「大きな政府」と「小さな政府」の違いは、中央集中型アーキテクチャと自立分散型アーキテクチャの違い
bradexさんが、Arnold Klingの「A Recession as an Information Problem(情報問題としての不況)」を紹介している。
Division of Knowledge - 情報問題としての不況
http://bradex.posterous.com/22816316
<私は単純なオーストリア学派の考え方は受け入れない。これは、政府による金融政策によって市場が歪められる事だけが、市場が情報問題を解決できない原因であるという考え方だ。もちろん、金融当局が市場の混乱をもたらすことは間違いないが、他にも市場の情報問題解決に障害をもたらす原因はある。私は政府が妨害しなければ、市場は完全に働くとは考えていない>。
<一方で、政府の介入によって、市場が情報問題をよりよく解決できるとも考えていない。政府は情報問題を解決するのに有利な点はない。むしろ、ハイアキアンは政府には不利な点があると考えている>。
<私は、不況は特殊な形の情報問題であると考える。不況は、商業的資源を、利益を生まない事業に投入してしまったということに企業家や投資家が直面することで起こる。現在、アメリカでは、住宅や住宅ローン証券に多大な資源を投入してしまった。このような情報の誤りは、もしかしたら金融政策によるものかもしれない。もしかしたら投機筋の判断の間違いかもしれない。市場が問題なのか政府が問題なのかはここでは関係ない>。
<現在の情報問題は、市場の解決能力を超え、多くの失業を生みだしているのは事実である。しかし、資源の最適配分は官僚が考えだすものではない。巨額の景気刺激策は、市場の試行錯誤の力を奪い、官僚的な計画へと向かってしまう。官僚が突然知識を授かり、完璧な対処が出来るようにはならない。中央集権的計画にくらべ、人々による試行錯誤による対処は、好不況を問わず優れているのだ>。
ここでのArnold Klingの見方は、ざっくりまとめると、次の2つだろう。
・政府か市場かを問わず、資源配分の失敗とは「情報問題」である
・市場も失敗するが、政府よりも失敗が少なく、その失敗を自力で乗り越えていく
この見方には完全に賛同する。資源配分の問題を「情報問題」と捉えると、いろいろなことがわかりやすくなる。市場や政府を「情報システム」と考えるのだ。
例えば、「大きな政府」と「小さな政府」の違い、「計画経済」と「市場経済」の違いは、中央集中型アーキテクチャと自立分散型アーキテクチャの違いに近い。
「大きな政府」「計画経済」の中央集中型アーキテクチャがうまくいかないのは、Arnold Klingが言うように「必要な情報を獲得できない」のもあるし、「処理能力に限界がある」のもある。
「小さな政府」「市場経済」の自立分散型アーキテクチャでは、必要な情報を持っている現場の人間が、互いに情報を提示しあって資源配分を決めていく。
システムの規模が小さいうちは、全体を見通すことが可能なので、中央集中型アーキテクチャのほうが効率がいい。しかし、システムの規模が一定のレベルを超えてくると、全体を見通すことが不可能になり、中央集中型アーキテクチャでは頭打ちになる。
インターネットがうまくいっているのは、どこまでも規模を拡大できる(IT用語で言えば「スケール」する)自立分散型アーキテクチャになっているからだ。インターネットでは、Webサーバも、DNSサーバも、メールサーバも、誰でも勝手に立てられるのであり、政府に届けたりする必要がない。GoogleやTwitterなどのサービスもすべて民間企業がやっており、そういったサービスはつねに増え続けている。
インターネットの成功は、一定規模以上のシステムでは自立分散型アーキテクチャのほうが正しいことを証明している。いまのインターネット全部を、中央政府の計画によってトップダウン的に作ることは不可能だ。
インターネットにもスパムやデマなどの「失敗」は存在している。しかしそれをもって、政府がインターネットを全部検閲すべきだと考える人はほとんどいないだろう。市場もこれと同じだ。市場にも、サギや悪徳商法などの「失敗」は存在するが、その「市場の失敗」をもって、政府がすべてを規制したほうがいい、と考えるのは誤っている。
Arnold Klingが言うように、市場も完璧ではなく、つねに失敗するが、市場は試行錯誤によって、その失敗を自分自身で乗り越えていく。その試行錯誤による進化のスピードが、政府よりも市場のほうがはるかに早いのだ。
関連エントリ:
「大きな政府」論者と「小さな政府」論者
http://mojix.org/2009/09/09/big_gov_small_gov
「小さな政府」の考え方
http://mojix.org/2009/07/28/small_gov_thought
小さな政府、大きな市民社会がつくる「新しい公共」
http://mojix.org/2008/10/27/small_gov_big_civil_society
Division of Knowledge - 情報問題としての不況
http://bradex.posterous.com/22816316
<私は単純なオーストリア学派の考え方は受け入れない。これは、政府による金融政策によって市場が歪められる事だけが、市場が情報問題を解決できない原因であるという考え方だ。もちろん、金融当局が市場の混乱をもたらすことは間違いないが、他にも市場の情報問題解決に障害をもたらす原因はある。私は政府が妨害しなければ、市場は完全に働くとは考えていない>。
<一方で、政府の介入によって、市場が情報問題をよりよく解決できるとも考えていない。政府は情報問題を解決するのに有利な点はない。むしろ、ハイアキアンは政府には不利な点があると考えている>。
<私は、不況は特殊な形の情報問題であると考える。不況は、商業的資源を、利益を生まない事業に投入してしまったということに企業家や投資家が直面することで起こる。現在、アメリカでは、住宅や住宅ローン証券に多大な資源を投入してしまった。このような情報の誤りは、もしかしたら金融政策によるものかもしれない。もしかしたら投機筋の判断の間違いかもしれない。市場が問題なのか政府が問題なのかはここでは関係ない>。
<現在の情報問題は、市場の解決能力を超え、多くの失業を生みだしているのは事実である。しかし、資源の最適配分は官僚が考えだすものではない。巨額の景気刺激策は、市場の試行錯誤の力を奪い、官僚的な計画へと向かってしまう。官僚が突然知識を授かり、完璧な対処が出来るようにはならない。中央集権的計画にくらべ、人々による試行錯誤による対処は、好不況を問わず優れているのだ>。
ここでのArnold Klingの見方は、ざっくりまとめると、次の2つだろう。
・政府か市場かを問わず、資源配分の失敗とは「情報問題」である
・市場も失敗するが、政府よりも失敗が少なく、その失敗を自力で乗り越えていく
この見方には完全に賛同する。資源配分の問題を「情報問題」と捉えると、いろいろなことがわかりやすくなる。市場や政府を「情報システム」と考えるのだ。
例えば、「大きな政府」と「小さな政府」の違い、「計画経済」と「市場経済」の違いは、中央集中型アーキテクチャと自立分散型アーキテクチャの違いに近い。
「大きな政府」「計画経済」の中央集中型アーキテクチャがうまくいかないのは、Arnold Klingが言うように「必要な情報を獲得できない」のもあるし、「処理能力に限界がある」のもある。
「小さな政府」「市場経済」の自立分散型アーキテクチャでは、必要な情報を持っている現場の人間が、互いに情報を提示しあって資源配分を決めていく。
システムの規模が小さいうちは、全体を見通すことが可能なので、中央集中型アーキテクチャのほうが効率がいい。しかし、システムの規模が一定のレベルを超えてくると、全体を見通すことが不可能になり、中央集中型アーキテクチャでは頭打ちになる。
インターネットがうまくいっているのは、どこまでも規模を拡大できる(IT用語で言えば「スケール」する)自立分散型アーキテクチャになっているからだ。インターネットでは、Webサーバも、DNSサーバも、メールサーバも、誰でも勝手に立てられるのであり、政府に届けたりする必要がない。GoogleやTwitterなどのサービスもすべて民間企業がやっており、そういったサービスはつねに増え続けている。
インターネットの成功は、一定規模以上のシステムでは自立分散型アーキテクチャのほうが正しいことを証明している。いまのインターネット全部を、中央政府の計画によってトップダウン的に作ることは不可能だ。
インターネットにもスパムやデマなどの「失敗」は存在している。しかしそれをもって、政府がインターネットを全部検閲すべきだと考える人はほとんどいないだろう。市場もこれと同じだ。市場にも、サギや悪徳商法などの「失敗」は存在するが、その「市場の失敗」をもって、政府がすべてを規制したほうがいい、と考えるのは誤っている。
Arnold Klingが言うように、市場も完璧ではなく、つねに失敗するが、市場は試行錯誤によって、その失敗を自分自身で乗り越えていく。その試行錯誤による進化のスピードが、政府よりも市場のほうがはるかに早いのだ。
関連エントリ:
「大きな政府」論者と「小さな政府」論者
http://mojix.org/2009/09/09/big_gov_small_gov
「小さな政府」の考え方
http://mojix.org/2009/07/28/small_gov_thought
小さな政府、大きな市民社会がつくる「新しい公共」
http://mojix.org/2008/10/27/small_gov_big_civil_society