2010.01.25
「超人」を求める「ワルモノ論」をやめて、「凡人でも回せるシステム」を考える「制度論」を
政治家が悪い、官僚が悪い、マスコミが悪い、経営者が悪い、といった考え方は、完全に間違ってはいないにしても、問題の原因を「属人」的な部分に求めすぎている。こういう考え方は、きわめて高い能力と優れた人格を兼ね備えた人、いわば「超人」を要求するものだ。

日本では中央政府に権限が集中しているので、政治家や官僚はとりわけ、「超人」であることが求められることになる。しかしこれは非現実的であり、「永遠にかなわぬ夢」だ。能力は高いけれども腹黒かったり、いい人なんだけど無能だったりするのが、人間というものだろう。能力も高く人格も優れている場合でさえ、日本では「組織の論理」や「空気」によって、個人の才能が封じ込められてしまいやすい。

能力が高くて人格も高潔な「超人」のような人はめったにおらず、無限に供給されてこない。だから「超人」の登場に期待したり、それを前提とするのではなく、「凡人」でも社会が回るような「仕組み」「システム」「構造」を作る必要がある。「誰々が悪い」というワルモノ論をやめて、制度論について話すべきなのだ。

政治家も官僚も「ロール(役割)」に過ぎない。そこに「超人」がやってこなくてもシステムが回るような、そういう仕組みを考える必要がある。逆にいえば、仕組み自体が間違っている場合は、どんなに「超人」がやってきて、すばらしい運用やパフォーマンスを示しても、そのシステムはうまくいかない。いまの日本はまさにこの状態にある。「人」の問題ではなくて、「仕組み」の問題なのだ。

いまの日本では、政府に権限が集中している一方で、国民は高い税金と強い規制によって自由を奪われている。政府は国民を「子供扱い」しており、国民の側もそれに甘えているところがある。しかし国民の多くは、その「甘えのコスト」に気づいていないようだ。その「甘え」がタダで手に入ると思っており、それが日本を失速させていることに気づいていない(解雇規制などはその典型だろう)。

子供が小さいうちは、親は子供を保護し、教え、正しい方向に導いていく必要がある。しかし子供が大きくなってくれば、親はそれに応じて子供の扱い方を変えていく必要がある。またそれによって、子供も精神的に独立し、成長していける。子供が成長していくにつれて、親は「子離れ」していく必要があるし、子供も「親離れ」していく必要がある。

日本では、政府と国民のあいだで、この「子離れ」「親離れ」ができていないように思える。政府の方向を決めるのは最終的には国民なので、これは国民自身がこの問題を自覚し、解決することがまだできていないことを意味する。国民の側で、「親離れ」したいという声がまだそれほど大きくなく、むしろ「親頼み」したい人が多数派だろう。

国民の側にある「親頼み」の考え方、蔵研也氏のいう「クニガキチント」こそが、日本政府の「パターナリズム」を許しつづけている。日本はずっとこの構造で来て、特に戦時体制以降これがいっそう強められた。戦争では負けたが、この「挙国一致体制」によって高度経済成長という「勝利」を得た。日本はこの勝利体験が忘れられず、「戦時体制」からいまだに抜けられないのだ。

しかし、日本はもう国として成熟しており、これまでのような「子供向け」の方法、「みんなが国の言うとおりに動く」というやり方は通用しない。産業の観点で見ても、人間を均質化して物量的に扱うような「作戦」は、20世紀はうまくいったかもしれないが、21世紀にはもう通用しない。物質よりも情報の比重が高まるこれからの社会では、1人1人の個性や才能、クリエイティビティを思いきり伸ばし、傑出した才能を活用できるような社会が生き残っていく。これまでの日本のやり方では、傑出した才能はむしろ潰されてしまいがちだ。

国の成熟度から見ても、産業の観点から見ても、これまでの日本のような「挙国一致体制」「護送船団方式」はもう通用しない。中央政府に集中しすぎた権力を分散し、地方や個人にもっと力を与えていく必要がある。このエンパワーメントは、決して「バラマキ」方式ではなく、まったくその反対である。高い税金や強い規制こそが中央政府に「権力」を集中させているのだから、それを分散するために必要なことは、「減税」と「規制緩和」である。

いまの日本国民は、なぜ日本がうまくいかなくなったのかわからないまま、イライラをつのらせているような状態だろう。政治家が悪い、官僚が悪い、マスコミが悪い、経営者が悪いといった「ワルモノ論」が目立つようになってきたのも、問題の真の原因が制度や社会構造にあることが見えていないために、「ワルモノ」のせいにして納得したいという心情ではないだろうか。

経済を動かすのは人々の「インセンティブ」、つまり「やる気」である。いまの日本は誤った制度設計のために、この「やる気」が出てこない状態だ。「やる気」が出てくるような制度設計が、正しい制度設計である。


関連エントリ:
官僚を「公営シンクタンク」として使う、日本の安上がりな政治システム
http://mojix.org/2009/09/03/japan_thinktank
「精神論」より「制度論」を
http://mojix.org/2009/07/19/seishinron_seidoron
根本的な帰属の誤り(Fundamental attribution error)
http://mojix.org/2008/09/21/fundamental_attribution_error