与謝野発言はなぜ問題なのか 「みんなのもの」という「大きな政府」路線
先日の与謝野財務相の発言(「会社は株主のものという誤った考え」)は、やはり反響が大きいようだ(末尾に関連記事をまとめた)。
与謝野発言はなぜ問題なのか。ポイントは3つくらいあると思う。
■ ポイント1: 国のトップとしての言葉の問題
与謝野氏がどう思っているかによらず、財務・金融・経済財政担当相という国の経済のトップが、「会社は株主のものという誤った考え」というメッセージを出すこと自体が、まず問題だろう。
「~のもの」という日本語には、純粋な「所有権」を超えた意味もあるのはわかるが、「所有権」の意味がもっとも強いことも確かで、誤解される余地が大きい。単にステークホルダーや社会的役割の話をしたいのなら、「~のもの」という表現は使うべきでないだろう。
■ ポイント2: 「規制強化」というメッセージ
実際、日本では「会社は株主のもの」というよりも、「会社はみんなのもの」という考え方がわりと強そうだ。派遣切りの問題でも、企業に対して「どんなに苦しくても、雇用を維持しろ」という圧力が強く、「会社には雇用を維持する責任がある」という見方の根強さをうかがわせた。与謝野氏と同様、本音では「会社は株主のもの」とは思っていない人がやはり多いのだろう。
日本には、市場に介入して、市場の機能を損なうタイプの規制が多い。この種の規制がなくならないのは、1)政府が権限を維持・強化したい、2)規制で恩恵を受ける既得権益者のガードが固い、というだけでなく、3)「会社はみんなのもの」というような見方が一般レベルでも根強い、というのもあるだろう。
与謝野氏の「会社は株主のものという誤った考え」というメッセージは、まさにこの「会社はみんなのもの」路線だ。これを国の側から具体的に言えば、企業の行動を制約する「規制強化」路線になる。「一時期、会社は株主のものという誤った考えが広まった」という言い方からしても、「規制緩和路線は間違いでした。これからは規制をさらに強化します」というメッセージにしか聞こえない。
つまり与謝野発言は、「~のもの」という表現の妥当性とか、「失言」といった話を超えて、「規制を強化します」というメッセージが透けて見えることが問題なのだ。
これは、外国人投資家をますます遠ざけるとか、日本株がまた下がるといった話を超えて、より広範囲の人に、日本経済はさらに失速するだろうという悲観的な見通しを与える。市場をますます「冷やす」のだ。
規制強化自体がもともと望ましくないが、この不況下、税金を使って景気対策すらしている状況で、規制をさらに強化すれば、その景気対策も意味がなくなってしまう。
■ ポイント3: 「みんなのもの」という「大きな政府」路線
与謝野氏は「増税論者」であり、財政を改善するために、国民の負担をさらに増やすという方向を打ち出している。
「増税」路線というのは、上記の「規制強化」路線と表裏一体のもので、要するに「大きな政府」路線だ。会社からも個人からも高い税金を取って、政府をどんどん大きくするのだ。
「みんなのもの」という言葉は、聞こえはいいのだが、それが実際に何を意味しているのかを考えてみれば、結局のところ「政府のもの」なのだ。
「みんなのもの」路線は、その考え方の根本のところに、個人の所有権に対する否定がある。所有権は自由と密接に結びついており、所有権を奪うということは、自由を奪うことを意味する。
与謝野発言をとりあげた最初のエントリで、私はこのように書いた。
<日本国民は、いわば「日本という国の株主」なのだ。その株主を軽視して、ふざけた「経営」をやり、税金の「使い込み」をしているのが、いまの日本だ。むしろ「株主軽視」こそ問題なのだ。
与謝野氏のような「増税論者」が、冒頭の「株主軽視」発言をするというのは、まったくシャレになっていない>。
「みんなのもの」という美名のもとに、税金が増え、自由が減らされて、「大きな政府」が進められる。この点では、「株主軽視」と「国民軽視」はそっくりなのだ。
「みんなのもの」路線というのは、結局のところ、「あなたのものはみんなのもの」を要求する。
与謝野発言の関連記事:
ロイター - 「会社は株主のもの」は誤った考え、私になじまない=与謝野財務相
http://jp.reuters.com/article/stocksNews/idJPnTK024028320090224
与謝野発言を伝えた発端のニュース。はてなブックマークでも反響が大きい。
J-CASTニュース - 「会社は株主のもの」は誤り 与謝野発言、賛否両論で波紋
http://www.j-cast.com/2009/02/25036610.html
私の前回のエントリが採り上げられた。他の与謝野発言もフォローされている。
アルファルファモザイク - 株式会社は誰のものなのか
http://alfalfa.livedoor.biz/archives/51436194.html
上のJ-CASTニュースに対するネット民の反応。いろいろな意見があって健全。
関連エントリ:
規制を緩和し、「構造」を変える
http://mojix.org/2009/02/12/kiseikanwa_naiju
日本は「未成熟な資本主義」、アメリカは「行き過ぎた資本主義」
http://mojix.org/2009/02/08/capitalism_maturity
「規制脳」は国を滅ぼす
http://mojix.org/2009/01/05/kiseinou
「規制で経済を動かそう」という愚かな発想
http://mojix.org/2008/12/16/kisei_oroka
与謝野発言はなぜ問題なのか。ポイントは3つくらいあると思う。
■ ポイント1: 国のトップとしての言葉の問題
与謝野氏がどう思っているかによらず、財務・金融・経済財政担当相という国の経済のトップが、「会社は株主のものという誤った考え」というメッセージを出すこと自体が、まず問題だろう。
「~のもの」という日本語には、純粋な「所有権」を超えた意味もあるのはわかるが、「所有権」の意味がもっとも強いことも確かで、誤解される余地が大きい。単にステークホルダーや社会的役割の話をしたいのなら、「~のもの」という表現は使うべきでないだろう。
■ ポイント2: 「規制強化」というメッセージ
実際、日本では「会社は株主のもの」というよりも、「会社はみんなのもの」という考え方がわりと強そうだ。派遣切りの問題でも、企業に対して「どんなに苦しくても、雇用を維持しろ」という圧力が強く、「会社には雇用を維持する責任がある」という見方の根強さをうかがわせた。与謝野氏と同様、本音では「会社は株主のもの」とは思っていない人がやはり多いのだろう。
日本には、市場に介入して、市場の機能を損なうタイプの規制が多い。この種の規制がなくならないのは、1)政府が権限を維持・強化したい、2)規制で恩恵を受ける既得権益者のガードが固い、というだけでなく、3)「会社はみんなのもの」というような見方が一般レベルでも根強い、というのもあるだろう。
与謝野氏の「会社は株主のものという誤った考え」というメッセージは、まさにこの「会社はみんなのもの」路線だ。これを国の側から具体的に言えば、企業の行動を制約する「規制強化」路線になる。「一時期、会社は株主のものという誤った考えが広まった」という言い方からしても、「規制緩和路線は間違いでした。これからは規制をさらに強化します」というメッセージにしか聞こえない。
つまり与謝野発言は、「~のもの」という表現の妥当性とか、「失言」といった話を超えて、「規制を強化します」というメッセージが透けて見えることが問題なのだ。
これは、外国人投資家をますます遠ざけるとか、日本株がまた下がるといった話を超えて、より広範囲の人に、日本経済はさらに失速するだろうという悲観的な見通しを与える。市場をますます「冷やす」のだ。
規制強化自体がもともと望ましくないが、この不況下、税金を使って景気対策すらしている状況で、規制をさらに強化すれば、その景気対策も意味がなくなってしまう。
■ ポイント3: 「みんなのもの」という「大きな政府」路線
与謝野氏は「増税論者」であり、財政を改善するために、国民の負担をさらに増やすという方向を打ち出している。
「増税」路線というのは、上記の「規制強化」路線と表裏一体のもので、要するに「大きな政府」路線だ。会社からも個人からも高い税金を取って、政府をどんどん大きくするのだ。
「みんなのもの」という言葉は、聞こえはいいのだが、それが実際に何を意味しているのかを考えてみれば、結局のところ「政府のもの」なのだ。
「みんなのもの」路線は、その考え方の根本のところに、個人の所有権に対する否定がある。所有権は自由と密接に結びついており、所有権を奪うということは、自由を奪うことを意味する。
与謝野発言をとりあげた最初のエントリで、私はこのように書いた。
<日本国民は、いわば「日本という国の株主」なのだ。その株主を軽視して、ふざけた「経営」をやり、税金の「使い込み」をしているのが、いまの日本だ。むしろ「株主軽視」こそ問題なのだ。
与謝野氏のような「増税論者」が、冒頭の「株主軽視」発言をするというのは、まったくシャレになっていない>。
「みんなのもの」という美名のもとに、税金が増え、自由が減らされて、「大きな政府」が進められる。この点では、「株主軽視」と「国民軽視」はそっくりなのだ。
「みんなのもの」路線というのは、結局のところ、「あなたのものはみんなのもの」を要求する。
与謝野発言の関連記事:
ロイター - 「会社は株主のもの」は誤った考え、私になじまない=与謝野財務相
http://jp.reuters.com/article/stocksNews/idJPnTK024028320090224
与謝野発言を伝えた発端のニュース。はてなブックマークでも反響が大きい。
J-CASTニュース - 「会社は株主のもの」は誤り 与謝野発言、賛否両論で波紋
http://www.j-cast.com/2009/02/25036610.html
私の前回のエントリが採り上げられた。他の与謝野発言もフォローされている。
アルファルファモザイク - 株式会社は誰のものなのか
http://alfalfa.livedoor.biz/archives/51436194.html
上のJ-CASTニュースに対するネット民の反応。いろいろな意見があって健全。
関連エントリ:
規制を緩和し、「構造」を変える
http://mojix.org/2009/02/12/kiseikanwa_naiju
日本は「未成熟な資本主義」、アメリカは「行き過ぎた資本主義」
http://mojix.org/2009/02/08/capitalism_maturity
「規制脳」は国を滅ぼす
http://mojix.org/2009/01/05/kiseinou
「規制で経済を動かそう」という愚かな発想
http://mojix.org/2008/12/16/kisei_oroka