2013.03.02
数学は人文系である
学問はしばしば、「自然科学(natural science)」、「社会科学(social science)」、「人文科学(humanities)」の3つに分けられる。この3つのなかで、数学はどこに属するだろうか。

「もちろん自然科学でしょ」と答える人が、おそらく多いだろう。しかし、これは間違いである。数学は、自然科学には欠かせないものだが、数学自体は自然科学ではない。

自然科学は、人間が作ったものではない「自然」というものについて、その性質や規則性をさぐるものである。いっぽう、数学はすべて人間が作ったものであり、一種の言語体系である。数学は自然に属してはいないのだ。よって、数学は自然科学ではない。

数学が社会科学ではないことは明らかだろう。社会科学は、人間の集団が生み出す社会というものについて、その性質や規則性をさぐるものである。

数学が自然科学ではなく、また社会科学でもないとすれば、あとは人文科学しかない。じっさい、数学は一種の言語体系なのだから、哲学や言語学といっしょに人文科学に含めても、それほどおかしくはない。

数学と同じく、論理学やコンピュータ科学なども、自然科学ではない。よって、これらも人文科学に入れるしかない。しかし、こういうものを人文科学に入れるのはちょっと違う気がする、ということで、「形式科学」という分類があるようだ。私はこの分類があまり好きではないが(関連:「「形式科学」なる概念があるそうだが、数学は科学なのか?」)、人文科学のうち、論理的整合性を重視するものをそう呼ぶのであれば、わりと納得できる。

「数学は人文系である」と聞いて、もし違和感があるとすれば、理系・文系という日本式の分類に慣れすぎているからだろう。理系・文系という分類では、人文科学と社会科学の区別があいまいになる。世界的には、自然科学、社会科学、人文科学の3つをきちんと区別するのが、おそらく一般的だろう。

古代ギリシアにはじまる「リベラル・アーツ(自由七科)」の分類では、哲学・言語・数学はきわめて近い位置にあり、これらがあらゆる学問の基礎と見なされている。この観点に立てば、自然科学、社会科学、人文科学の3つのうち、もっとも基本になるのは人文科学である。これを基礎として身につけてから、自然科学と社会科学を学んでいく、という順番になるのだ。

なお、ここでは慣例にならって「人文科学」と書いたが、私はこの表記はあまり好きではなく、「人文学」のほうがいいと思っている。ウィキペディアの解説にもあるように、「人文科学」と呼ばれているものの原語は「humanities」で、そこに「science」は含まれていない。内容からいっても、人文科学は「科学」とは言えないように思う。しかし、「自然科学」や「社会科学」と並べて書くときは、「人文科学」のほうが語呂がいいことはたしかだ。「形式科学」もそうだが、ここまで「科学」の範囲をひろげてしまうと、ただの「学」に近い意味になる。しかし、そのほうが語呂がよく、分類上もわかりやすいので、「科学」が拡大解釈されているのだろう。


関連エントリ:
理数的人文系
http://mojix.org/2013/02/28/risuu-jinbun
「理系」「文系」の区分は日本だけ 「人文科学」「社会科学」「自然科学」の違い
http://mojix.org/2010/01/17/jinbun_shakai_shizen
リベラル・アーツは 「自由人の技術」
http://mojix.org/2008/06/01/liberal_arts