2009.09.19
自民党総裁選は河野太郎氏に注目 河野氏の「劇薬」で自民党は「大手術」せよ
asahi.com - 自民総裁選、西村・河野・谷垣の3氏届け出(2009年9月18日11時37分)
http://www.asahi.com/politics/update/0918/TKY200909180105.html

<自民党総裁選は18日告示され、西村康稔・前外務政務官(46)、河野太郎・元法務副大臣(46)、谷垣禎一・元財務相(64)が立候補を届け出た。派閥会長らベテラン勢に支持を広げて国会議員票で優位に立つ谷垣氏に、若手2人が挑む世代間対決の構図になった。総選挙の惨敗で野党に転落したことをうけ、派閥解消や世代交代などの党再建策が争点となる>。

<西村氏は最大派閥・町村派に所属し、同派重鎮の森喜朗元首相や町村信孝元官房長官も出馬を容認。18日朝に正式表明して、派閥を離脱する考えを示した。「世代交代は大事だが、若手だけで民主党に対抗できない。老壮青が力をあわせたい」と訴え、同じ若手でも世代交代を唱える河野氏とは一線を画した。与謝野馨前財務相や鳩山邦夫元総務相の支持も取り付けた>。

<河野氏は「私利私欲で既得権を温存するために動く人間がいるのは甚だ遺憾。挙党態勢を免罪符にして誤った考えを残すことはできない。世代交代をやり遂げ、派閥政治から脱却したい」と強調し、派閥解消や世代交代を前面に掲げた。所属する麻生派の議員や小泉改革を支持した中堅・若手のほか、派閥主導を批判する中川秀直元幹事長や菅義偉選挙対策副委員長にも後押しされている>。

<谷垣氏は世代交代論を意識し、「適材適所にしないと永遠に与党には戻れない。若い人を積極的に登用し女性の出番も増やす」と強調した。所属する古賀派の古賀誠元幹事長や青木幹雄前参院議員会長ら重鎮に加え、石破茂前農水相や石原伸晃幹事長代理、小池百合子元防衛相ら「ポスト麻生」候補だった有力者らの支持を受け、国会議員票で優勢だ>。

自民党総裁選は、ベテランの谷垣禎一氏に、若手の河野太郎氏・西村康稔氏が挑む構図。

この3人のうち注目すべきは、なんといっても河野太郎氏だろう。もし河野氏が勝ったら、派閥も解体し、頑迷な老人たちをバッサリ斬って、自民党も面白くなりそうだ。河野氏を推しているのは、中川秀直氏や菅義偉氏、世耕弘成氏など、小泉元首相に比較的近かった改革派・経済重視の人たちが中心のようだ。もし「河野自民党」になれば、「小泉自民党」と同じではないにしても、ふたたび改革路線に向かうことは間違いない。

あとの2人、谷垣氏・西村氏では、自民党はあまり変わらないだろう。国会議員票では谷垣氏優勢とのことで、谷垣氏は「麻垣康三」の1人として知名度もあるし、自民党のひとつの主流であり、穏当なところだろう。

西村氏はよくわからない。優秀な人のようだが、知名度もないし、唐突な感じだ。世耕弘成氏や山内康一氏は、重鎮による若手の分断工作であるとはっきり書いているが、上の記事を読んだだけでも、そんな感じがする。自民党的な派閥の論理で「担ぎ出された」ようだ。

記事によると、<総裁選は国会議員票(199、衛藤征士郎衆院副議長を除く)と党員投票に基づく地方票(300)の計499票を争う形式で行われ、28日に投開票される>、<今回は党員投票に基づく地方票が国会議員票を上回るため、党員投票の行方が勝敗を左右する可能性もある>とのことで、国会議員票よりも党員投票のほうに大きく左右されるらしい。

もし仮に国民投票をすれば、改革路線の河野太郎氏がおそらく勝つんじゃないだろうか。自民党議員の論理では谷垣氏が優勢だとしても、党員投票に基づく地方票は、おそらく国民の意識により近い気がする。自民党の「派閥の論理」には、国民はもうウンザリしている。だから自民党は負けたのに、派閥老人にはそれがわからないのだろう。また谷垣氏は「麻垣康三」の1人ということで、知名度がある反面、他の3人の元総理に連なる印象が強くて、いまさら「谷垣自民党」では民主党に対抗できそうもない。

しかし、河野氏が勝ったら面白くなるとは思うが、仮に河野氏が勝っても、自民党はそこからが正念場だろう。2005年の小泉自民党の大勝利から、その後の自民党がどういう経過を辿ったか見れば明らかなように、内心では小泉路線に賛成していないのに、小泉人気に乗っただけの「腰抜け」がたくさんいた(そこには麻生元首相も含まれる)。自民党はこれまで、政策や信念によって集まっているというよりも、「政権党である」という「権力」によって成立していた部分が大きいから、「腰抜け」がまだたくさんいるはずだ(なおここで言う「腰抜け」とは、信念よりも保身を優先する態度で、「独立精神」の対義語)。

上の記事にあるように、河野氏は<挙党態勢を免罪符にして誤った考えを残すことはできない>と言い切っている。もし「河野自民党」ができたら、小泉以降の自民党が辿った後退を繰り返さないように、政策的な「純化」を徹底し、今度こそ「古い自民党」体質を完全に克服してくれることを期待したい。

河野太郎氏は、どこか小泉元首相にも通じる「信念の人」で、その信念の強さから自民党では「異端」になり、「自民党の冥王星」と呼ばれている(ちなみに、自民党からみんなの党に移った山内康一氏は「ハレー彗星」と呼ばれていた)。自民党にとって、河野氏はいわば「劇薬」なのだ。

河野氏という「劇薬」を使わなければ、自民党の「大手術」はとても無理だろう。自民党で河野氏を支持している人たちは、そのことを誰よりもわかっているはずだ。中川秀直氏が書いている通り、自民党には<解党的出直し>が必要なのだ。

鳩山民主党は「政権交代」を掲げて大勝利したが、フタを開けてみれば、鳩山内閣の顔ぶれも決して若々しいとは言えない。それぞれのポジションに適任の人材を選んだというよりも、党内の派閥的なバランスを考えたポスト配分という印象だ。国民新党・社民党との連立、亀井氏・福島氏の入閣もやや強引で、来年の参院選に向けた「選挙シフト」のように見える。そういった点も含めて、なんだか「古い自民党」に戻ってしまったような感じだ。「政権交代」を成し遂げ、ついに与党となった民主党だが、総選挙という「お祭り」が終わってしまえば、国民の過剰な期待や「幻想」は、みるみるうちにしぼんでいく。国民にとっても民主党にとっても、これからシビアな現実が始まる。

総選挙では完全に「負け戦(いくさ)」で、みっともない退却戦を強いられた自民党だが、もしここで河野氏が勝利すれば、「売られすぎ」だった自民党の不人気も「底打ち」して、勢いを取り戻すかもしれない。河野氏が選ばれることは、自民党再生のための「必要条件」であり、いわば「ラストチャンス」だろう。


関連:
日経ビジネスオンライン - 民主勝ち過ぎ、「2大政党制」雲散霧消か 自民残党、「野党の覚悟」と“乗っ取り”の算段
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20090830/203767/
総選挙投票日の翌日、民主大勝利の直後に出た素晴らしい記事。河野太郎という人の魅力をよく伝えている。

中川秀直オフィシャルブログ「From HIDENAO」 - 明日から自民党総裁選が始まる。
http://ameblo.jp/nakagawahidenao/entry-10344630696.html
<私はこれまで、次期総裁の5つの条件として、①派閥解消、②世代交代、③衆院議員は小選挙区当選者、④成長・改革路線、⑤現執行部ではない、を主張してきた>。<自由民主党が国民の期待にそって生まれ変わるため、若きリーダーとしての河野太郎さんに解党的出直しの先頭に立って頂かなければならない。私は全面的に応援する>。

世耕日記 - 9月18日(金)【雑感】
http://blog.goo.ne.jp/newseko/e/489c22fd151477e9aa6209ddd1c74a80
<ついに河野太郎衆議院議員が自由民主党総裁選挙に立候補した。推薦人の署名も確保することができた。この署名は中堅・若手数名で足を棒にして歩いて、一人一人を説得して獲得したものだ。他陣営のように派閥が取りまとめたものではないし、有力政治家が影響力を行使して集めたものでもない。しかし一方で裏で行われた若手の分断工作や河野陣営に向けられた切り崩しの圧力には本当に憤りを感じる>。

山内康一 の「蟷螂(とうろう)の斧」 - がんばれ、河野太郎さん!
http://yamauchi-koichi.cocolog-nifty.com/blog/2009/09/post-f4db.html
<世代交代を阻止したい各派閥の重鎮やベテラン議員が画策して、もうひとり若手の総裁候補を擁立することになりました。世代交代推進勢力を分断することが目的なのは明らかです。候補者自身は若くても、背後にいるのが町村派の重鎮だったら、世代交代は起こりません>。

関連エントリ:
日本は再び「大きな政府」路線へ 鳩山「未体験ゾーン」内閣
http://mojix.org/2009/09/17/hatoyama_mitaiken
「自民は不満、民主は不安」 一時的なバラマキではなく、真の経済成長をもたらす規制改革を
http://mojix.org/2009/08/24/jimin_minshu_goumon
(自民党と民主党は)両政党の違いよりも、政党内部の違いの方が大きい
http://mojix.org/2009/07/30/jimin_minshu_chigai

Update(2009/9/19):
YouTubeの自民党チャンネルで、3氏の所見発表演説が全部見れる。

【総裁選】候補者所見発表演説会(2009.9.18)
http://www.youtube.com/watch?v=vFGpd6odTiE

西村氏はまったく話にならない。こんな人をあいかわらずの派閥力学で出してくる自民党の体質には、あきれるしかない。
河野氏は実に明確なメッセージで、すばらしい内容。ぜひ見てほしい。民主党も震え上がらせる迫力で、まさに「劇薬」だ。派閥老人が河野氏を恐れるのもわかる。
谷垣氏もぬるすぎる内容で、「みんな仲良くやりましょう」という危機意識のなさに脱力させられる。いい人ではあるんだろうけど、政策もまるで中身がなくて、無能な上司の話という感じだ。
内容的にも、演説の迫力でも、圧倒的に河野氏に軍配があがる。ニュースで活字だけ読んでいるのと大違いで、これを見れば誰でもそう思うだろう。