2009.07.21
「分断」しているのは誰か? 「経営者ワルモノ論」の位置づけ
昨日のエントリ(中川秀直「非正規雇用の方を切り捨てて守ろうとしているのは‥」)は、休日にもかかわらず、思いのほか反響が大きかった。「なぜ日本ではブラック会社が淘汰されないのか」のときと同様、雇用問題に対する関心の高まりと、総選挙も近づいてきて、政治への関心の高まりも加わっているのかもしれない。

今回の反応にも見られたが、解雇規制の議論では、<正規雇用と非正規雇用の「分断」は、真の敵(経営者)を利するだけだ>というような意見がよく出てくる。「分断」というのも、なんとも労働組合チックな発想だと思うが、ここではあえて「分断」という発想で考えてみよう。

私にとっては、労働者も経営者も、市場に参加する「民間人」である。民間人は他者に対して一切「強制」できないので、ダメな労働者やダメな経営者がいたとしても、大した問題ではない、と私は考える(「精神論」より「制度論」を)。市場がきちんと機能していれば、ダメな労働者やダメな経営者は、それ相応の報酬や待遇しか得られないので、ちゃんと努力するインセンティブが生じる。もし、ちゃんと努力しても報われなかったり、ダメな労働者やダメな経営者が不相応に高い報酬や身分を得ているのだとすれば、それは市場がきちんと機能していないことの証拠だ。

市場がきちんと機能していない場合、その最大の原因は政府にある。規制と税金という「強制」力を持つ政府が、市場に介入して、取引や価格を規制したり、税率を変えたりして、市場をいわば「変形」していく。私は、日本の政府が民間に課している規制は強すぎ、税金は高すぎると考えており、これが日本をダメにしている最大の原因だと見なしている。私は政府で働いている個々の人には何の恨みもないし、ほとんどが善良な人だと思うが、政府というシステム全体としては、民間の犠牲のもとに自己保身・自己増殖する組織になってしまっており、その意味では「悪」と言われても仕方ないものになっていると思う(昨日触れた中川秀直氏の著書『官僚国家の崩壊』もこれが主題だ)。

国民が負担している税金や、規制によって生じる不自由という「コスト(費用)」に対して、国民が得る行政サービスという「ベネフィット(便益)」はつりあっていない、と私は考える。店で売っている商品などであれば、「これは欲しい」「これは要らない」と自分で選べるが、政府の税金や規制は「これは要らない」と拒否できない。つまり「押し売り」と同じだ。その政府が、税金のムダ使いを続けていたり、年金問題のようなズサンなことをやっていたり、ただでさえ倒産のない公務員が、民間と同じことをしていて倍以上の給料をもらっていたりすれば、国民の怒りを買って当然だろう。

このような意味で、私にとっては政府こそが最大の問題要因、真のトラブルメーカーであり、いわば「敵」である。その私から見て、<正規雇用と非正規雇用の「分断」は、真の敵(経営者)を利するだけだ>というような意見、経営者を敵視する「経営者ワルモノ論」は、むしろ<民間人を「分断」して、真の敵(政府)を利するだけだ>というふうに見えるのだ。

私はつねに「民間(市場)」の側で考えている。「自由」をもっとも重視するリバタリアニズムに共感し、できるだけ「小さな政府」が望ましいと考えている。その私から見ると、会社や経営者を敵と見なす「経営者ワルモノ論」は、政府が会社をより強く規制することを求めるものに思える。政府が会社をより強く規制すれば、市場をより歪曲・縮小させてしまい、これが結局は労働者や消費者にも跳ね返ってきて、雇用の減少や流動性の低下、価格の上昇や品質の低下をもたらす。

「労使」のあいだに線を引き、会社や経営者を敵と見なす「経営者ワルモノ論」は、会社をもっと規制し、会社からもっと税金を取れという方向に世論を動かしがちで、これは政府をさらに肥大化させ、市場を縮小してしまう。こうした「経営者ワルモノ論」の根底にあるのはおそらく、「金持ちは規制し、高い税金を取れ」という発想だろう。これは共産主義や社会主義のような「統制」寄りの考え方であり、「大きな政府」を志向するものだ。

「統制」や「大きな政府」を望ましいと考えるのか、「自由」や「小さな政府」を望ましいと考えるのか。雇用問題以前に、まずその基本的な政治スタンスが違う部分が大きいように思う。


関連:
ウィキペディア - 小さな政府
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F..
ウィキペディア - リバタリアニズム
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA..
ウィキペディア - 古典的自由主義
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%A4..

関連エントリ:
「精神論」より「制度論」を
http://mojix.org/2009/07/19/seishinron_seidoron
「小さな政府」、構造改革、経済成長路線の新党を待望する
http://mojix.org/2009/07/18/small_gov_party
問題を「解消」するという発想 なぜ政府を小さくすべきなのか
http://mojix.org/2009/04/13/mondai_kaishou