
・歳費その他の経費の3割削減
・企業・団体献金の禁止、政治資金規正法の抜本改革(全ての領収書を公開)
・政党交付金の3割削減
・地域政党を認める法制度
・ネットを利用した選挙活動の解禁
これらは大きく、「財政・行政」に関するものと、「政治」に関するものに分けられる。「外郭団体、特別会計の徹底見直し」「無駄な公共事業の復活阻止」「行政のNPO化、バウチャー化」などは「財政・行政」に関するものだし、「衆議院の議員数を240人に削減」「企業・団体献金の禁止、政治資金規正法の抜本改革(全ての領収書を公開)」「ネットを利用した選挙活動の解禁」などは「政治」に関するものだ。
「財政・行政」については、基本的な方向は「行政の効率化」であり、いわゆる「小さな政府」の方向である。なぜ「小さな政府」の方向になるかというと、維新八策の1番目である「統治機構の作り直し」により、「中央集権型国家から地方分権型国家へ」というシフトが起きるので、「中央集権」の部分を減らせるからだ。同時に、「行政のNPO化、バウチャー化」のような民営化も進めるので、中央政府が直接担う行政を小さくできて、よって財政も小さくできるわけだ。
「政治」に関するものでは、話題になっている「衆議院の議員数を240人に削減」や、「政党交付金の3割削減」、「ネットを利用した選挙活動の解禁」などが目を引く。「政治」とは、具体的には国会議員であり、国会議員は国民の代表である。その国会議員を何人にするか、どのように選ぶか、その母体となる政党の扱いをどうするか、といったものが、ここでのテーマである。議員数の削減は、個人的にはそれほど反対ではないが、既存政党からの反対も大きく、慎重さを求められるテーマでもある。それよりも、「ネットを利用した選挙活動の解禁」のように、共感を集めやすく、その効果も大きいテーマのほうを優先したほうがいいように思う。
維新八策の「財政・行政・政治改革」は、1番目の「統治機構の作り直し」(地方分権・道州制)の次に置かれることで、ストーリーが生まれ、ポリシーの一貫性を増していると感じる。「行革」「官から民へ」といった話は、これまでの日本でもたびたび試みられてきたし、維新八策の行財政改革も、基本的にはその延長上にある。維新八策では、これが「地方分権型国家へ」というビジョンの具体化・帰結として出てきており、単に民営化をすすめるというだけではないので、より説得力があると感じる。また、「行政」と「政治」(立法)を対立的に描くのではなく、「政治」側にも自己改革を求め、一体で改革しようとしているのもいい。
次に、維新八策の3番目、「公務員制度改革~官民を超えて活躍できる政策専門家へ~」を見てみよう。
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3.公務員制度改革~官民を超えて活躍できる政策専門家へ~
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【理念・実現のための大きな枠組み】
・公務員を身分から職業へ
・倒産のリスクがない以上、人材流動化制度の強化
・省益のためでなく国民全体のために働く行政組織
・厳しくとも公の仕事を望むなら公務員に
【基本方針】
・大阪府・市の公務員制度改革(頑張ったものは報われる、能力、実績主義、職位に見合った給料)を国に広げる
・官民給与比較手法(総額比較)の抜本的改正、人事院制度の廃止
・地方公務員も含めた公務員の総人件費削減
・大阪府・市職員基本条例をさらに発展、法制化
・公務員の強固な身分保障の廃止
・内閣による人事権の一元化
・内閣による公務員採用の一元化。社会人中途採用を基本
・採用試験の抜本的見直し
・任期付を原則とする等官民の人材流動化を強化
・管理職の内外公募制
・大胆な政治任用制度(次官、局長級幹部の政治任用)
・年齢・在職年数によらない職務給制度
・任期付の場合には民間に劣らない給与・処遇
・若手時代は官庁間異動を原則
・公務員労働組合の選挙活動の総点検
・公務員の関係首長選挙活動の制限
・国家公務員制度に合わせて地方公務員制度も抜本的改革
公務員は行政の担い手なので、この「3.公務員制度改革」は、「2.財政・行政・政治改革」とつながっており、それを具体化するものと言える。同時に、「6.経済政策・雇用政策・税制」の雇用政策ともつながっている。
日本はタテマエとしては「議院内閣制」だが、実体は「官僚内閣制」であるとしばしば言われる。コトバンクの「官僚内閣制」にはこうある。
<官僚が内閣の政策に強い影響力を及ぼしている状態を指摘する表現。
日本の政治制度は本来議院内閣制だが、実際には政策立案の実務等を各省庁の官僚が主導し、これを閣僚などが形式的に追認する形で進められてきた。こうした官僚主導の政策立案・決定プロセスを政治主導へ転換する必要性が指摘されている>。
本来は国会議員の仕事である政策立案を官僚がやっているので、事実上、日本の政策は官僚が作っているわけだ。
官僚はしばしばバッシングの対象になるが、私は官僚をワルモノとは思っておらず、むしろ同情したい気持ちがある(関連:「官僚を「公営シンクタンク」として使う、日本の安上がりな政治システム」)。本来、政策立案は国会議員の仕事なのだから、基本的には、国会議員がもっとちゃんとやれという話である。国会議員を選んでいるのはわたしたち国民なのだから、国会議員がちゃんと仕事していないとしたら、そんな国会議員を選んでいるわたしたちにも責任がある(関連:「国民は「施主」である」)。
しかし、話はそう単純でもない。国会議員はわたしたちが選び、選挙に勝ったり負けたりするが、官僚はわたしたちが選ぶことはできず、選挙もない。官僚は公務員であり、政府に雇われた勤め人なのだから、当然ではある。さらに、公務員はクビにならず、倒産もないので、強い「身分」保障がある。そして国家公務員の場合、基本的にどこかひとつの「省」に属していて、自分の「省」に帰属意識を持っていると言われる。これにより、自分の「省」にとっての利益(「省益」)を増すように行動するインセンティブが生じやすい(よく叩かれている「天下り」も、「省益」のひとつ)。上の維新八策でも、「省益のためでなく国民全体のために働く行政組織」と書かれているのが、これにあたる。
つまり、現状では公務員の「身分」保障が強すぎたり、国家公務員の「省」への帰属が強すぎるために、行政や財政が国民のためではなく、公務員自身がトクする方向に進みがちだ、という問題がある。個々の公務員自身はワルモノでなくても、雇用やインセンティブの構造が、そのようになってしまっているのだ。
維新八策の3番目である「公務員制度改革」では、「公務員の強固な身分保障の廃止」や「任期付を原則とする等官民の人材流動化を強化」などによって、その仕組みを変えようとしている。
関連エントリ:
大阪維新の会「維新八策」最終案 これはまさに「維新」だ
http://mojix.org/2012/09/02/ishin-hassaku
国民は「施主」である
http://mojix.org/2010/11/17/kokumin-seshu
「超人」を求める「ワルモノ論」をやめて、「凡人でも回せるシステム」を考える「制度論」を
http://mojix.org/2010/01/25/bonjin_system
官僚を「公営シンクタンク」として使う、日本の安上がりな政治システム
http://mojix.org/2009/09/03/japan_thinktank