2012.09.08
大阪維新の会「維新八策」 経済政策・雇用政策・税制について
大阪維新の会「維新八策」について、資産課税地方分権・道州制財政・行政・政治改革、公務員改革教育社会保障と連日書いてきたが、今日は八策の6番目にあたる「経済政策・雇用政策・税制」について採り上げたい。

昨日の社会保障と同じく、経済・雇用・税制はいまの日本でもっとも重要なテーマであり、維新八策でも大きく扱われている。

維新八策の「6.経済政策・雇用政策・税制~未来への希望の再構築~」は、他のパートと異なり、「経済政策」「雇用政策」「税制」の3つのテーマに分けて、かつそれぞれの「理念、基本方針」を一体として提示するかたちになっている。

まず、最初の「経済政策」から見てみよう。

~経済政策~

【理念、基本方針】

・実経済政策・金融政策(マクロ経済政策)・社会保障改革・財政再建策のパッケージ
・実経済政策は競争力強化
・国・自治体・都市の競争力強化
・競争力を重視する自由経済
・競争力強化のためのインフラ整備
・産業の淘汰を真正面から受け止める産業構造の転換
・グローバル化する知識経済に適応できる産業構造への転換
・自由貿易圏の拡大
・国民利益のために既得権益と闘う成長戦略(成長を阻害する要因を徹底して取り除く)
・イノベーション促進のための徹底した規制改革
・付加価値創出による内需連関
・供給サイドの競争力強化による質的向上=額(量)だけでなく質の需給ギャップも埋める
・新エネルギー政策を含めた成熟した先進国経済モデルの構築
・TPP参加、FTA拡大
・為替レートに左右されない産業構造
・貿易収支の黒字重視一辺倒から所得収支、サービス収支の黒字化重視戦略
・高付加価値製造業の国内拠点化
・先進国をリードする脱原発依存体制の構築

「競争」という言葉が何度も出てきているのが目につく。「競争」は、「自立」とともに、維新八策の中心的な理念をあらわすキーワードだろう。経済政策では、その方向性がもっともストレートに表現されている。

「実経済政策」「産業構造の転換」「知識経済」「規制改革」「付加価値創出」「先進国経済モデル」など、いわゆる「構造改革」寄りの見方、テーマ設定が多い。つまり、日本経済がうまくいっていないのは、規制や古い産業構造のために競争力が低下している、という見方だ(関連:「日本経済の「実力」と「自信」をどう見るか 構造改革派と金融緩和派の違い」)。ボトルネックは「構造」(規制や制度設計)なので、規制改革によってこれを改善すれば、競争力を向上できるという考え方である。「国民利益のために既得権益と闘う成長戦略(成長を阻害する要因を徹底して取り除く)」という項目は、このスタンスをよくあらわしている。いっぽうで金融政策への言及は一箇所のみで、財政によるバラマキなどは皆無である。この「構造改革」路線には、完全に賛同する。

貿易については自由貿易路線であり、TPPについても「TPP参加」を明確にしている。規制改革を重視する「構造改革」路線であれば当然の方向であり、これも賛同できる。TPPは議論が多いが、ほとんど陰謀論のような反対論もよく見かける。国内産業の過剰保護や、既得権益を守る規制こそが、日本の競争力低下、経済失速の大きな要因になっているという構造も、あまり理解されていないと感じる。大阪維新の会が「TPP参加」を明確にしたことで、議論がふたたび活性化することを期待したい。

原発については、「先進国をリードする脱原発依存体制の構築」という表現になっている。基本的に脱原発の方向だが、段階を踏んで進めていくという現実路線だろう。これも賛同できる。

このように、維新八策の経済政策は、個人的にはすべて賛同できるもので、パーフェクトと言ってもいいと思う。

次に、「雇用政策」を見てみよう。

~雇用政策~

【理念、基本方針】

・民民、官民人材の流動化の強化徹底した就労支援と解雇規制の緩和を含む労働市場の流動化(衰退産業から成長産業への人材移動を支援)
・ニーズのない雇用を税で無理やり創出しない
・社会保障のバウチャー化を通じた新規事業・雇用の創出(再掲)
・国内サービス産業の拡大(=ボリュームゾーンの雇用拡大)
・正規雇用、非正規雇用の格差是正(=同一労働同一賃金の実現、非正規雇用の雇用保護、社会保障強化)
・新規学卒者一括採用と中途採用の区分撤廃の奨励
・グローバル人材の育成
・外国人人材、女性労働力(→保育政策の充実へ)の活用
・ワークライフバランスの実現

維新八策の「自立」「競争」という方向に沿ったものが並んでおり、これもほぼ賛同できる。特に「解雇規制の緩和」を明確にしたのは、画期的だろう。これ以外の点、「流動化」や「同一労働同一賃金」などは、みんなの党のマニフェスト(2009年)でも出ていたものだ。しかし、その先進的だったみんなの党のマニフェストでさえ、「解雇規制の緩和」とは書かれていなかった。おそらく「書けなかった」のだろう。

解雇規制については、当ブログでは何度も書いてきているように、日本のボトルネックである「構造」(=規制)の中でも、大ボスとも言える最強問題である。しかし、「会社が正社員のクビをもっとかんたんに切れるようにしよう」という話が反発を食らわないはずがなく、よってこの問題は、マスコミや政治家にとって「タブー」でありつづけてきた。その意味で、維新八策で「解雇規制の緩和」が明記されたのは、きわめて画期的なのだ。

大阪維新の会の代表である橋下氏は、しばしばポピュリストであると言われている。状況を見ながら動く現実主義者という側面は、私も感じている。しかし、ただのポピュリストや現実主義者であれば、「解雇規制の緩和」は言えるはずがないのだ。私のブログ程度であっても、このテーマではさんざん反発を食らってきた。橋下氏や大阪維新の会が、単に人気取りだけを目的にしているのなら、維新八策に「解雇規制の緩和」などと書くはずがない。どんなに反発を食らっても、これが日本にとって大きな問題であると確信しているからこそ、これをあえて雇用政策の冒頭に書いているのだろう。

最後に、「税制」を見てみよう。

~税制~

【理念、基本方針】

・簡素、公平、中立から簡素、公平、活力の税制へ
・少子高齢化に対応→フロー課税だけでなく資産課税も重視
・フローを制約しない税制(官がお金を集めて使うより民間でお金を回す仕組み)
・グローバル経済に対応
・成長のための税制、消費、投資を促す税制
・受益(総支出)と負担(総収入)のバランス
・負の所得税・ベーシックインカム的な考え方を導入(再掲)
・超簡素な税制=フラットタックス化
・所得課税、消費課税、資産課税のバランス

最初の「簡素、公平、中立から簡素、公平、活力の税制へ」というのは、もしかすると誤植ではないか。「簡素」「公平」の2つが変わらないのであれば、「中立から活力の税制へ」と書きそうな気もする。維新八策は、日経の記事以外、大阪維新の会のサイトにも原本が見当たらないので、確認できないのが残念だ。

先日書いたように、資産課税については私は基本的に反対である。生活保護や社会保障のために、資産を把握する必要が生じるのは仕方がない。しかしそれ以外の面では、現状の固定資産税・相続税・贈与税はすでに十分高い水準であり、増税は受け入れられない。ましてや、もし銀行預金に課税するといったことを考えているのであれば、問題外である。そんなことをすれば、経済活動のインセンティブを削ぐどころか、取りつけやパニックが起きても不思議ではない。全体的にすばらしい維新八策なのに、なぜ資産課税が強調されているのか、なぜもう少し詳しい説明がないのかは、理解に苦しむ。「少子高齢化に対応」とあるので、フローが小さくストックが大きい高齢者を念頭に置いているのかもしれないが、だとしても、資産課税は良くない方法である。高齢者や資産家にカネを使わせたいのなら、寄付税制を変えるなど、インセンティブに働きかける方法のほうがいい

「超簡素な税制=フラットタックス化」は、大賛成である。税金は安いほうがいいが、安くならないとしても、シンプルになるだけでもいい。複雑さも「コスト」なのだ。

「負の所得税・ベーシックインカム的な考え方を導入」することで、弱者救済・セーフティネットがしっかりしていれば、税制ははるかに単純化できる。「負の所得税」は、いわば税制とセーフティネットの合体なので、昨日採り上げた社会保障にも入っていて、この税制にも入っているわけだ。

「フローを制約しない税制(官がお金を集めて使うより民間でお金を回す仕組み)」というのも、行財政改革とつながっている。税制をうまく設計すれば、行財政のスリム化にもなり、経済発展にもつながるわけだ。

9月2日より7回連続で、大阪維新の会「維新八策」について書いてきたが、このシリーズはひとまず今日までとしたい。八策にはあと2つ、「7.外交・防衛」と「8.憲法改正」が残っているが、これらは重要なテーマであることは間違いないとしても、社会保障や経済・雇用・税制などに比べると、優先度はやや低いと私は考えている。「7.外交・防衛」と「8.憲法改正」の内容については、おおむね賛同できる。

維新八策の8つの分野は、どれも重要なものだが、もっとも優先すべきと私が思うものを順に3つ並べれば、

「6.経済政策・雇用政策・税制」
「5.社会保障制度改革」
「3.公務員制度改革」

となる。

なお、このようにひとつのテーマを7回連続で書いたのは、当ブログでは初めての試みである。これをやった理由は、維新八策の内容がすばらしく、心を動かされたのに加えて、おそらく今後の日本にとって、この維新八策はきわめて重要な意味を持ってくると思ったからだ。この時点での私の思いを、書いておきたかった。


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