2010.12.22
就活の悪循環は、大学・学生・企業の「コスト回避ゲーム」である
日経ビジネスオンライン - 合成の誤謬が招く就活の悪循環(2010年12月20日(月))
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20101215/217553/

<「就活問題がこれほど深刻化したのは就活の三大プレーヤーである学生、大学、企業の皆さんがそれぞれ、『互いに変わらない』という前提に立ち、合成の誤謬による悪循環を起こしてきたからです」。10月31日、都内の慶應義塾大学で開かれた「リアル熟議・今、就活のあり方を問い直す」というイベントで鈴木寛文部科学副大臣はこう挨拶した。学生や企業、大学関係者ら70人が集まったこの会合において、鈴木さんは具体的には説明しなかったが、この言葉は「歪んだ就活」を簡潔に表現していると思う>。

<大学、学生、企業それぞれが「相手は変わらない」、例えば、「大学は企業の人材ニーズに合った教育を行ってくれない」など相互不信の上で適当と思われる行動をとっている。それが結果として、三すくみで、自分たちの首を絞めているような状態を作り出し、就活の形を異常なまでに歪めてきたのだ、と。
 鈴木副大臣はこう言いたかったに違いない>。

就活問題は、雇用に関する政府の制度設計が間違っているということが根本の原因であり、その「構造」を変えない限り解決できない。

「学生、大学、企業の三すくみ」とあるが、そもそも政府による制度設計が間違っているので、そのしわ寄せ、コスト、「ツケ」は必ずどこかに来る。民間人どうしで、そのコストを互いになるべく回避しようとしているに過ぎない。

また、大学教育の中身と、企業で必要なスキルにギャップがあるのは当然である。カネを払って教育を受けるのと、カネを稼ぐために商品やサービスを提供するのとでは、大きな開きがある。店で買い物をする側と、店をやる側の違いだ。「カネを稼ぐ」ことの練習は大学ではやらないし、やるべきとも思われない。大学はビジネスを練習する場ではない。

いまの日本の雇用構造では、企業側から人をなかなか解雇できない。よって、企業側の求める人材は専門性の高いプロフェッショナルな人間よりも、会社というコミュニティに同化し、何があってもガマンしてついてくるような人間になりがちだ。だから採用プロセスにおいても、その人の能力や専門性を見るというよりも、「シゴキに耐えられるか」みたいな不条理なものになりやすいのだろう。

このような問題の発生源は、すべて政府による制度設計の誤りである。民間人はその状況にあわせて、自分がもっともトクになる適応行動を取っているにすぎない。

にもかかわらず、鈴木寛文部科学副大臣は「就活問題がこれほど深刻化したのは就活の三大プレーヤーである学生、大学、企業の皆さんがそれぞれ、『互いに変わらない』という前提に立ち、合成の誤謬による悪循環を起こしてきたからです」と言ったという。つまり民間人が悪いというわけだ。

冗談じゃない。そもそも悪いのは政府であり、政府が「変わらない」のがいちばんの原因だ。政府による制度設計、「ゲームデザイン」がそもそも間違っていて、それが社会に「コスト」を発生させている。学生・大学・企業という民間人は、そのコストから互いに逃げ回っているに過ぎない。

政府による制度設計を変えなければ、全体の「コスト構造」が変わらないのだから、民間人のあいだではイス取りゲームやババ抜き、「コスト回避ゲーム」がおこなわれるだけだ。コストから逃げ回るのは人間の経済的習性であり、それをもって民間人を責めても仕方がない。政府が民間に高いコストを課しているとき、悪いのはそのコストを飲みたがらない民間人ではなく、コストを発生させている政府である。

鈴木寛副大臣のように、政府の人間が民間人に対して「聖人」を求める、というのは筋違いだ(これは菅首相も同じである)。民間人は「俗人」であることを前提に、正しい制度を作るのが政府の役割である。

就活の問題は、表面的には「学生、大学、企業の三すくみ」から生じているように見えるとしても、基本的な「コスト構造」を決めているのは政府の制度設計である。学生も、大学も、企業も、その「コスト構造」の中で適応行動を取っているに過ぎず、誰も悪くないのだ。悪いのは、ダメな制度設計をしている政府のみである。


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