2010.01.18
ポジショントーク大歓迎
ネットではしばしば、「それはお前に都合がいいだけのポジショントークだ」といった批判を見かける。

別にポジショントークでもいいんじゃないか?と私は思う。

ポジショントークかどうかが重要なのではなく、その人の言っていることが妥当なのか、有益な見方を含んでいるのかどうかが重要だろう。

「それはポジショントークだ」と批判する人は、要するに「もっと客観的な立場から発言せよ」と言っているのだと思うが、完全に客観的になることはそもそも不可能だ。それに、ヘタに客観的であろうとすると、何を言っても主観的になるように思えてきて、保留だらけの意味不明な発言になったり、結局何も言えなくなったりする。これはちょうど、失敗やリスクを徹底的に回避しようとすると、結局何もできなくなるのと似ている。

以前、ポール・グレアムの「反論ヒエラルキー」を紹介したことがある。

反論ヒエラルキー
http://mojix.org/2008/04/13/disagreement_hierarchy

「反論ヒエラルキー」は、最もレベルが低い「罵倒」から、最もレベルが高い「主眼論破」まで、反論を次の7段階に分類したものだ。

DH0. 罵倒(Name-calling): 「この低能が!!!」といったもの。発言者に対する罵倒。
DH1. 人身攻撃(Ad Hominem): 論旨でなく、発言者の属性に対する攻撃。
DH2. 論調批判(Responding to Tone): 発言のトーン(調子)に対する攻撃。
DH3. 単純否定(Contradiction): 論拠なしに、ただ否定。
DH4. 抗論(Counterargument): 論拠はあるが、もとの発言に対して論点がズレている。
DH5. 論破(Refutation): 論破できているが、もとの発言の主眼点は論破できていない。
DH6. 主眼論破(Refuting the Central Point): もとの発言の主眼点を論破できている。

この7段階において、「論拠なしに、ただ否定」という「単純否定」が、ちょうど真ん中の「DH3」であることに注目してほしい。論拠がないのだから、反論としてうまいものとはいえないが、それよりひどいものがあと3つあるのだ。

いちばんひどいのが「罵倒」で、これはわかりやすい。そしてその次にひどいのが「人身攻撃」、つまり「論旨でなく、発言者の属性に対する攻撃」なのだ。論拠で否定するのではなく、発言者の属性を攻撃するのは、「論拠なしに、ただ否定」よりも悪いのだ。その理由は、「人身攻撃」は論旨による反論になっていない上に、属性への攻撃を含んでいるからだ。

「罵倒」が単に一般的な汚い言葉であるのに対して、「人身攻撃」はその発言者自身の属性への攻撃なので、むしろ陰湿だとも言える。「それはポジショントークだ」という批判は、論旨ではなく発言者の「ポジション」を持ち出して、それによって発言の説得力を下げたり、発言者のイメージダウンを狙うものなので、この「人身攻撃」の一種だろう。

特定の立場にある人の意見が、あまりにもその立場に都合のいい意見だ、と感じられることは確かにある。しかしその場合も、「それはポジショントークだ」という「人身攻撃」で反論するのではなく、あくまでも論旨の上で反論すべきだろう。特定の立場にある人の意見が、必ずしも独善的な意見とは限らず、その立場にあるからこそ、平均的な一般人よりも「問題の構造」が見えている、という場合も少なくない。

ネットなどで「人身攻撃」を見かけたとき、私はたいてい、「この人は論旨で反論できないので、人身攻撃しているんだな」と感じる。私は「人身攻撃」している人に共感することはほとんどなく、むしろ「人身攻撃」している人には失望して、そこで攻撃されている人の意見のほうが逆に輝きを増すように感じることが多い。ムキになって否定する人が続出するような見解は、しばしば極端だったり大雑把だったりはするが、何らかの真理や鋭い見方を含んでいることが少なくないからだ。

ひとりひとりの個人に対して客観性を求める考え方は、発言を抑圧する方向に作用しがちで、日本人の「主観恐怖症」をますます強めてしまうだろう。そうではなく、ひとりひとりの個人はどんどん主観的に発言してもらって、それをたくさん集めることで、全体的な多様性によって客観性が実現される、というほうがいいと思う。

ポジショントークを批判するのではなく、むしろ歓迎して、いろいろな立場の人に、どんどん主観的に発言してもらおう。


関連エントリ:
競争好きのアメリカ 「敗者への寛容」と「勝者への寛容」
http://mojix.org/2009/12/11/america_two_kannyou
「主観恐怖症」の日本
http://mojix.org/2009/10/11/shukan_kyoufu
アメリカ人は「希望駆動型」、日本人は「危機感駆動型」
http://mojix.org/2009/07/31/us_kibou_jp_kiki
極論の効用
http://mojix.org/2009/05/08/kyokuron_kouyou