2009.01.31
IT・ネット業界だけ、解雇規制を外してみるのはどうか
IT・ネット業界に限り、解雇規制を外してみるというのはどうだろうか。

最近の日本のブログ界では、解雇規制が問題であるという認識が少しずつ広がってきている印象があるが、まだまだ反対意見(解雇規制は必要)も多い。比較的若くて熱心な人が多いブログ界でさえこうなのだから、日本の一般人レベルでは、さらに反対意見が多いことが予想できる。

政策の正しさは、多くの場合、議論によって理詰めで実証することは難しい。「やってみて、うまくいく」ことでしか証明できない。

そこでまず、エリアを限定した特区のようなものを作り、そこで新しい政策がうまくいくかどうか試す、というのがひとつの方法だ。しかし解雇規制などの労働法制・労働政策については、エリアで切るよりも、業種で切ったほうが良さそうに思える。

もし特定の業種だけ、解雇規制を外してみるとすれば、IT・ネット業界が良さそうに思う。もともと転職が活発で、雇用流動性も比較的高いから、他の業種に比べれば反発が少ないだろう。

解雇規制の問題は、企業の採用コストを上げてしまうので、労働需要を減らすというところにある。また採用において属性で差別する傾向を強めるので、「属性弱者」に厳しく、「身分階層」を強化してしまう効果もある。

IT・ネット業界で解雇規制をなくすと、IT・ネット業界だけは、これと反対のことが起きる。つまり、次のようなことが起きるだろう。

1) IT・ネット業界で新規採用が増え、採用基準もゆるやかなものになる。

2) IT・ネット業界内で、大企業に囲い込まれていた人材が、より小さい企業に移っていく。

3) 他の業界から、IT・ネット業界に人材が流れ込んでくる。

4) IT・ネット業界にいる企業の競争力が高まり、国際的な競争力を持つ企業の出現率が高まる。

5) 不要な人材を抱え込むリスクがなくなるので、直接採用が増え、多重下請け構造、過剰な子会社構造などが緩和される。

6) IT・ネット業界での起業が増える。

7) 「属性弱者」が、IT・ネット業界に入り込むチャンスが増える。

ざっと思いついた範囲だが、1)を基本として、2)~7)のような動きが起きることが予想できる。

2)は、解雇規制がなくなれば、終身雇用・年功序列・新卒一括採用といった「日本的雇用慣行」自体が崩壊に向かうので、それによって人材を囲い込んでいる大企業のメリットが薄れるからだ。

3)は大きい。この不況下にあっても、IT・ネット業界は相対的には成長産業であり、人材を必要としている。IT・ネット業界に限定した規制緩和だけで、この「大移動」が実現できることになる。

4)、5)は以前からのIT・ネット業界の課題だったが(「IT産業を呪縛する 「変われない日本」」、「日本のネットベンチャーが技術革新よりも 「ネット財閥」 をめざす理由」)、これも解消に向かう。

6)は2)とも連動している。起業が増えれば、雇用も生まれ、税収も増える。

7)が、個人的にはいちばんいいと思う点だ。職歴・学歴・性別・年齢などの「属性」で不利な人でも、ほんとうは実力がある人、可能性を秘めた人がたくさんいる。こういう人をIT・ネット業界がひろい上げて、才能を開花させることができれば、その人にとっても、IT・ネット業界にとっても、日本にとっても、誰にとっても望ましい。

そして、これはIT・ネット業界の中にいる人はわかってくれると思うのだが、技術者よりも、技術者ではない人材がはるかに不足している(経営者、マネージャー、営業・マーケティングなど)。IT・ネット業界だって「会社」だから、技術者だけではビジネスが回らない。私の印象では、IT・ネット業界は技術そのものよりも、技術以外のところにボトルネックがあるケースが多いように思う。だから、いま他業界や「属性弱者」の人でも、技術者になるのではなく、技術以外で活躍する余地がかなりありそうだ。

以上のように、IT・ネット業界に限って規制をゆるめるだけでも、人材の流動化、雇用創出、起業の促進、下請け構造の緩和など、大きな効果が期待できる。

莫大な税金を投入して景気対策やバラマキをするよりも、これのほうがはるかにいい政策ではないだろうか。