2012.07.08
イタリアで労働市場改革法案が可決、解雇が容易に 「仕事を守る」のではなく「人を守る」
先日、イタリアで労働市場改革法案が可決した。

毎日新聞 - イタリア:労働市場改革法案が可決 解雇が容易に(2012年06月28日 01時15分)
http://mainichi.jp/select/news/20120628k0000m030123000c.html

<【ジュネーブ伊藤智永】イタリアのモンティ政権が「構造改革による成長戦略」の柱と位置づけた労働市場改革法案が27日、下院で可決され、成立する。従業員を容易に解雇できず、国際社会から批判されてきた制度に42年ぶりで改革の手が入る。債務危機で昨年11月に国際通貨基金(IMF)の監視下に入って以来、イタリアが欧州各国に約束した最後の大きな課題を克服したことになるが、モンティ首相は債務危機が再びイタリアへ波及することを防ぐ次の新たな方策を迫られている>。

<労働組合の抵抗で原案は大幅に後退したが、28、29日の欧州連合(EU)首脳会議に間に合わせるため成立を急いだ。70年にできた労働者の雇用を守る手厚い保護制度は、非正規雇用や若者の失業を増やし、海外からの投資や生産性の向上を妨げているとの批判を招いてきた>。

<当初案は企業が業績に応じて自由に解雇や給与改定ができる内容だったが、労組と左派政党の反対で裁判所が介在する手続きに変わり、最大2年分の給与相当額を補償するなどの大幅な修正が行われた。それでも、解雇の条件は以前に比べ緩和され、遅れていた失業手当や就業訓練の制度も拡充される。イタリアの労働市場が流動性を重視した先進国型へかじを切ることになる>。

これはイタリアにとって、大きな前進だろう。

当ブログではたびたび書いている話だが、企業に対して解雇を制約すると、解雇はたしかに少なくなるだろうが、それ以上に採用が少なくなるので、トータルの雇用は減ってしまう(関連:「解雇規制は雇用を減らしている」)。雇用が減るだけでなく、労働が固定化してしまうので、正規・非正規の2重構造や若年者失業をはじめ、さまざまな問題が生じる。

この反対に、解雇を容易にすると、解雇はたしかに増えるだろうが、それ以上に採用が増えるので、トータルの雇用は増える。労働も流動化して、転職が容易になるので、イヤな仕事でもガマンしてしがみつくという必要性が薄まる。

「労働者を保護すればするほど、むしろ雇用が減る」というこのロジックは、経済学を学んだ人や、実地で経営や採用をおこなっている人ならば容易に理解できるのだが、労働者側の視点しか持っていない場合、このことは必ずしも自明ではない。

このテーマを理解するのに重要なポイントは、イギリスの社会学者アンソニー・ギデンズも語っているように、「仕事を守る」のではなく、「人を守る」という点だろう。企業に対して解雇を制約するというのは、「仕事を守る」考え方である。しかしこれは、企業の採用を抑制してしまうので、雇用を減らし、労働を固定化し、結局は経済全体を落ち込ませる。そうではなく、解雇は自由にして、雇用を増やし、労働を流動化させ、経済全体を上昇させる。それでも職を得られない人は、セーフティネットで救済する。これが「人を守る」という考え方であり、北欧のフレキシキュリティ政策の要点でもある。


関連エントリ:
解雇規制は雇用を減らしている
http://mojix.org/2010/11/09/kaikokisei-herasu
失敗できない日本
http://mojix.org/2010/03/07/shippai_dekinai
解雇規制は労働者の利益になっているのか?
http://mojix.org/2009/09/24/kaikokisei_rieki
アンソニー・ギデンズ「急速に社会が変化している時代には、『仕事』を守るのではなく、『人』を守らなければならない」
http://mojix.org/2009/06/18/giddens_shigoto