「追い出し屋」が出てくるのは、そもそも家賃滞納という「食い逃げ」を許しているからだ
asahi.com - 「追い出し屋」、新法軸に規制方針 国交省(2009年5月12日18時52分)
http://www.asahi.com/politics/update/0512/OSK200905120044.html
<賃貸住宅で連帯保証を請け負う不動産業者らが、家賃を滞納した借り主を強引に閉め出す「追い出し屋」被害が広がっている問題で、国土交通省は家賃保証業務を規制する方針を固めた。追い出し行為を行政処分できる法律の制定を軸に検討し、8月までに素案をまとめる。
国民生活センターによると、家賃債務保証をめぐるトラブルの相談は全国で04年度の44件から、08年度には428件と急増。しかし、家賃保証業務は、宅地建物取引業法や借地借家法の対象外で、監督官庁がなかった。その結果、深夜早朝の督促や鍵交換、家財撤去など違法性の高い行為が事実上、野放し状態になっていた>。
また「規制脳」だ。
なぜ「追い出し屋」が出てくるのかという構造的要因を考えず、ただ表面的に「悪者」を規制しようという、おなじみの思考パターンだ。
「日本の賃貸住宅ではなぜ保証人を要求されるのか 「保護」がむしろ「弱者」を生む日本の構造」で書いたように、そもそも借地借家法で借り主を過剰保護して、家賃滞納を許すような制度設計になっているから、大家と借主のあいだに入る家賃保証業というサービスが必要とされている。その家賃保証業者のうち、滞納者の追い出しを強くやりすぎの業者が「追い出し屋」だ。
「追い出し屋」が問題なのはわかるが、そもそも家賃滞納という「食い逃げ」が許されていることがまず問題なのだ。家賃滞納者の居座りを許すような間違った制度設計を改めない限り、この問題は解決しない。
これも「日本の賃貸住宅では~」で書いた通り、この話は「派遣切り」で企業が責められるというのと、まったく同じ構図だ。
日本の企業が派遣を使うのは、解雇規制のおかげで正社員の解雇が困難だからであって、いざとなれば「切れる」ということが、そもそも派遣の「存在意義」なのだ。それを「派遣切り」として企業を責めて、さらに規制を強めたりしたら、企業は派遣すら使わなくなり、失業者はさらに増える。
「追い出し屋」のトラブルの相談件数は、この4年間で約10倍になっているようだが、おそらく家賃保証業というビジネス自体が、それくらい伸びているのだろう。雇用問題と住宅問題はつながっているから、安定した職がなく、信用力の小さい「信用弱者」が増えれば、賃貸契約においてその信用力を補完する家賃保証業というものへのニーズも当然大きくなる。
<このため、国交省は早急な対応が必要と判断。12日に開かれた社会資本整備審議会「民間賃貸住宅部会」で、(1)新法の整備(2)登録制の導入(3)ガイドラインの公表――の3通りの規制を検討することを明らかにした。
新法の場合、家賃保証業務を許可制とし、違反業者を営業停止などにする行政処分や刑事罰の規定を入れる>。
この規制ができたら、家賃保証業者が減って、信用力のない弱者はますます部屋を借りられなくなるだろう。これは、企業の「派遣切り」を規制すれば、ますます失業者が増えるのとまったく同じ構図だ。
日本では、ロクに働いていない社員でも会社はなかなかクビにできないし、家賃滞納者であっても大家はなかなか追い出せない。これでは、「食い逃げ」のようなフリーライドを国が奨励しているようなものではないだろうか?「食い逃げ」したら死刑、というのはもちろんひどすぎるが、何のペナルティもなく、むしろ「保護」されているというのは、なんなんだろう。
それも、その「食い逃げ」で被害を受けるのは会社だったり、大家だったりするわけで、国はそのコストをかぶらない。「まあまあ、そのくらいガマンしてやってくれ」というわけだ。生活保障という国の役割を、会社や大家という民間に押しつけているのだ。そのわりに、日本はえらい高い税金をとっているわけで、政府の存在意義ってホントなんなのか。
会社でも大家でも、たいていの人間は鬼ではないので、ちょっと仕事をサボったらクビとか、1日家賃を滞納しただけで追い出し、ということには普通ならないだろう。しかし、そこは善意にもとづいて、自由意志で決めるべきものだ。日本では、その「善意」が「強制」されてしまっている。
ほんとうの「食い逃げ」であれば、食事1回分の損失で済むからまだマシだ。ロクに働かない社員や家賃滞納者というのは、「食い逃げ」がずっと居座っているようなものだろう。その「保護」を、会社や大家といった民間に「強制」しているのが日本なのだ。
日本では、ほんらい相互の自由意志にもとづいておこなわれるべき市場取引に対して、会社や大家の側からは取引の終了ができないという「出口規制」がかかっているのだ。よって、会社や大家が取引をしようとする「入口」側のインセンティブを下げてしまい、取引量が減ってしまうのだ。
関連エントリ:
「保護」はシステムを弱体化させ、自立する力を失わせる
http://mojix.org/2009/05/07/hogo_jakutaika
職業の「身分制度」が支える日本の「与信」
http://mojix.org/2009/04/03/mibunseido_yoshin
日本の賃貸住宅ではなぜ保証人を要求されるのか 「保護」がむしろ「弱者」を生む日本の構造
http://mojix.org/2009/04/02/chintai_hoshounin
解雇規制は「会社のセーフティネット化」だ
http://mojix.org/2008/06/05/safety_net_in_company
http://www.asahi.com/politics/update/0512/OSK200905120044.html
<賃貸住宅で連帯保証を請け負う不動産業者らが、家賃を滞納した借り主を強引に閉め出す「追い出し屋」被害が広がっている問題で、国土交通省は家賃保証業務を規制する方針を固めた。追い出し行為を行政処分できる法律の制定を軸に検討し、8月までに素案をまとめる。
国民生活センターによると、家賃債務保証をめぐるトラブルの相談は全国で04年度の44件から、08年度には428件と急増。しかし、家賃保証業務は、宅地建物取引業法や借地借家法の対象外で、監督官庁がなかった。その結果、深夜早朝の督促や鍵交換、家財撤去など違法性の高い行為が事実上、野放し状態になっていた>。
また「規制脳」だ。
なぜ「追い出し屋」が出てくるのかという構造的要因を考えず、ただ表面的に「悪者」を規制しようという、おなじみの思考パターンだ。
「日本の賃貸住宅ではなぜ保証人を要求されるのか 「保護」がむしろ「弱者」を生む日本の構造」で書いたように、そもそも借地借家法で借り主を過剰保護して、家賃滞納を許すような制度設計になっているから、大家と借主のあいだに入る家賃保証業というサービスが必要とされている。その家賃保証業者のうち、滞納者の追い出しを強くやりすぎの業者が「追い出し屋」だ。
「追い出し屋」が問題なのはわかるが、そもそも家賃滞納という「食い逃げ」が許されていることがまず問題なのだ。家賃滞納者の居座りを許すような間違った制度設計を改めない限り、この問題は解決しない。
これも「日本の賃貸住宅では~」で書いた通り、この話は「派遣切り」で企業が責められるというのと、まったく同じ構図だ。
日本の企業が派遣を使うのは、解雇規制のおかげで正社員の解雇が困難だからであって、いざとなれば「切れる」ということが、そもそも派遣の「存在意義」なのだ。それを「派遣切り」として企業を責めて、さらに規制を強めたりしたら、企業は派遣すら使わなくなり、失業者はさらに増える。
「追い出し屋」のトラブルの相談件数は、この4年間で約10倍になっているようだが、おそらく家賃保証業というビジネス自体が、それくらい伸びているのだろう。雇用問題と住宅問題はつながっているから、安定した職がなく、信用力の小さい「信用弱者」が増えれば、賃貸契約においてその信用力を補完する家賃保証業というものへのニーズも当然大きくなる。
<このため、国交省は早急な対応が必要と判断。12日に開かれた社会資本整備審議会「民間賃貸住宅部会」で、(1)新法の整備(2)登録制の導入(3)ガイドラインの公表――の3通りの規制を検討することを明らかにした。
新法の場合、家賃保証業務を許可制とし、違反業者を営業停止などにする行政処分や刑事罰の規定を入れる>。
この規制ができたら、家賃保証業者が減って、信用力のない弱者はますます部屋を借りられなくなるだろう。これは、企業の「派遣切り」を規制すれば、ますます失業者が増えるのとまったく同じ構図だ。
日本では、ロクに働いていない社員でも会社はなかなかクビにできないし、家賃滞納者であっても大家はなかなか追い出せない。これでは、「食い逃げ」のようなフリーライドを国が奨励しているようなものではないだろうか?「食い逃げ」したら死刑、というのはもちろんひどすぎるが、何のペナルティもなく、むしろ「保護」されているというのは、なんなんだろう。
それも、その「食い逃げ」で被害を受けるのは会社だったり、大家だったりするわけで、国はそのコストをかぶらない。「まあまあ、そのくらいガマンしてやってくれ」というわけだ。生活保障という国の役割を、会社や大家という民間に押しつけているのだ。そのわりに、日本はえらい高い税金をとっているわけで、政府の存在意義ってホントなんなのか。
会社でも大家でも、たいていの人間は鬼ではないので、ちょっと仕事をサボったらクビとか、1日家賃を滞納しただけで追い出し、ということには普通ならないだろう。しかし、そこは善意にもとづいて、自由意志で決めるべきものだ。日本では、その「善意」が「強制」されてしまっている。
ほんとうの「食い逃げ」であれば、食事1回分の損失で済むからまだマシだ。ロクに働かない社員や家賃滞納者というのは、「食い逃げ」がずっと居座っているようなものだろう。その「保護」を、会社や大家といった民間に「強制」しているのが日本なのだ。
日本では、ほんらい相互の自由意志にもとづいておこなわれるべき市場取引に対して、会社や大家の側からは取引の終了ができないという「出口規制」がかかっているのだ。よって、会社や大家が取引をしようとする「入口」側のインセンティブを下げてしまい、取引量が減ってしまうのだ。
関連エントリ:
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http://mojix.org/2009/04/03/mibunseido_yoshin
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