2009.09.01
みんなの党は「独立精神」の集まり 浅尾慶一郎氏、山内康一氏に注目
アゴラ - 自民党は「保守主義」で再生せよ - 池田信夫
http://agora-web.jp/archives/734522.html

<世界的にみても、政党の主要な対立軸は「大きな政府か小さな政府か」しかありません。民主党がいうように「無駄の削減」だけで「高福祉・低負担」が実現できるというフリーランチはありえない。それに対して自民党が「中福祉・中負担」などという中途半端なスローガンを掲げるのではなく、規制改革によって財政負担を削減し、企業の競争力を高める成長戦略を打ち出せば、ビジネスマンは支援するでしょう>。

まったく同感。今回の総選挙では、自民党も民主党も「大きな政府」路線で、「大きな政府A」と「大きな政府B」の戦いでしかなかった。そこに真の「対立軸」がないままに、とにかく「政権交代」させようという民意によって、民主党が大勝した。民主党は、その政策によって選ばれたとはあまり言えないだろう。

今回の総選挙で、明確に「小さな政府」路線を打ち出していたのは「みんなの党」だけだったと思う。自民党の一部にも、民主党の一部にも、個別に見れば「小さな政府」派はいるようだが、党全体の方針としてはいずれも「大きな政府」路線だった。

「みんなの党」は5議席を獲得し、大健闘と言っていいと思うが、明確に「小さな政府」路線を打ち出しているのが「みんなの党」だけであることを考えると、まだまだ伸びる余地があると思う。少なくとも、今回「みんなの党」は比例区であと2議席分の票を取っていたのに、選挙戦略の失敗で落としてしまった(参考:asahi.com「民主と「みんな」の比例議席、他党へ 4議席「譲渡」」)。つまり、7議席分の票は得ていたのだ。

asahi.com - 政党別開票結果 みんなの党
http://www2.asahi.com/senkyo2009/kaihyo/party07.html

これを見るとわかるが、比例区の全11ブロックのうち、みんなの党は7ブロックにしか候補者を立てておらず、北海道ブロック、北陸信越ブロック、中国ブロック、四国ブロックには候補者を立てられなかった。もちろん、立てたからといって当選するとは限らないが、比例区では健闘している傾向があるようなので、全ブロックに立てていれば、あと1~2議席くらい取れた可能性もあると思う。

戦略ミスで落としてしまった近畿ブロック、東海ブロックがもし取れていれば、7ブロック中じつに5ブロックで議席を得るところだった。これがいかにすごいことかは、例えば共産党(9議席)社民党(7議席)などと比べてみればわかる。みんなの党は今回、できたばかりで知名度も低いにもかかわらず、かなり効率よく議席を取っているのだ。

つまり、みんなの党はいわば「需要」が高まっていて、それに対して「供給」が追いついていない状態だと言えるだろう。投票時に「みんなの党」の存在を初めて知ったという人もけっこういたようなので、「潜在需要」は高いと思う。

今回の民主党の圧勝は、ほぼ事前に予想されていた通りだったが、みんなの党がここまで健闘することを予想していた人はあまりいないのではないか。みんなの党を応援していた私自身、渡辺喜美・江田憲司の両氏はカタいと思っていたが、その2議席止まりということもありえると考えていた。

結果としては、渡辺喜美、江田憲司、浅尾慶一郎、山内康一、柿沢未途の5氏が議席を獲得したが、ここでは浅尾慶一郎と山内康一の両氏に注目してみたい。

浅尾慶一郎氏は、民主党のネクスト防衛大臣のポストを蹴ってまで、みんなの党に参加しての選挙だったが、やはり圧倒的な民主への追い風に相当苦しめられたようだ。

葉山町インサイダー - 浅尾慶一郎は逆風の中 よくがんばった。比例で当選。
http://blog.goo.ne.jp/hayama_001/e/46857a51f1e1628dc5a825d6a58e60cf

<浅尾慶一郎は逆風のなか、よくぞ勝ち残った。民主という大波からわざわざあえて抜け出し、ほとんど孤軍奮闘して、戦ってきた。それは選挙が公示されても、自民、民主、共産などはボンボンビラを貼り、選挙戦に突入しできたのに、浅尾は、みんなの党に走り、その党はまどろっこしいことに、看板さえ、告示日に間に合わず、3日遅れであった。
 それらの不利な条件の中で、駅頭でビラしか撒けず、後は選挙カーでの連呼と、個人演説会だけであった>。

<浅尾は民主の中で自分の施策が通らない、党の決定した方向しか許されないことを、知ったために、民主という政権党さえも、袖にしたのである。
その決断を高く評価しなければならない。男は「志」を高く掲げなければならない。寄らば大樹の陰、という並市民的な処世術をすてたのである>。

まったく同感だ。これほど追い風の民主党、それも大臣の座まで見えていたというのに、浅尾氏はわざわざそれを捨てて、みんなの党という新党の立ち上げに加わることを選んだのだ。ほんとうにカッコいい。これこそベンチャースピリットだろう。

みんなの党の5人のパートナーのうち、浅尾氏以外の4人(渡辺喜美、江田憲司、山内康一、広津素子の各氏)も、渡辺氏・山内氏・広津氏が自民党を離党していて、江田氏も無所属と、「独立精神」の持ち主が集まっている。私が「みんなの党」に共感するのは、政策がいいだけでなく、この「独立精神」が好きだからだ。

「独立精神」というのは、「寄らば大樹の陰」「長いものには巻かれろ」「勝ち馬に乗る」といった気質とは正反対のものだ。自分の信念を曲げない、率先して動く、少数派になることを怖れない、といったものが「独立精神」の特徴である。日本人はこれと反対に、自分の信念が弱い、他人のあとから動く、多数派につきたがる、といった傾向が強い。日本では「独立精神」の人が少数派で、その人の発言や行動パターンを見ていれば、「独立精神」の人かどうかはすぐにわかる。

今回の総選挙では、比較的早い段階から民主党の優位が伝えられていた。こうなると、民主党という「勝ち馬」に乗りたがる人がわんさか出てくるものだ。今回の民主党の圧勝は、それがそのまま民意だというよりも、「勝ち馬」に乗る「お祭り」のような側面がなかったとは言えないだろう。

浅尾氏は今回、その「勝ち馬」たる民主党の、ネクスト防衛大臣の座を蹴ってまで、みんなの党に参加したわけだ。これほど明白な「独立精神」の証明があるだろうか。その浅尾氏が、逆風に苦しめられながらも辛勝したわけで、ほんとうに良かった。

そしてもう1人、注目してほしいのが、当ブログではおなじみの(?)山内康一氏である。

山内氏は、2005年の「郵政」総選挙で当選したいわゆる「小泉チルドレン」の1人。いまや、小泉改革や「小さな政府」をはっきり支持する政治家は少なくなったが、山内氏は明確にその路線を維持している貴重な存在である(例:「「小さな政府」、構造改革、経済成長路線の新党を待望する」)。

山内氏は衆院解散時に自民党を離党し、その後みんなの党の結党に参加した。今回の総選挙では、結局自民党は大敗し、「小泉チルドレン」も大多数が敗退したようだが、山内氏は生き残った。自分の信念にしたがって自民党を離れ、みんなの党に参加したのは正解だったのだ。

山内康一さん離党。神奈川9区に注目。」以来、山内氏の動きや選挙状況を分析していたロンドン在住のanacapさんが、さっそく山内氏の当選について書いている。

アナルコ・キャピタリズム研究(仮)ブログ - 山内康一さん、当選
http://anacap.jugem.jp/?eid=355

「8月19日(公示日翌日)」「8月22日(公示直後予測)」「8月30日(21時、今日・選挙当日)」という3つの時点での状況を、日本在住の「リ」こと後輩と語る形式で書かれており、末尾のリンクにある関連エントリもあわせて、面白く充実した選挙分析になっている。「山内康一さんは比例単独?それとも重複?渡辺喜美の選挙戦略」など、ローカルな選挙区の話を漫才ふうに語りながら、その内容はゲーム理論になっていたりして、高度かつ面白い。

歴史的な「政権交代」が起きた今回の総選挙は、おそらくどの政治家にとっても激動の日々だったはずだが、浅尾氏と山内氏ほど激動の日々を過ごした政治家はなかなかいないだろう。この2人の勇気ある参加がなければ、「みんなの党」は少なくとも今回の総選挙には間に合わなかったはずだ。

渡辺喜美・江田憲司の両氏が中心になり、浅尾氏と山内氏、そして残念ながら落選した広津氏の参加によって「みんなの党」が始まり、5議席を獲得したことは、これからの日本の政治にとって、小さいけれども重要な一歩だと思う。「大きな政府」路線の民主党に対して、「小さな政府」や「経済成長」の方向性をきちんと打ち出していけば、じわじわ支持を集めていくはずだ。それが政界再編につながっていけば、「みんなの党」はそこで中心的な役割を果たすだろう。

冒頭のエントリで池田信夫氏が書いているように、日本では「大きな政府か小さな政府か」という選択が、<政党の主要な対立軸>になっていない。「小さな政府」という選択肢が存在しないために、いつまでもバラマキをして、規制改革から逃げ回り、経済が沈みつづけている。「小さな政府」という選択肢を提示し、日本政治に真の「対立軸」を持ち込むこと。私がみんなの党に期待しているのは、その役割だ。


関連エントリ:
日本の問題は「市場の失敗」でなく「政府の失敗」
http://mojix.org/2009/08/29/nihon_no_mondai
「自民は不満、民主は不安」 一時的なバラマキではなく、真の経済成長をもたらす規制改革を
http://mojix.org/2009/08/24/jimin_minshu_goumon
渡辺喜美元行革相の新党は「みんなの党」に 山内康一氏、浅尾慶一郎氏ら参加
http://mojix.org/2009/08/06/your_party
「小さな政府」の考え方
http://mojix.org/2009/07/28/small_gov_thought