2012.09.07
大阪維新の会「維新八策」 社会保障制度改革について
大阪維新の会「維新八策」について、資産課税地方分権・道州制財政・行政・政治改革、公務員改革教育と連日書いてきたが、今日は八策の5番目にあたる「社会保障制度改革」について採り上げたい。

社会保障は、いまの日本でもっとも重要なテーマのひとつだろう。維新八策でも、社会保障改革は大きく扱われている。

まず、維新八策の「5.社会保障制度改革~真の弱者支援に徹し持続可能な制度へ~」をあらためて見てみよう。

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5.社会保障制度改革~真の弱者支援に徹し持続可能な制度へ~
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【理念・実現のための大きな枠組み】

・真の弱者を徹底的に支援
・自立する個人を増やすことにより支える側を増やす
・個人のチャレンジを促進し、切磋琢磨をサポートする社会保障
・若年層を含む現役世代を活性化させる社会保障
・負の所得税(努力に応じた所得)・ベーシックインカム(最低生活保障)的な考え方を導入=課税後所得の一定額を最低生活保障とみなす=この部分は新たな財源による給付ではない
・持続可能な制度
・世代間・世代内不公平の解消
・受益と負担の明確化
・供給サイドヘの税投入よりも受益サイドヘの直接の税投入を重視(社会保障のバウチャー化)
→供給サイドを切磋琢磨させ社会保障の充実を通じて新規事業・雇用を創出

【基本方針】

・自助、共助、公助の役割分担を明確化
・社会保障給付費の合理化・効率化
・(給付費の効率化には限界があるので)高負担社会に備え積立方式を導入
・生活保護世帯と低所得世帯の不公平の是正
・(1)努力に応じた、(2)現物支給中心の、最低生活保障制度を創設
・所得と資産の合算で最低生活保障
・所得と資産のある個人への社会保障給付制限
・(受益と負担の関係を明らかにするため)提供サービスをフルコストで計算
・社会保険への過度な税投入を是正、保険料の減免で対応

[年金]

・年金一元化、賦課方式から積み立て方式(+過去債務清算)に長期的に移行
・年金清算事業団方式による過去債務整理
・高齢者はフローの所得と資産でまずは生活維持(自助)
・国民総背番号制で所得・資産(フロー・ストック)を完全把握
・歳入庁の創設

[生活保護]

・高齢者・障害者サポートと現役世代サポートの区分け
・現物支給中心の生活保護費
・支給基準の見直し
・現役世代は就労支援を含む自立支援策の実践の義務化
・有期制(一定期間で再審査)
・医療扶助の自己負担制の導入
・被保護者を担当する登録医制度
・受給認定は国の責任で

[医療保険・介護保険]

・医療保険の一元化
・公的保険の範囲を見直し混合診療を完全解禁
・高コスト体質、補助金依存体質の改善
・公的医療保険給付の重症患者への重点化(軽症患者の自己負担増)

社会保障は大きなテーマなので、八策の基本フォーマットに加えて、基本方針のところに「年金」「生活保護」「医療保険・介護保険」という3つの分野を加えるかたちになっている。

「理念・実現のための大きな枠組み」を読むと、「自立する個人を増やすことにより支える側を増やす」、「個人のチャレンジを促進し、切磋琢磨をサポートする社会保障」のように、基本的には維新八策全体の方向と合致していることがわかる。「供給サイドヘの税投入よりも受益サイドヘの直接の税投入を重視(社会保障のバウチャー化)」、「供給サイドを切磋琢磨させ社会保障の充実を通じて新規事業・雇用を創出」などは、昨日触れた「4.教育改革」での教育バウチャーの考え方と同じである。例えば生活保護の現物支給(フードスタンプなど)がこれにあたるだろう。

いっぽうで、「若年層を含む現役世代を活性化させる社会保障」、「世代間・世代内不公平の解消」のように、日本の社会保障で生じている特有の問題を解消しようとしている。また「負の所得税(努力に応じた所得)」や「ベーシックインカム(最低生活保障)」の考え方を導入する、というのもあたらしい。「負の所得税」は、収入が一定額を下回る人に対しては、その低さに応じて給付することで、労働のインセンティブをそこなわないようにする仕組みだ。これによって「真の弱者」を支援しつつ、生活保護でも現物支給を導入したり、現役世代はできるだけ「自立」してもらうなど、セーフティネットを合理化・効率化しようとしている。

基本方針には、「所得と資産の合算で最低生活保障」「所得と資産のある個人への社会保障給付制限」といった項目がある。私は基本的に資産課税には賛同しないが、最低生活保障や社会保障においては、収入(フロー)だけではなく資産(ストック)も見るのは仕方がないだろう。

基本方針の年金・医療・生活保護のところには、大きな改革が並んでいる。年金では「年金一元化、賦課方式から積み立て方式(+過去債務清算)に長期的に移行」「国民総背番号制で所得・資産(フロー・ストック)を完全把握」「歳入庁の創設」、生活保護では「現物支給中心の生活保護費」、医療では「医療保険の一元化」「公的保険の範囲を見直し混合診療を完全解禁」など、いずれもたいへんな改革になる。全体の方向としては基本的に賛成だが、あるていど優先するものを絞らないと、絵に描いた餅で終わる可能性もある。個人的には、「年金一元化、賦課方式から積み立て方式(+過去債務清算)に長期的に移行」と「医療保険の一元化」あたりをまず優先的にやってほしい気がする。

社会保障は、現実に大きなコストが日々かかっているので、ムダや非効率、不公平を早急にあらためなければならない。年金などは、現状は制度自体が破綻しているのに近く、現役世代や若者の不信・不安・不満はきわめて大きい。これをマトモな仕組みに立て直すことは、日本に「希望」を取り戻すための最優先の課題だろう。

維新八策全体のなかでも、この「5.社会保障制度改革」と、次の「6.経済政策・雇用政策・税制」が、もっとも重要かつ優先的な課題だろうと私は考えている。


関連エントリ:
大阪維新の会「維新八策」最終案 これはまさに「維新」だ
http://mojix.org/2012/09/02/ishin-hassaku
ベーシックインカムの課題と、課題でないもの
http://mojix.org/2010/07/09/basic-income-kadai
「必要とされている仕事」と「必要とされていない仕事」
http://mojix.org/2009/11/21/hitsuyou_sigoto
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http://mojix.org/2009/08/11/your_party_manifest