2012.10.10
官僚は官僚叩きに反論すべき
うさみのりやのブログZ - 古賀氏のルネサスに関する論評が何故おかしいのかをtweetしたのでまとめておきます。(2012-10-08)
http://ameblo.jp/ipponseoinosuke/entry-11374056307.html

<以下古賀さんのルネサスの再建策検討(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/33711?page=2)に関する経済産業省批判を批判するツイートのまとめです>

9月まで経済産業省に勤めていた宇佐美典也(うさみのりや)氏が、ルネサスに関する古賀茂明氏の見方を批判している。ここで批判されているのは次の記事である。

現代ビジネス - ルネサス再建の足を引っ張る経産省(2012年10月07日)
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/33711

宇佐美氏はこのように書いている。

<さてルネサスのシステムLSI事業は、ルネサスにとって大赤字事業だが、その調達企業にとってはコア部品であるという大きな非対称性がある。嘘だと思うなら皆さん身の回りの白物家電を捨てる時に解体してください。8割がたルネサスのLSIが出てくるでしょう>。

<経済産業省内で問題となっているのはここである。ルネサスが不採算事業から撤退することによって、日本の家電メーカーのサプライチェーンが成り立たなくなる。ただでさえサムスンに押され気味なのに、ここでルネサスがシステムLSIから手を引いたら日本の家電メーカーは総崩れになってしまう>。

<経産省内で天下り維持のために積極的にルネサスをすくいたいと思っているような奴は皆無と言ってもいいと思う。そもそもルネサスに資本注入した責任者が自動車メーカーに天下りなんかしたらマスコミから殺されるくらいに叩かれるに決まってるからそんなことはできるはずもない>。

<つまり論点はルネサス自体ではなく、ルネサスの事業再編によって影響を受ける第三者メーカーである。彼らに悪影響が及ばないようにルネサスをどう再建するかという問題は、一企業の問題ではなく国家的な経済問題である。だから経産省としても再建策にコミットせざるを得ない立場になる>。

<この場合何を優先するかということはとても難しい。プライオリティ一番をルネサスの再建に置くのか、第三者への影響の回避に置くのかは議論の分かれるところである。民間ならば間違いなく前者であるが、国の視点から見れば前者は一企業の問題であり後者は雇用確保も含め国家的問題である>。

<ルネサスという会社をめぐる状況はかように複雑であり、古賀氏が指摘するような単純な問題ではない。ちなみに古賀氏は経産省でまともにメーカーを担当したことがないからそれがわからない。知りもしないのに、知ったかぶりをして議論を振りかざしているだけである>。

<ちなみに産業革新機構は経済産業省と密接に連携しているものの意思決定機構自体は経済産業省から独立しているので、古賀氏が指摘するような経済産業省の言いなりの機関ではない。古賀氏は経済産業省内で馬鹿にされていてろくに情報が入ってこないからそんなこともわからない>。

宇佐美氏はこのひとつ前のエントリでも古賀茂明氏を批判しており、腹に据えかねるものがあるようだ。

宇佐美氏の古賀氏に対する批判には、もはや論旨による批判というより、属性攻撃・個人攻撃にあたるものが含まれていて、そこは残念に思う(関連:「属性攻撃は説得力を下げる」「反論ヒエラルキー」)。しかし、9月まで経済産業省にいた「中の人」からの批判として、中身のある内容も多数含まれており、貴重なものだろう。

宇佐美氏はすでに経済産業省を辞めているが、このような批判は、やはり経済産業省に在籍しているうちは書けなかったのだろうか。宇佐美氏がここで書いている内容は、私は同意できる部分もあるし、同意できない部分もあるが、このような率直な議論が出てくること自体はとてもいいと思う(個人攻撃は賛同できないが)。

私は古賀茂明氏については、著書をざっと立ち読みしたり、見かけた記事をときどき読む程度ではあるが、基本的に好印象を持っている。しかし、宇佐美氏が「陰謀論記事」と書いているように、陰謀論じみた官僚叩きが散見されることも確かだと思う。

しかし「陰謀論じみた官僚叩き」は、古賀茂明氏に限らず、きわめて広範囲に見られるものだ。これは官僚を叩く側の知識不足という側面もあるだろうが、官僚側の説明不足も大きいだろう。官僚は、政治家やマスコミなどにはよく説明しているようだが、国民に直接説明することはあまりしていないように思う。

「陰謀論じみた官僚叩き」に対しては、現役の官僚が直接、反論すべきではないだろうか。たとえそれが国民からの批判で、「国民に反論する」格好になったとしても、まったく構わない。その議論を公開の場でやれば、官僚のほうに分があるときは、賛同の声があがるはずだ。

官僚叩きに限らないが、無責任な批判というのは、「反論されない」という安心感から出ていることが少なくない。「陰謀論じみた官僚叩き」が広範囲に見られるのは、官僚が反論しないからだろう。


関連エントリ
国民は「施主」である
http://mojix.org/2010/11/17/kokumin-seshu
官僚を「公営シンクタンク」として使う、日本の安上がりな政治システム
http://mojix.org/2009/09/03/japan_thinktank