2010.09.17
「1に雇用、2に雇用」の菅首相は、キューバの公務員50万人リストラをどう説明するのか
asahi.com - キューバ、50万人を大リストラ 国営部門圧縮し民営へ(2010年9月14日14時1分)
http://www.asahi.com/international/update/0914/TKY201009140108.html

<【ロサンゼルス=堀内隆】キューバ政府は13日、国営部門の労働者を50万人以上、約半年かけて削減する方針を打ち出した。非効率な国営部門を大幅圧縮して民営企業を拡大、経済の立て直しを目指す。全公務員の1割超を民間に振り向ける大手術となる。
 キューバ唯一の労組であるキューバ労働組合総同盟(CTC)が発表した。公務員のリストラと民営化推進は、ラウル・カストロ国家評議会議長が今年8月の国会演説で方針を示しており、その具体的規模が明らかにされた形だ。
 キューバでは労働者の9割近くが国営部門に属し、毎月定額の給与が払われてきた。2008年に就任したカストロ議長は「生産性の向上」を呼びかけてきたが、国が雇用を保障する体制下で労働者の遅刻や早退が常態化しており、生産性向上は成果を上げていない。今回のリストラは議長がやむなく選んだ「ショック療法」と言える。
 CTCは声明で「労働者に給与を永久に保障し続ける仕組みはもはや適用不可能だ」と明言した。リストラ対象の具体的な業種は示していないが、「国営部門に残るのは、農業や建設、警察、製造業など、重要度が高く、労働力が常に不足している分野に限る」としている。すでに一部民営化が進んでいる小売業は、国営部門から切り離される可能性が高い>。

雇用さえ確保すれば経済成長できる、というのは幻想である。雇用の中身が問題なのだ。

経済を成長させるものは生産性やイノベーション、付加価値の創出であって、「ただ働いている」ことでは価値は生まれてこない。

ただ働けばいいのなら、穴を掘って埋めるだけの仕事を国民全員にやらせれば解決するはずだ。これがナンセンスであることは、普通に考えれば自明だろう。しかし「雇用を作る」「雇用を守る」といった話では、このナンセンスと五十歩百歩の議論がなぜか通ってしまう。価値を生まない労働に給料を払うのは「ムダメシ」でしかないのに、「ムダメシ」でもいいから雇用を作れ、雇用を守れ、と主張されることは少なくない。

1に雇用、2に雇用」などといい、まるで雇用さえ確保されれば経済が成長するかのように考えているらしき菅首相は、このキューバの公務員50万人リストラをどう説明するのか。<国が雇用を保障する体制下で労働者の遅刻や早退が常態化しており、生産性向上は成果を上げていない>そうだが、クビ切りをせずに、こういう「タダ乗り」をどうやって解決できるのか。

社会保障やセーフティネットはもちろん重要だが、それは労働市場の「外側」でやるべきことだ。解雇を禁止したり、中身のない雇用を無理やり生み出したりして、労働市場の「内側」でそれをやろうとするから、労働市場が機能しなくなり、不公平が生じるのだ。

競争や市場原理そのものを否定するのは、運動会で「お手々つないでいっしょにゴール」をやるのと同じだ。競争や市場原理と、社会保障やセーフティネットは「別のもの」であって、役割が異なる。競争そのものをなくしてしまっては、成長ができなくなる。

競争や市場原理によって経済を成長させてこそ、社会保障やセーフティネットのコストも捻出できるのだ。いまの日本は、社会保障やセーフティネットをやるつもりで、競争や市場原理を封じ込めてしまっている。これは誤った社会設計であり、これでは社会保障やセーフティネットのコストも出せなくなるのだ。実際、日本はそうなりつつあると思う。


関連エントリ:
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http://mojix.org/2009/11/21/hitsuyou_sigoto