2011.02.16
もし日銀がヘリコプターで1万円札をバラまきはじめたら、何が起きるだろうか?
現FRB議長のベン・バーナンキは以前、「デフレを克服するには、ヘリコプターから現金をばら撒けば良い」と主張して、「ヘリコプター・ベン」と呼ばれた。

リフレ派の主張とは、金融緩和によって通貨の流通量を膨張させ、金利が目標レベルに達するまでインフレを起こせばいい、というものだ(インフレ・ターゲティング)。「ヘリコプターから現金をバラまけばいい」というバーナンキのかつての主張は、このリフレ派の考え方をわかりやすく表現している。

もし日銀がヘリコプターを飛ばして、1万円札をどんどんバラまきはじめたら、何が起きるだろうか?

とりあえずすぐに起きるのは、日銀のヘリコプターを追いかけて、1万円札を拾おうとする人が街にあふれる、という現象だろう。

次に起きるのは、こんなことをやる日銀に対する不信と、日本円に対する不信の増大である。ヘリコプターを追いかけていれば1万円札が手に入るのなら、まじめに働くのがバカバカしくなるだろう。

これと同時に、資産を日本円から逃避させる動きが強まる。日本円をドルやユーロなどの外貨に替えたり、不動産や商品市場に資産を移す人が続出する。

こうして、日本円の価値は下がり、金利は上がって、インフレが起きる。すべてのものが値上がりして、デフレは終わる。

このプロセスで起きたのは、日銀と日本円に対する「信用の喪失」である。この信用の低下は、2%とか4%とかの数字では測れない。一度こういうことをやってしまったら、「いつまたやるかわからない」と思われてしまうのが普通だ。

逆にいえば、こういうバラマキをいちどやってしまうと、「またやってくれ」という圧力が強まる。例えば、先ごろの金融緩和で、日銀はREIT(不動産ファンド)の買い入れをやった。これ以降、REITが大きく上昇している。「またやるだろう」と先読みされているからだ。ヘリコプターから1万円札をバラまく、というのをいちどやってしまえば、「またやるだろう」と思われる。そして、「またやってくれ」という圧力が強まる。これと同じことだ。

REITや株、不動産などが値上がりすると、それを持っている人や企業にとっては、資産価値が増えることになる。それを裏づけとして、消費や投資も増えていく。これは「資産効果」と呼ばれ、これでカネが回りはじめるということが、そもそも金融緩和のひとつの狙いである。

しかしこれは、文字通り一種の「バラマキ」である。これは公共事業によるバラマキなどと同様、モラルを低下させる。「バラマキ」でカネがもらえるのなら、まじめに働くのはアホらしいということになり、価値の生産という本来の経済活動に向かうインセンティブを喪失させるだろう。

いっぽうで、商品市場にもカネが流れ込むため、あらゆる原材料費が高騰し、ほぼすべてのものが値上がりしていく(例:「コーヒー各社値上げへ これぞ経済・金融の「生きた教材」」)。株や不動産の上昇に比べると、商品市場の上昇のほうが、一般人の生活を直撃する度合いが大きい。これはいわば、「資産効果」の裏面である。大半の一般人は、値上がりするような資産などあまり持っていないので、インフレはむしろ生活を苦しくする側面のほうが大きい。

こうした負の側面を考慮しても、現状のデフレ状態のほうが害が大きいので、インフレに持っていくべきだ、というのがリフレ派の見方だろう。

私はリフレ派の見方を支持しないが、まったくのナンセンスだとも思っていない。なぜ「ヘリコプターから現金をバラまけばいい」などという突飛な主張が出てくるのか、誰もがいちど考えてみる価値はあると思っている。少なくともそれによって、「お金」とは何なのか、という理解が深まる効果がある。


関連エントリ:
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