2010.03.07
失敗できない日本
日本は「失敗を許さない」社会だ。だから「失敗できない」。

若者が就職できなくて苦しんでいる。新卒で採用されなければ、その後に就職できるチャンスは大きく減るので、就活に必死になる。「失敗できない」わけだ。

なぜ、日本はそうなっているのか。企業はなぜ、もっと中途採用しないのだろうか。

それは、企業の側も「失敗できない」からなのだ。日本では解雇規制があるために、いったん正社員を採用すれば、会社側から解雇することはほぼできない。

最近よくニュースで見かける「希望退職者募集」というのも、そのためだ。会社側からお荷物社員を名指しで解雇することができないので、社員の側から「希望退職」を募るしかないのだ。そうすると、できる社員のほうが辞めていき、お荷物社員のほうが残ったりするのだから、なんとも不条理な話だ。

会社側から解雇できないので、社員を採用する場合も、会社はその失敗のリスクを最小にしようと考える。新卒であれば、給料も安く済むし、経験もないかわりに考えも「まっさら」なので、「使いやすい」のだ。

こうして、日本では新卒採用に比べて、中途採用が少なくなる。すると転職が難しくなるので、給料や待遇が悪くても、社員はそうかんたんに辞められない。必死に就活して得た正社員の地位を、そうかんたんに放り出せるはずがない。これは会社側から見れば、給料や待遇を悪くしても、社員はなかなか出ていかない、ということでもある。

さらに会社側には、生産性が低くてもクビにできないお荷物社員がいる。社員をクビにできないという基本的なリスクのほかに、この明白なコストがある。正社員1人あたり、ザックリ言って、その給料の2~3倍のコストが会社にかかる。もし年収1千万円で、ほとんど会社の利益に貢献しないお荷物社員がいたら、会社はその社員のために2~3千万円のコストを払っている。そういう人をクビにできないのだから、かなりの負担だ。こういう人が何人もいたら、その会社の収益は大きく圧迫されるし、他の社員の給料も当然安くなり、新規に人を雇うこともむずかしくなる。

こういうことになってしまうのも、企業に対して解雇を禁止し、「失敗を許さない」からなのだ。企業が自由に解雇できるようになれば、採用も増える。すると転職が容易になり、社員はガマンせずにいつでも辞められるから、会社は給料や待遇を上げざるを得ない。さらにお荷物社員もいなくなるので、ちゃんと働いている人は給料や待遇がさらに上がる。

企業に対して「失敗を許さない」という規制のコストが、社会全体に跳ね返ってきている。これが日本のさまざまな問題を生んでいるのであり、就活で「失敗できない」のもそのためだ。


関連エントリ:
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